• SWIFT REMOVALS

トラックボールは1974年に開発された。マウス(1967年)よりも先に作られたが、軍用機器の一部であったため、民生機器になるまでに時間がかかった。筆者が初めて触ったトラックボールは、1980年のアーケードゲーム「ミサイルコマンド」である。

マウスはMS-DOS時代の1982年に登場したマイクロソフトマウスなどが初期のもの。これに対して、PC用トラックボールは1989年にKensington Expert Mouseや、Logitech Trackmanなどが初期の製品となる。マイクロソフトも1991年にラップトップに装着できるBallPoint Mouseを出している。

Windows 1.01が出荷されたのは1985年なので、Windowsの普及とともにマウスも普及し、その中で差別化できる商品としてトラックボールが登場したのだと思われる。かつては、トラックボールを組み込んだラップトップもあったが、機構的に厚みを薄くできないため、いまでは見かけなくなった。

トラックボールには、親指や人差し指、中指(あるいは手のひら)、人差し指と親指の同時使用といった複数の構造がある。最近のトラックボールは光学式でマウスとセンサー部は同じものが多い。マウスをひっくり返して、ボールをセンサー部に乗せて回転させるとカーソルが動く。

トラックボールに切り替えて2年ほどたつが、最近、トラックボールを操作する側に肩凝りを感じるようになった。これが気になったので、キーボードの手前にトラックボールを置けないか、検討することにした。

キーボードと一体になった製品は入手は可能ではある。どこにでもある製品ではないので、通販だとキー配列は写真でわかるが打鍵感など品質がわからない。とはいえ、現在使っているREALFORCE R3(過去記事参照)を上回るとも思えず購入はしていない。単体のタッチパッドをキーボード手前に置きノートPCのようにするという考えもあるが、筆者はタッチバッドが苦手で、できれば使いたくない。

まずは、人差し指操作のトラックボール(ボールが上向きに配置されている)をキーボードの手前に置いてみることにした。トラックボール自体に高さがあるので、キーボードやパームレストをかさ上げする必要があり少し違和感がある。

次にトラックボールをバラして、ボールの位置をできるだけ低くなるように組み直してみた(写真01)。結論からいうと、市販のトラックボールを組み直す方法では、指の動きが自然でなく満足できなかった。とはいえ、手をホームポジションから動かさずにカーソルを動かし、ホィールを使えるという利便性は高かったのも事実。

  • 写真01: キーボード手前に置けるようにトラックボールを分解して再配置してみた。電子工作としてはボタンやホィールをビニール線で引き出した程度。半日もかからなかったが、ほとんどは部品の保持やボタンなどの機構部分。工作がしやすく、堅さもある1ミリのPP板を使った。ホィールはできるだけキーボードに近づけたい。左右ボタンもキーボード手前に置きたいが、高すぎるとキーを押す指に当たる。また、ストロークは短くしないと使いにくい。このため条件を満たす押しボタンスイッチがなく、マイクロスイッチとPP板で押しボタンを構成した

実際に使ってみると、いろいろなことが分かった。キーボードのホームポジションに手を置いているとき、親指で操作可能な範囲は、キーボード最下段のキートップと同じ高さからプラス1センチぐらいまでで、それ以上高くなると、トラックボールを操作する親指を動かすときに意識して動かす必要がある。親指は人差し指よりも低い位置にあるのが普通だからだ。

キーボードのホームポジションに指を置いたまま、親指を持ち上げると他の指がわずかに下がる。このため、キーボードのストロークが短いと打鍵してしまう。利用していたREALFORCE R3には、入力位置(アクチュエーションポイント)を調整できる機能があり、2.2ミリ以上にしないと誤打鍵が発生した(筆者の設定は0.8ミリだった)。

このことを考えると、トラックボールのベストな高さは机天板から3~4センチ以下となる(ほぼ最下段のキートップの位置)。ボールは光学式センサーに対して縦横に回転する必要がある。センサーはボールの底部付近に置かねばならず、側面に配置することはできない。トラックボールの高さは、センサー部とボール直径を合わせたものになる。なので、現在よりもボール頂点の高さを下げるにはボールを小さくせざるを得ない。トラックボールのボールは、25/35/55ミリに集約されていてボール単体での入手は不可能ではない。しかし、ボールの保持機構はボールサイズに合わせたものが必要になる。ボールの保持機構は、ボールが飛びださないように正確に半球よりわずかに大きくする必要があり、内部に耐摩耗性の高い素材などを配置して滑らかに動かせるようにしなければならず、ゼロからの自作は少し敷居が高い。

市販のトラックボールを改良するのは難しくなかったが、ボールサイズやセンサー位置を変更することはできず、ゼロから作る必要があるようだ。という結論が分かった頃、肩凝りの原因も判明した。座る位置が浅くなっていて、以前よりも肩の位置が下がっていたのだ。上下に配置したモニターの位置関係で気がついた。どうも座面に置いた敷物が良くなかったらしい。姿勢を良くしたら肩凝りは消えた。

今回のネタは、片仮名のトラックつながりで貨物自動車のTruck。1967年の英国のテレビドラマ“Captain Scarlet”は“Thunderbirds”に続く「人形劇」。劇中登場する特殊車両「Spectrum Pursuit Vehicle」(S.P.V.。国内放映時は追跡戦闘車)は、世界各地のガソリンスタンドや自動車工場に偽装したステーションに配置されている。初回放送では“SWIFT REMOVALS”と書かれたトラックの中に隠されていた。