「Q6 e-tron」はアウディ初となるヘッドライトの意匠を採用していたり、なぜか最も高性能なモデルが最も長い航続距離を備えていたりと、ちょっと不思議なところもある新型車だ。どんなクルマなのか、発表会を取材してきた。
ハイパワー版が最も長く走れる?
アウディが日本で展開しているSUV型BEVは「Q4 e-tron」と「Q8 e-tron」の2車種。Q6 e-tronはボディサイズ的に両モデルの中間に位置する新型車となる。Q8 e-tronについてはすでに生産終了となっているモデルなので、そのうち、Q6 e-tronがアウディのSUV型BEVで最も大きなモデルということになるはずだ。
Q6 e-tronはアウディがポルシェと共同開発したBEVプラットフォーム「PPE」を採用した新型車だ。ポルシェの「マカン」(BEVバージョン)は同じくPPEを採用する兄弟車という位置づけになる。
グレードは「Q6 e-tron」(839万円)、「Q6 e-tron quattro」(998万円)、「SQ6 e-tron」(1,320万円)の3種類だ。「Q6 e-tron」はリアにモーター1基を搭載する後輪駆動車(RWD)で、バッテリー総電力量83kWh、最高出力185kW、最大トルク450Nm、航続距離569kmという性能。「Q6 e-tron quattro」は前後に2基のモーターを搭載する「quattro」(クワトロ=4輪駆動)で、バッテリーは100kWh、性能は285kW/580Nm、航続距離は644kmとなる。
アウディではスポーティーなモデルの車名に「S」を付ける習わし。「SQ6 e-tron」は前後2基のモーターを搭載する4輪駆動で性能が360kW/580Nmにパワーアップする。バッテリー容量はQ6のクワトロと同じ100kWhだが、航続距離は672kmとQ6よりも長い。普通、ハイパワーなモデルは航続距離が短くなるものなのだが(大きなパワーを発揮すればより多くの電力を使うため)、Q6 e-tronについては最もハイパワーなモデルが最も長く走れるという状態になっている。なぜこうなったのかアウディジャパンの方に念のため聞いてみたのだが、その方も真相は不明といった感じだった。
ライバルになりそうなSUV型BEVはBMW「iX3」あたりかと思われる。メルセデス・ベンツでは「EQC」というクルマが販売終了になっているが、これの後継モデルが出てくれば、やはりQ6 e-tronの競合になるだろう。
EV普及はオセロゲーム? 日本の色が変わるのは…
日本ではBEVの普及が遅々として進まず、2024年も新車販売に占めるBEV比率は2%未満にとどまっているが、フォルクスワーゲン グループ ジャパン代表取締役社長でアウディ ブランド ディレクターを務めるマティアス・シェーパースさんは「個人的な」考えとして、「日本はBEVに最もふさわしい市場」だと捉えているという。なぜなら日本には「ドイツのようにアウトバーンがない」し、クルマの走行速度が全体として低いし、クルマでの移動距離も短いから、とのことだ。エンジン音のしない静かなBEVは、ご近所の手前もあって騒音問題に敏感な日本にぴったり、というのがシェーパースさんの考えらしい。
日本市場はBEV普及にとって、オセロゲームの最後の1枚(1マス?)のような存在だとシェーパースさん。中国市場はBEV化が鮮明で、これまで日本メーカーが得意としてきた東南アジア市場も徐々にBEV化が進んでおり、欧州を見ると、例えばドイツではBEV比率が20%を超える状況だそうだ。日本でBEV比率が飛躍的に伸びることは「ここ1~2年はない」とするシェーパースさんだが、国産メーカーが本格的にBEVを投入し始め、各社がキャンペーンを張るようになればBEVの普及は一気に進むというのが同氏の見立て。アウディとしては日本のプレミアム市場のBEV販売でNo.1のポジションを目指していく方針だ。