車での帰省で気になるのは燃費だ。燃費といえば、やっぱり日本のハイブリッド車が一番だというのが一般的な感覚かと思うのだが、実は、輸入車にも数こそ少ないもののハイブリッド車の選択肢があることをご存じだろうか。
輸入車勢が「ハイブリッド車」と言う場合、そのクルマは「プラグインハイブリッド車」(PHEV、外部から充電できるハイブリッド車)であることが多いのだが、フランスのルノーは、いわゆる「ハイブリッド車」(HV、フルハイブリッド車とかストロングハイブリッド車とも呼ばれる)を日本で販売している。輸入車としては超希少なHVの選択肢だ。では、実際のところ、ルノーのHVは燃費がいいのだろうか。小型車「ルーテシア」で東京~岡山の往復ロングドライブに出かけたので、その全記録をお伝えしよう。
フリーランスに春休みがやってきた
フリーランスで仕事を続ける筆者にとって、ちょっと長めの休暇を取る、というのは、いつでもできそうでいて、実はそうでもないともいえる。今回は、年度替わりで自動車メーカー各社の発表会や試乗会の日程が一瞬途切れた3月末~4月頭にかけての“空白期間”を利用し、5日間ほど個人的な“春休み”を取得。故郷の岡山に帰省してきた。
往復に使用したクルマは、個人所有の「ゴルフⅡ」(フォルクスワーゲン、1990年製)でも「W124」(メルセデス・ベンツ、1993年製)でもなく、ルノー・ジャポンから借り受けたフレンチフルハイブリッド「ルーテシア」。グレードは「E-TECHエンジニアード」だ。コンパクトなボディにスポーティーな走り、さらには25.2km/L(WLTCモード)という燃費性能を誇るモデルである。はたして、往復1,500kmのロングドライブでどんな数値を出してくれるのか……。そんな楽しみな気分とともに東京を出発した。
ルノーのフルハイブリッドシステムとは
最初に、ルーテシアが搭載するフルハイブリッドシステムがどんなものなのかを押さえておきたい。
搭載するのは最高出力91PS、最大トルク144Nmの自然吸気1.6L直列4気筒ガソリンエンジンだ。そこに49PS/205Nmの駆動用モーター、20PS/50Nmのスターターモーター&ジェネレーター、容量1.2kWhのリチウムイオン電池を組み合わせる。トランスミッションには、エンジン側に「F1」などでおなじみの「ドッグクラッチ」(4速)を採用。モーター側には2速の変速機を備える。
走る際のギアの状態には、エンジンだけで走る時の4速、モーターだけで走る時の2速、モーターとエンジンが協調した時の4×2=8速の合計14通りがある。そのうち2通りが同じギア比であるため、実際は12通りの変速モードを使用しながら走る。なかなかユニークなシステムだ。当然ながらオートマ車なので、自分でギアチェンジをする必要はない。
「ドッグクラッチ」というと、ギアがガツンと噛み合う時の音やショックが大きいことが懸念点なのだが、3年前のルーテシア日本導入時に試乗した際にはそれが全く感じられず、スムーズな走りっぷりを披露してくれたことを覚えている。
実際、スタートは必ずEV走行(EV=電気自動車のようにモーターだけで走る)で静かに始まり、滑らかかつ力強く加速する。30km/h~40km/hあたりで「ブーン」という微かな音が聞こえてきて、エンジンが始動したことがわかるのだが、ボディには振動やショックが全く伝わってこない。
もう少しスピードが上がると、エンジン+モーター走行とEV走行とを頻繁に切り替えながら走って、常に最適で効率の良いパワーを供給し続けてくれる。しかも、この時のアクセルレスポンスがとてもいい。ルノーのHVは、燃費だけでなく走りの良さも追求したハイブリッドシステムを積んでいるのである。
システム最高出力は140PS。同じルーテシアの1.3Lターボモデル(ガソリンエンジン車、131PS)が0-100km/h加速9.0秒、最高速度200km/hであるのに対し、HVは同9.9秒、180km/hだ。100kg以上重いハイブリッドボディがもたらす性能差が生まれている。
一方、同じフルハイブリッドシステムを搭載するSUV「アルカナ」と比べると、車体の小ささ、軽さ(-160kg)、ハイギアードに設定した変速レシオのおかげで、燃費性能はより高い25.2km/L(WLTCモード)となっている。
コンパクトで精悍! 魅力は燃費だけじゃない
