• ケは鍵盤のケ

KVMというと何を想像されるだろうか? KVMとは、Keyboard、Video、Mouseの略だ。俗にいうPC切り替え器などを「KVMスイッチャー(switcher)」という。Videoは、ディスプレイモニターの意味。

現在ではLinuxのKernel Virtual Machineの略、と思われる方のほうが多いかもしれない(運動エネルギーの式を思い出した)。KVMスイッチャーは、複数のコンピュータを一組のキーボード、マウス、モニターで管理するために作られた。最初はビデオ信号切り替え器「ビデオスイッチャー」にキーボード切り替え機能を追加して、「キーボード・ビデオスイッチャー」が作られたのだろう。これが、IT業界で普及したあと、マウスが追加されたためKVMという順番になったと想像する。マウスは1960年台の発明だが、普及したのはGUIが普及し始める1980年台である。

その後、IBM PC-AT互換機が普及すると、PC系のハードウェアは、コネクタがPS/2とVGAに統一されたため一般消費者向け製品になるほど価格が低下した。業務用ではブレードサーバーなど、多数のコンピュータが1つのラックに入るようになると、ソフトウェアを使ったリモートディスプレイなどが広く使われるようになる。ただし、リモートデスクトップは、オペレーティングシステムに依存するため、複数のプラットフォームが混在する環境では使いにくく、OSに依存しないハードウェアのKVMスイッチャーもいまだに使われている。

ディスプレイモニターが液晶ディスプレイに切り替わると、複数のモニターを同時利用することが比較的簡単にできるようになった。CRTに比べると軽量であるためモニターアームで多数のディスプレイモニターを同時に使うこともできる。モニターアームなどを取り付けるマウント部分を標準化されたのも大きな理由だ。これは、FDMI(Flat Display Mounting Interface)と呼ばれ、俗にVESA(Video Electronics Standards Association。ベサと読む)マウントというが、要するにネジ穴の位置が一定になった。1つのモニターに複数のディスプレイ入力を持つものを少なくない。いわばビデオスイッチャー付きのモニターだ。

ソフトウェアKVMで複数PCを操作する

ソフトウェアによるKVMスイッチャーをソフトウェアKVMと呼ぶことがある。狭義にはリモートデスクトップやVNCのようにリモートマシンのディスプレイ表示、キーボード、マウス接続を可能にするものだが、広義にはキーボードとマウスの共有のみのものが含まれる。これはどちらかというとUSB切り替え機のソフトウェア版とも言えるが、キーボードとマウスのみに特化している。ディスプレイは複数配置、複数入力が可能になった。しかし、キーボードとマウスの複数利用は面倒だ。

筆者も、仕事で複数のPCを常時利用している。Windowsの複数バージョンやプレビュー版、英語版、日本語版を動かす必要があり、Windowsだけで10台程度が動いている。仮想マシンという手もあるが、アップデートが頻繁すぎて常時起動していないと追いつかない。しかし、仮想マシンを10個も起動するとなると、かなりスペックの高いマシンが必要になってしまう。それよりも、古いラップトップを使い回し、安価なタブレットを買ったほうが安上がりで管理も楽だ。

こうしたPCに、それぞれキーボードやマウスをつなぐのは場所を取る。一部ラップトップもあるのだが、同じJIS配列でもカーソルキーの形状や位置、PrintScreenキー(スクリーンショットに利用するが、Fnキーの組み合わせを使うラップトップが多い)などが微妙に多少違うため、複数のラップトップキーボードを同時に使うのは、ちょっとストレスがたまる。

筆者は、こうした多数のPCを操作するのにInput DirectorというソフトウェアKVMを使っている。同様のソフトは、いくつかあるが、調べた範囲では、これが筆者の目的、使い方に合っていた。ただし、他のKVMソフトウェアも使い込んだわけではなく、必ずしも誰にでもお勧めできるベストだとは言い切れないところもある。

Input Director(写真01)は、ネットワークを使って他のPCを制御する。モニター数やPC数に制限がない。その他、マクロの記録、再生機能などもあるのだが、筆者は使っていない。なお、個人の非商業利用に関しては無料となっている。

  • 写真01: Input Directorでは、PCの配置やマスターとなるPCのディスプレイ配置などを設定することで、カーソルがデスクトップをはみ出したとき、隣のマシンに制御が移るように設定できる

Input Directorでは、マウスがデスクトップをはみ出したときおよび、ホットキーを押したときに制御が他のPCに切り替わる。ホットキーはPCごとに割り当て可能なため、キーでPCを次々と切り替えていくことができる。また、PC間でクリップボードを共有できるため、PC間でのカット&ペーストも簡単に行える。

デメリットもないわけではない。対象マシンすべてに同一バージョンのInput Directorをインストールしなければならないため、アップグレードがちょっと面倒だ。昨年は3回、今年は2回のアップデートがあった。Windows版のみなので他のOSのマシンは制御できない。

バージョンにもよるのだが、ときどきPCが切り替わらないことがある。マスター側でInput Directorの有効化、無効化を切り替えるとたいてい直る。なお、仮想マシン用のネットワークアダプタを間違えて通信用に使ってしまうことがあるが、設定で、ネットワークアダプターを指定すればよい。

同時に使うPCが3台以上あるならソフトウェアKVMを導入することで作業が効率的になる可能性がある。今回紹介したInput Director以外にも、Logicool製品向けのFlowやMicrosoftのMouse without bordersなどがあるので、検討してみるといいだろう。

・Input Director
https://www.InputDirector.com/
・Mouse Without Borders
https://www.microsoft.com/en-us/garage/wall-of-fame/mouse-without-borders/
・Logicool Flow ※Logicool製品専用
https://www.logicool.co.jp/ja-jp/product/options/page/flow-multi-device-control