元祖・人工知能はいまもMacに

Macのデスクトップ右上付近に常駐している「Siri」。ボイスコマンドの受付係にしてmacOSにおける人工知能担当という彼/彼女だが、そのポジションに落ち着いたのはmacOS Sierraのとき。だいぶ前からそこにあるうような気もするが、登場したのは2016年だから、わずか2年数カ月前のこと。iOSではそれより5年以上前に実装されていたから、記憶がないまぜになってしまったのだろう。

だから人工知能、AI(Artificial Intelligence)と聞けばSiriを連想するMacユーザが多いのも無理はないが、実のところmacOSには登場当初のCheetahの頃から人工知能が搭載されている。「ELIZA(イライザ)」だ。

ELIZAは自然言語処理プログラムの一種で、1960年代にMITの故Joseph Weizenbaum氏が開発したものを原型にする。その後LISPに移植され、テキストエディタEmacsに標準装備されるようになった(doctor.el)。macOS Mojaveの現在も、Terminalからemacsを起動し、「M-x doctor(ESC x doctor)」を実行すればELIZAを試すことができる。かなり強引な言い方になるが、Siriが登場する以前からMacには人工知能が存在したのだ。

  • あのイライザは、macOS Mojaveの現在もEmacsで健在だった

ただし、ELIZAは人工知能というより「人工無能」。入力された文章の意味を理解しているわけではなく、空相手/自身の発言も記憶せず、基本的にはパターンマッチングしか行われないため"キャッチボール"が成立しない。対話ではあるが会話ではなく、そこに学習効果は期待できない。

ところで、SiriにELIZAのことを尋ねると、私の友人で優秀な精神科医だったが引退している旨の返答がある。いやいや、彼女はいまも現役、しかも足下のMacで働いているよ...Terminalの中、さらにEmacsの中だけれど。

  • ELIZAはSiriにリスペクトされている!?

Siriは「チャットボット」だった!?

SiriはAIと機械学習という2つの側面から語られがちだが、「ボット(bot)」としての性格を併せ持つ。botとは、名前を「Robot」に由来する作業を自動化するプログラムのことだが、最近ではインタラクティブ性を持たせた「チャットボット」に応用されている。このチャットボットは、ユーザからの問い合わせを減らしたい企業のニーズとマッチするため、スマートフォンアプリでの採用事例が急速に増えている。

見方によっては、Siriも広義のチャットボットといえるだろう。受け答えはパターン化されているし、話し言葉の代わりに文字でやり取りすることもできるからだ。毎回ほぼ同じ返事があることからすれば、Siriは洗練されたチャットボットといえるだろう。

macOSでSiriを確実にチャットボット化するには、システム環境設定「アクセシビリティ」パネルの「Siri」項にある「"Siriにタイプ入力"を有効にする」をチェックすればOK。これで、Siriを起動したときに現れるダイアログにキーボードから文字入力できるようになる。なお、Dockから起動した場合ダイアログをタップしないとキー入力できない(フォーカスされていない)ため、面倒でもメニューエクストラのSiriアイコンをクリックして起動することが正解だ。

  • 横浜市のゴミ分別アプリには、チャットボットの機能が搭載されている

  • Siriをチャットボット化(?)してみる

チャットボット化したSiriでできることは、話し言葉のときと同じだが、テキストベースだからやりやすいこともある。かな/漢字と英数字が混在した言葉を伝えやすいことは、そのひとつだろう。Mac版Siriはシステム情報をサポートするため、「搭載しているCPU」や「OSのバージョン」といった質問に答えてくれるが、このような用語は口でいうよりキー入力したほうがミスは少ない。

過去の日付を伝えるときも、口頭より文字のほうがいい。iOS版とは異なり、Macの「カレンダー」は過去のイベントデータすべてをローカルに置いているため(iOS版の初期値は1カ月前まで)、10年以上前のスケジュールでもすぐに調べられるが、Siriに「2008年1月10日の予定は」などと口でいうより「2008/1/10の予定」とタイプしたほうが確実だ。

計算もチャットボット化されたSiriの得意技だ。たとえば、「416*34+9989+124」という計算式を口頭でSiriに伝えるのは厄介な仕事だが、キー入力ならどうということもないレベル。数式をコピー&ペーストすることもできるので、正確性の観点ではむしろ口頭で伝えることを避けたいくらい。重宝すること請け合いの機能だ。

  • アルファベット混じりの命令も、キー入力なら確実だ

  • 計算はチャットボット化されたSiriの得意技だ