日産自動車、三菱自動車工業と共用する「CMF-B」プラットフォームを採用したルーテシアのボディサイズは全長4,075mm、全幅1,725mm、全高1,470mm、ホイールベース2,585mm。いわゆる「Bセグメント」に位置するコンパクトな4ドアハッチバックボディだ。帰省先の岡山の実家付近には、古い民家や用水路、畑、水田に沿った狭く入り組んだ道路が多く、できれば大きなクルマで走るのは避けたいところ。小さなルーテシアはその点で全く心配がない。
E-TECHエンジニアードは2023年6月に日本に導入となったスポーティーバージョン。“金属感”のあるグレーメタリックのボディにゴールド(ルノーは「ウォームチタニウム」と呼ぶ)のフロントバンパーF1ブレード、ブリリアントブラックの「ロサンジュ」(ルノーのエンブレム)とフロントグリル、ブラックベースにウォームチタニウムのリア「E-TECH HYBRID」エンブレムなどがあしらわれている。
世界では人気の高い現行型ルーテシアだが、日本ではあまりお目にかかる機会が少ないモデルだけあって(日本では「ゴルフ」や「ポロ」に押されているのか……?)、登場から時間が経っているにも関わらず、いまだに新鮮なイメージをキープしているのがいいところ(フェイスリフト版はすでに発表済みだが未導入)。広報車としても人気が高いようで、東京出発時点でのオドメーターは1万7,872kmを示していた。
タッチパネル式のマルチメディア「EASY LINK」にはQi充電中のiPhoneがAppleCarPlayでつながるのでとても便利。外の空気を取り入れて豊かな低音を奏でるという「FreshAir Speaker」を備えたBOSEのサウンドシステム(標準装備)が良い音を鳴らしてくれるので、気持ち良いドライブが楽しめた
気になる実燃費は?
3月末の平日午前7時半、妻との2名乗車で岡山を目指して東京・国立市を出発したルーテシアは、新東名の120km/h区間では120km/h、その他100km/hや80km/hの区間ではその上限に「ACC」(アダプティブクルーズコントロール)の車速を設定し、ほぼ全区間を“半自動運転”で走行した。
「マイセンス」「エコ」「スポーツ」の3つあるドライブモードについては、「エコ」を選べば燃費が伸びるのは分かっていたのだが、遅いトラックなどを追い越す際にタラタラ走りたくないので、スタンダードの「マイセンス」のままにした。つまり、燃費を重視したエコ運転ではなく、普通のドライバーが普通に走るような走り方を続けて走行したわけだ。途中では遠州森町PA(新東名)と湾岸長島PA(伊勢湾岸道)で各1時間ずつたっぷりと休憩。岡山の実家(岡山市東区)には17時過ぎに無事到着した。
メーター表示を見てみると、642.3kmを走って平均速度はちょうど70.0km/h。そして平均燃費は3.7L/100kの表示だ。日本式に計算すると、なんと27.0km/L!! カタログ上の数字(25.2km/L)を上回る数値を叩き出しているではないか。しかも、残りの走行可能距離は250kmで、まだまだ先まで行けそう。足回りとシートの出来が良いので、疲れは全くなしだ。
岡山では、赤磐市にある“桃のガスタンク”をバックに写真を撮ったり、開花直前の桃畑(岡山名物の白桃の畑です)、裸祭りで有名な西大寺、児島湾にある四手網小屋、おめでたい名前の「万富」駅、地元に新しくできたパン屋さんやカフェなど、コンパクトなボディのおかげで狭い道路を気にすることもなく、懐かしさと新しさを求めてあちこち走り回った。おいしいものもたくさんあるのだが、絶品だったのは妻のお母さんが煮付けてくれた瀬戸内の近海物の「ゲタ」(舌平目のことです)と「赤メバル」だったのはいうまでもない。
帰路は滋賀県大津市の「石山寺」を訪ねたり、「ハーヴェスト浜名湖」で1泊して舘山寺のロープウェイに乗ったりしながら東京へ。5日間で1502.4kmを走行して平均速度は54.1km/h。平均燃費は3.9L/100km、つまり25.6km/L。相変わらず、カタログデータを上回る燃費の良さを見せつけてくれたルーテシアのストロングハイブリッドだった。
-
阪神高速~名神高速というルートを通ったのでお目にかかれないと思っていた1970年大阪万博の象徴である「太陽の塔」の姿を、ビルの隙間から妻の携帯はしっかりと捉えていてびっくり。今年は2回目の大阪万博が行われる