これまでに紹介したホームシアターは、薄型テレビとサラウンドシステムを組み合わせたリビング向け。そのサラウンドシステムはAVアンプを使うことから、ディスプレイをもう少し大きくしても不都合はなく、具体的に述べれば、ホームシアターの最終目標である「スクリーンシステム」にも応用が効くほどの性能があった。特に2回目で紹介した「システムプラン6.1」を利用するなら、スクリーンを用いた大きな部屋でのシアター作りも期待できる。

と言うことで、ここでは少し大きなディスプレイを想定したホームシアターであるスクリーンシステムを考えてみよう。スクリーンシステムの狙いは大きなディスプレイを設けることにある。大型化してきた薄型テレビといえども、価格面から80インチや100インチというわけには行かない。プラズマの103型なども発売されているが、かなり非現実的である。一般家庭の床の作りでは重量を支えることも難しく、補強しなければセットできない。また、ライバルの液晶テレビもまだ現実的でなく、プラズマと同様に重さや消費電力がネックとなる。

では、その他に候補になるものがないのか? と見回すと、身近ではPTV(リアプロ)が候補にあがってくる。これは背面投写型のスクリーン一体型テレビというもの。すでに50インチから80インチ程度が発売されている。透過型スクリーンとキャビネット、それに投写エンジンで構成されるPTVは、原理の上からも透過型スクリーンサイズを自由に選べるため、容易に大画面化することができ、コスト的にも大きな負担にならない。PTVの投写エンジン部には、反射型液晶パネルを使ったソニー、日本ビクターといった2社のモデルが代表的で、数モデルが店頭に並んでいる。画面サイズも50~70インチと大きく、表示パネルをフルHD化した高画質版もあり、画面サイズが大きい割に価格も安いといった特徴もある。

ソニー 60V型SXRDプロジェクションテレビ〈ブラビア〉A2500シリーズ KDS-60A2500

ただし、弱点はキャビネットの大きさ、重量、それに視野角があること。表示スクリーンが透過型なので外光が当たらないよう遮断する必要があるほか、セットしやすいようにとキャビネット一体型が主であるが、これが重量という弱点を生み出すのだ。

このようなことから、薄型テレビもPTVもやや中途半端とするホームシアターファンが出てくるのである。と言うことで、次に狙うのはスクリーンシステムだ。スクリーンシステムはホームシアターファンの憧れ、「家庭に映画館を」と、映画ファンやスポーツファンの究極的なシステムに君臨することになる。

さて、スクリーンシステムの良さとは何か? それは迫力、臨場感のある大画面が得られること。薄型テレビなどの50インチ前後と比べられないほど大きな80~100インチは、面積でほぼ4倍と、その映像が発揮する迫力感、臨場感はまず比較にならない。わかりやすくいえば「映像の実在感が生まれる」こと。

映画やドラマで描かれる室内、また屋外シーンの、それら映像が描く物体などが、ほぼ見た目の大きさでスクリーンに描かれるという世界なのだ。言葉ではなかなか証明するのも難しいが、実際に100インチスクリーンを体験してみれば、これを容易に理解できるはずだ。

これを称し「実体験に近くなる」と言う。映像に臨場感が増し、映画館で体験するように、描かれた映像全体を一塊の画面として見ていたものから、画面の中に自分が入り込み、周辺まで見回しながらストーリーを追えるようになる。これにより、制作者の狙いや思いにも入り込めるようになる。

こうした臨場感に加えて増すのが情報量で、それがまた大画面化をする魅力の1つである。地デジやBSデジタルのハイビジョンソースは、もともとこうした大画面を狙いに創っているもので、映画も映画館の大スクリーンで表現することをベースにして作られている。そこには制作者の狙いが映像を通して表現され、それを開放することこそがスクリーンシステムを入れる主な狙いである。

したがって、制作者の狙いより画面サイズが小さくては一種ねじ曲げた鑑賞法になり、入念に考えて作られている映像メッセージを省略していると言えるのだ。またスクリーンの大画面化では目の移動感が出てきて、それが迫力のある臨場感につながり、さらに光の動きや方向性などが敏感にわかるようになるものだ。その結果、映像から立体感なども感じるようになる。映像を消してしまえば1枚のスクリーンがそこにあるだけだが、映像を映すと一瞬にして実在感を伴った世界が表現される様は、スクリーンシステムをセットした人でないと味わえない魅惑の世界である。

