トヨタ自動車「アルファード」の最上級豪華版「スペーシャスラウンジ」(Spacious Lounge)が想定以上の売れ行きを示しているという。全部で4席に座席数を絞り、広いリアシートに贅を尽くして工夫を盛り込んだアルファード豪華版の実物を見ながら、このクルマを手掛けたトヨタ車体に話を聞いてきた。
スペーシャスラウンジってどんなクルマ?
スペーシャスラウンジはアルファードの最上級グレード「エグゼクティブラウンジ」(Exective Lounge)をベースとするトヨタ車体の特別架装車。ハイブリッド車(E-Four=4輪駆動車)が1,272万円(ちなみにエグゼクティブラウンジのE-Fourは882万円)、プラグインハイブリッド車(PHEV、こちらもE-Four)が1,480万円(同1,065万円)という価格設定だ。念のため、スペーシャスラウンジはトヨタの販売店で「普通に」買えるクルマである。
アルファードのエグゼクティブラウンジは3列目シートを備えていて、ハイブリッド車なら7人、PHEVなら6人まで乗ることができる。一方のスペーシャスラウンジは3列目を排し、後席に特別な2席を配した4人乗り仕様だ。当然ながら2列目(後席)に座った際の広さは特筆もので、ベース車に比べ足元スペースは約420mmも拡大している。電動で前後の伸縮調整が可能なオットマンを展開すれば、極限までくつろいだ姿勢で移動することができるはず。4人乗りになったことで、アルファードのショーファーカーとしての価値がさらに高まっているのだ。
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リアシートには「上質なやすらぎをお届けする特別な2席」を用意したというのがトヨタ車体の説明。ヘッドレストには「後席で聞くと最もいい音になるよう専用のチューニングを施した」というスピーカーが仕込まれている。内装色は「ブラック」と「ニュートラルベージュ」から選べる
トヨタ車体の担当者に聞くと、同社ではアルファードの先代モデルで4人乗り仕様をトライアル的に製作し、計40台を東京限定で販売したことがあったそうだ。その際に顧客インタビューを行ったところ、ユーザーからの評価は非常に高かったという。使い方はいろいろで、例えば普段は企業の経営者がショーファーカーとして使用し、週末は家族でのお出かけにファミリーカーとして使うというケースもあったらしい。
アルファードの4人乗り仕様といえば、モデリスタがかつて販売した「ロイヤルラウンジ」というクルマがあった。ただ、こちらのクルマは前席と後席の間に隔壁(パーテーション)があって、前後席でコミュニケーションをとることが難しかった。その点、スペーシャスラウンジは前後席で容易に会話ができるし、必要であれば前席と後席の間に専用生地を使ったカーテンを取り付けることも可能だ。前後席の間に隔壁がないからこそ、ショーファーカーとしても使えるし普段使いもできる。ここがスペーシャスラウンジの大きな特徴となる。
ほかには「スペーシャスラウンジに乗ってキャンプに行きたい」というニーズもあるとトヨタ車体。クルマでキャンプといえば同じくトヨタ車体製の「ハイエース」が大人気だが、ハイエースよりもっとゆったりしていて、もっと乗り心地のいいスペーシャスラウンジに乗り換えたい、との声もあるとのことだ。後席足元の広いスペースにペット(のケージ)が載せられることも好評とのこと。確かに、ペットを荷室に「積む」のは忍びないし、足元に載せておくことができればすぐにお世話ができて便利だ。
意外すぎ! 最も苦労したのは洋服掛け?
トヨタ車体にスペーシャスラウンジのこだわりポイントを聞くと、「一番のアピールポイントは優しく包み込むようなシートなんですが、最も苦労したのは洋服掛けです」と意外な答えが。確かにラゲッジルームの高いところにハンガーを掛けられるバーが付いているが、なぜこの設備に苦労したのだろうか?
この「ラゲージ洋服掛け」という設備、ホームセンターなどで売っている銀色のピカピカした素材で作ってしまうとクルマの雰囲気を損なってしまう恐れがある。「高級なハンガー掛けって、見たことないじゃないですか? なので、何をベンチマークすればいいのか、どんなデザインにすればいいのか、そのあたりが悩ましいところでした」とトヨタ車体担当者は振り返る。結果として、「少しオーバークオリティな」洋服掛けを狙って作ったそうだ。
ハンガーを掛ける「位置」についてもかなり工夫したそう。というのも、あまり近すぎると、クルマが右左折したときにハンガー同士がぶつかってカチャカチャと音が鳴ってしまうし、取り付け場所が悪いとハンガーにかけた洋服がバックドアに挟まってしまう危険性があるからだ。ハンガーを掛ける位置については「設計との間で侃侃諤諤の議論がありました」とのことだった。
「ラゲージ洋服掛け」には後席から容易にアクセスできる。後席は広いから移動中に着替えを済ませることも可能だ。スペーシャスラウンジに乗るような人、例えば企業の経営者は、あさイチで自社工場にユニフォームで向かい、そのあとは取り引き先をジャケット着用で訪れ、午後には礼服で知人の結婚披露宴に出席する、といった感じの忙しい1日を過ごす場合がある。そんなとき、スペーシャスラウンジの後席は洋服掛け付きの広い控室のように使うことができるのだ。
スペーシャスラウンジの受注台数は?
スペーシャスラウンジには発売から2カ月足らずで約230台の受注が入ったとのこと。ニッチな乗り物なので月間30台くらいを想定していたそうだが、「ふたを開けてみたら反響が大きくて、ありがたい限りです」とトヨタ車体担当者は話していた。ちなみにHVとPHEVではHVが約8割の販売比率を占めているそうだ。
ショーファーカーといえばレクサス「LM」もあるし、トヨタなら「センチュリー」や「クラウン(セダン)」という選択肢もあるが、これらのクルマはちょっと特別すぎるというか、場合によっては目立ちすぎたり、周囲から羨望の目を集めすぎたり、へたをするとちょっと反感を買ってしまったりということすらあるだろう。その点、スペーシャスラウンジの見た目は普通のアルファードと(ほぼ)変わらない。いろいろなことを考え、各方面に気を配った結果として、LMでもセンチュリーでもなくスペーシャスラウンジを選ぶというVIPがいても、ちっとも不思議ではないのだ。それを裏付けるように、スペーシャスラウンジは地方でもけっこう売れているという。