旧車の祭典「ノスタルジック2デイズ2025」の会場で、ベントレーのサルーン「ターボR」が展示・販売されていた。世の中が忘れつつあったベントレーという名を思い出させた“功労車”ともいえるターボRとは、どんなクルマだったのだろうか。
ベントレー復活の象徴?
ベントレーは1919年にウォルター・オーウェン・ベントレー氏が設立した自動車メーカーだ。レースで輝かしい成績を残していたが、1920年代になると経営状況が悪化。ロールス・ロイスが1931年に買収した。それ以降はロールス・ロイスと同じモデルにベントレーのエンブレムを付け、ロールス・ロイスをショーファードリブン(オーナーは自分で運転せず運転手に運転させる)として、一方のベントレーはオーナードリブン(オーナー自らが運転する)として売り分けた。その後、ロールス・ロイスは経営破綻し、ベントレーは1998年にフォルクスワーゲンに買収されることになる。
「ターボR」は1985年から1997年まで、つまり、ベントレーがフォルクスワーゲンに買収される直前まで生産されていたモデルだ。ファンの間では純粋なベントレー&ロールス・ロイスの血が通った最後のモデルなどともいわれ、ホンモノのベントレーを知るにはフォルクスワーゲン買収前のモデルに乗るべきという意見すらある。とはいっても、フォルクスワーゲン買収後のベントレーもまさにホンモノであり、その完成度の高さとブランドとしての快進撃は推して知るべしといったところだ。
ターボR最大のトピックは、ロールス・ロイスの販売台数を超えたことだろう。日本は当時、バブルの真っ盛り。正規店だけでなく、多くの自動車販売店がターボRを輸入・販売(並行輸入)し、定価を超える個体まであったという。ロールス・ロイスの知名度は今も昔も抜群だが、この当時、ベントレーというブランド名は世の中が忘れつつあった。しかし、ターボRの世界的なヒットによって、その名を世界中の自動車ファンが思い出すことになった。ベントレーを復活させるきっかけを作ったモデルであり、ターボRが果たした役割は非常に大きかったのではないだろうか。
手間のかかるラッカー塗装で深みを表現
1990年代のロールス・ロイスやベントレーを詳しく知る知人に話を聞いたところ、このクルマは「ラッカー塗装」で仕上げられているとのことだ。この当時は安価で手間をそれほどかけずに塗装できる「ウレタン塗装」が多かったそうだが、ターボRには手間も時間もかかるラッカー塗装を採用していたという。何度も手吹きで塗る手法であるため、深みと艶のあるボディに仕上がるというわけだ。
写真では伝わりきらないかもしれないが、このターボRはベントレーのコーポレートカラーでもあるグリーンが奥深くから光を放っているような艶で覆われていた。
エンジンはベントレーお決まりの6,747ccのV型8気筒OHV。前述の知人によると、野太いエンジン音が静かに唸りながら、揺れを乗員に感じさせることなく平滑に走り出すという。しかしアクセルを踏み込めば堂々と、路面を這うように加速していくそうだ。オーナー自身がハンドルを握るオーナードリブンカーならではの仕上がりと言える。
内装は絢爛豪華の一言に尽きる。この個体は熟成されたワインのようなボルドーカラーの総革張り。しっとりとした手触りが全身を包みこんでくれそうだ。インパネや後席のテーブルには、「木目調」なんかではなくホンモノの木材を使用。すべてハンドメイドで設えられており、ぬくもりが感じられる。
今回、実車を間近で見て、本当に高級なものというのは、いつの時代になっても色褪せることがないということを改めて思い知らされた。しかし、さすがに製造から年数が経ってしまったためか、中古車の市場価格は驚くほど低い。それもあって大事に扱われなくなってしまい、程度の良い個体があまり残っていないのだそうだ。
ただ、程度が良い個体でもそこまで高くはなく、一般の会社員でも頑張れば手が届く価格で味わえるのは、買う側にとって嬉しいポイントだ。ランニングコストを考えると躊躇してしまうところだが、良質な中古車が手に入るうちに、一度は乗ってみたいと思う1台だ。