さて、スクリーンシステムは、スクリーンはともかく映像を投写するプロジェクターが要るものだ。プロジェクターとは映像の拡大投写器のこと。映し出す機材は液晶式、DLP式、LCOS式と複数の方式がある。いま手軽なプロジェクターと言えば、30万円前後の液晶式とDLP式の2つ。いずれもハイビジョン表示も可能なモデルが増えている。それがフルHDタイプと言うが、その他、HD対応という少し画素数の少ないモデルもある。ちなみにDVDソフトなど映画鑑賞が中心ならば、HD対応の普及版モデルで十分な高画質が手に入る。

その候補としては、パナソニックのTH-AX100、三洋電機のLP-Z5、そして三菱電機のLVP-HC3100であろう。映画観賞用に作られたこれらのプロジェクターは、100インチでも質感に優れた映像の描写力で満足できるものだ。それぞれ方式の違いによる特性があり、映画もスポーツもというさまざまな使い方では液晶式を、映画に特化して使用ということであればDLP式をお薦めする。

パナソニック TH-AX100

三洋電機 LP-Z5

三菱電機 LVP-HC3100

上級モデルでは、日本ビクターのDLA-HD1がお薦めだ。ハイビジョンソースをリアル表示できるフルHDパネル(画素数: 1,920×1,080ドット、RGBの3板式)の採用、しかも液晶反射型のD-ILAパネルで、非常に緻密な画質性能を備えているからだ。このパネルの良さは画素間で見られるグリッドと称する境目がなく、映像のつながりがスムーズ。緻密さが求められるフィルム映像の質感描写性にプラスに働いている。

日本ビクター DLA-HD1

同社は長年にわたって液晶反射型のD-ILAパネルに取り組み、数々のプロ用からホームシアター用プロジェクター、またリアプロを製品化してきた実績を持つ。DLA-HD1はそのパネルに新しいワイヤーグリッド型の光学選択パーツを組み合わせることで、これまでにないハイコントラスト化を達成、カタログ値 15,000:1という性能を獲得し注目される。

フルHDパネルによるハイビジョン表示の素晴らしさは、このハイコントラストがあってこそ生かされる。本格的なホームシアター環境を作り上げ、そこにDLA-HD1を導入するならば、まさに映画館を超えた質感の豊かさや鮮明さ、色も豊かなシアター世界が生まれるであろう。映画の表現で必要とされる暗部側の階調性の良さはDLA-HD1ならではの醍醐味のある魅惑の世界。この性能でこの価格、これはハイC/Pであり、このモデルのまた1つの特徴である。

プロジェクターは映像を表示させるためのスクリーンも必要だ。映画館的な優れた質感を求めるならマット系で、しっとりした画質のスクリーンを選びたい。その候補はキクチ「スタイリスト ホワイトマットアドバンス(WA)」、オーエス「ピュアマット2プラス」、イズミ「IS-E100HD」など。なお、リビングシアターといって、照明下で鑑賞することもあると言う人はマット系よりもビーズ系の少し反射率の高いスクリーンのほうが明るく見られて好ましい。例を挙げればキクチ「シアターグレイアドバンス」などだ。

キクチ スタイリスト ホワイトマットアドバンス

オーエス ピュアマット2プラス

イズミ IS-Eシリーズ

室内照明はスクリーンシステムには大敵になる。したがって、照明はできるだけ消すほうが好ましく、リビングシアター的な間接照明をつけた使い方では、ダウンライトなどにしてスクリーンに直接光が当たらないように工夫すべきだ。プロジェクターの使用時は、足元などを照らすような照明の工夫、加えてあまり明るくしないなどを考えたい。なお、シアタールームの照明には、白熱灯などの黄色系の光りのほうが好ましく、蛍光灯のような(3波長型は別として)日中系の白色に近い照明は明るすぎるほか、気持ちも落ち着かないので避けたいところ。このような光りの色具合を色温度と称しているが、白熱灯などは黄色系のランプで色温度が低めと目に優しい。また、調光といってスイッチで明るさが加減できるものが使いやすく、雰囲気も作りやすいのでお薦めである。