ボルボ初のEV(電気自動車)専用設計SUV「EX30」が日本に上陸したのは2023年の秋だった。しかしその後、欧州などが推進してきたEVシフトは停滞し、ボルボも軌道修正を発表した。そんな中で、EX30はどんな評価を受けているのか。新潟県で試乗会が行われたのを機に販売状況を調べてみた。
ボルボのEVはむしろ伸びている
欧州が推進してきたEVシフトの流れが、ここへきて停滞している。ユーザーの反応が政府の予想ほどではなかったことが大きいが、それを受けていくつかのブランドは「EV専業になる」というメッセージを修正してきている。
ボルボのそのひとつで、2030年までにすべての新車をEVにするという計画を進めていたものの、2024年9月には「2030年までに世界販売台数の90~100%をEVとプラグインハイブリッド車(PHEV)とし、残りはマイルドハイブリッド車(MHEV)を販売していく」という方針に転換した。
しかしボルボに関しては、EVがダメというわけではない。今年初めに発表された2024年の世界販売台数によると、EVのシェアは着実に伸びているからだ。
2024年の年間販売台数は2023年と比べ8%増の76万3,389台となり、世界販売台数の新記録を達成したという。そのうちEVは2023年比54%増の17万5,194台で、比率は2023年の16%から23%にアップしたそうだ。
その一役を担っているのが、ボルボ史上最小のSUVでもあるEVの「EX30」だ。日本では2024年2月にデリバリーが始まった。
日本でもそれなりに売れているEX30
ボルボの乗用車部門であるボルボ・カーズは現在、中国のジーリー(吉利)グループにあり、EX30も中国で作っている。そのためもあり価格は559万円で、EVながら日本で販売されているボルボでは最も安い部類に属する。
では、販売台数はどうか。インポーターのボルボ・カー・ジャパンによれば、2024年通年のEX30の国内の登録台数は1,701台とのことだった。ボルボ全車では約1.2万台だったので、15%弱を占めていることになる。
輸入EVといえば話題に上がることが多いのが中国のBYDだ。同社の我が国での昨年の販売台数は2,223台だが、こちらは3車種の合計である。1車種で約1,700台が売れたEX30はEVとしてはかなりのボリュームであり、それなりに支持を集めていると見ていいだろう。
魅力はやっぱり北欧デザイン
559万円という価格、全長4,235mm×全幅1,835mm×全高1,550mmというボディサイズは、輸入EVとしてはミニ「エースマンSE」、フィアット「600e」、ジープ「アベンジャー」などが近い。
同等のボディサイズを持つ輸入車としては、前出BYDの「ドルフィン」、韓国ヒョンデの「コナ」もある。ただし、この2台の価格はボルボよりもかなり安い。
このクラスの日本車のEVを探すと、デビューからけっこうな時間が経過した日産自動車「リーフ」しかない。この状況を踏まえると、中韓の2台はリーフに近い存在だと見ている。
もちろんボルボEX30も中国製だが、ボルボはスウェーデンのプレミアムブランドであり、比較対象は欧米ブランドのEVになると考えている。
この中でのEX30の強みは、やはり北欧デザインとなるだろう。
他のボルボよりノーズが短く、キャビンが長いプロポーションはフロントにエンジンがないEVならでは。それでいて、厚みを持たせたショルダーラインや頑丈そうなグリップ型ドアハンドルはボルボそのものだ。
フロントマスクは、エンジン車のボルボではグリルのあった位置をパネルとして、中央にロゴマークを置き、左右の角に北欧神話をモチーフにしたトールハンマー型ヘッドランプを置いた。しかも、レンズの中にハンマーを入れるのではなく、LEDでハンマーを描いてフロントマスクの隅に置き、そこから伸びる黒い枠が顔の輪郭を描いている。
ボルボらしさは受け継ぎつつ、EVにふさわしいモダンでクリーンな雰囲気も出している表現がすばらしい。
それ以上に好印象なのがインテリアだ。運転席の前はメーターがなく、ドライバーモニタリングシステムのセンサーだけ。ボルボではおなじみの縦長のセンターディスプレイに速度計などを一体化している。
インパネ奥の左右全幅にわたり、オーディオのスピーカーをサウンドバーとしてまとめていることも目立つ。パワーウインドーのスイッチもセンターコンソールに置いた。
おかげでドアトリムはすっきりしている。フローティングタイプのアームレスト兼グリップや大きなドアポケットなどは、こうしたレイアウトをいかした造形だ。しかも、電装系をボディ側に集約することで、配線や材料の量を減らし、リサイクルを容易にしたという目的もあるところが北欧らしい。
EVということでフロアはフラット。そのメリットをいかして、センターコンソールはリッドの付いたトレイの上に引き出し式のカップホルダーを内蔵したアームレストという2段構えとなる。
スマートフォンの非接触充電は、奥のホルダーに差し込んで立て掛けて行うタイプ。スペースを節約しつつ使いやすさに配慮した設計に感心する。
ミニ、フィアット、ジープといったライバルたちが明確なキャラクターを前面に押し出しているのに対して、EX30はエクステリアでボルボらしさを出しつつ、インテリアでは北欧デザイン独特の美しさと心地よさの融合でアピールするという、独自の演出があると感じた。車内にいると、クルマというよりIKEAやエレクトロラックスなど、同じスウェーデンの製品と共通するものを感じるのだ。
ではそのEX30、走りの面でも北欧らしさはあるのだろうか。今回は雪に覆われた新潟県で試すことができた。その模様は追って報告することにしたい。