ネットで「独身税」というキーワードが話題になっています。2026年4月から開始する「子ども・子育て支援金」の負担を意味しているのですが、なぜ独身税と呼ばれているのでしょうか。今回は制度の概要に触れつつ、「独身税」と批判されている理由を解説します。
子ども・子育て支援金の概要
子ども・子育て支援金とは、少子化対策の財源に充当する目的でできた制度です。社会全体で子どもと子育て世帯を応援するため、児童手当拡充などにおける財源の一部に充当されます。
支援金に関してどれだけ負担をするかは、個々人の所得や世帯状況などによって異なります。こども家庭庁の試算によると、おおまかな目安として、令和10年度の負担は月額350円~500円です。 年間で4,200円~6,000円程度の負担が発生することになります。健康保険料に上乗せされる形で徴収されます。
毎月数百円でも、年間では数千円の負担となります。所得の少ない世帯にとって、負担は軽いものとはいえないでしょう。しかも、あくまで現段階での試算であり、将来はさらに増額される可能性もあります。
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子ども・子育て支援金に関する試算(こども家庭庁HPより引用https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/2013c0c1-d5f0-4555-920d-80d9428893be/a42ed1d6/20240904_policies_kodomokosodateshienkin_08.pdf)
なぜ独身税と批判されているのか
この制度が"独身税"だとして批判されている理由は、これから子どもを持つ予定のない人にも、負担が増える制度であるからです。
徴収されたお金は子ども・子育て支援金として、子どものいる世帯のみに支給されます。子どものいない世帯、子どもが大きくなった世帯は直接恩恵を受けられません。独身だけでなく、DINKSの人、すでに子育てを終了したシニア世代の人も、直接恩恵を受けることはありません。
しかも、この負担は年々増す可能性があります。直接的な恩恵の受けられない負担がどんどん増していく恐れがあることから、批判の声が寄せられているのです。
また、少子化改善には、20代・30代が安心して結婚・子育てできることが必要ですが、このような負担金が可処分所得を減らしてしまい、経済面の不安からますます子どもを持たなくなるのでは、という声もあります。
子どもを持つと、育児のために高い費用が必要になることは、若年世代も十分認識しています。子ども1人を大学卒業まで育て上げるには、かなり少ない場合でも1,000万円程度、多いと数千万円かかるため、「独身税」とは比べ物にならない費用負担です。
そのため筆者も、シングルが「独身税」を回避するために結婚・出産に向かうとは考えづらいと思います。
子どもがいない世帯の収入を上げたり、経済的な負担を軽減したりしないと、少子化を根本的に改善するのは難しいのではないでしょうか。
独身税は過去に他国で失敗している
ブルガリアでは1968年から1989年まで、未婚者に対する独身税が存在していました。税率は収入の5~10%です。しかし、結婚や出生に関して期待された効果は現れず、出生率は逆に低下してしまいました。
未婚者の負担を増やして経済的な不安を招いたことで、かえって結婚や出産を遠ざけてしまったのです。その後に独身税は撤廃されました。
ブルガリア以外にも独身税の導入事例はありますが、成功したケースはほとんどありません。
少子化を前提とした社会のありかたの再検討が必要
筆者の個人的な考えですが、日本の少子化はしばらく止められないと思われます。少子高齢化が進むことを前提に、日本社会のありかたそのものをデザインしなおす必要があるのではないでしょうか。現役世代が少なくなっていく状況で、どのように社会を回していくか、戦略を根本的に見直さなくてはなりません。
少子高齢化は日本が世界初ではありません。他国で少子高齢化に悩みながらも、社会や経済を維持しているケースはあります。それらを参考に、日本の今後の方針を決める必要があると思います。