MVNOとしてモバイル通信事業「イオンモバイル」を展開しているイオンリテールは、2026年にサービス提供開始から10周年を迎える。現在では解約率が大幅に低減し、他のMVNOでは獲得が難しい60代以上の支持を得るなど、好調な様子を見せているが、更なる顧客獲得に向け今後どのような取り組みを強化しようとしているのだろうか。
解約率は携帯大手並み、60代以上の利用も増加
異業種からの参入が相次ぎ事業者数の拡大が続いているMVNO。そのMVNOが「格安スマホ」として注目される契機を作ったのが、スーパーマーケットの「イオン」でいち早く、MVNOのSIMとスマートフォンをセットで販売したイオンリテールである。
そのイオンリテールが、2016年にMVNOとなって「イオンモバイル」のサービスを提供開始してから、今年で10周年を迎える。それにあたって同社は2026年3月16日に記念イベントを実施し、イオンモバイルの利用者の傾向変化と今後の成長に向けた取り組みについて、イオンモバイル商品統括マネージャーの井原龍二氏が説明した。
井原氏によると、イオンモバイルの契約数は競争激化で純減を記録した2021年以降、緩やかに成長を続け回復基調にあるというが、注目されるのは解約率である。イオンモバイルの2025年10月から2026年2月までの解約率は1.19%と、携帯大手に匹敵する水準にまで低下しており、井原氏は「低い解約率こそが顧客の満足度、信頼の証」と自信を見せる。
そのイオンモバイルの利用をけん引する存在となっているのが、家族間でデータ通信量を分け合うシェアプランだ。シェアプランは同じ通信量を別々に契約するよりも安いことから人気が高まっているそうで、その構成比や2026年2月末時点で44%に拡大しているとのこと。ユーザーが利用する通信量も大容量化の傾向が強まっており、2026年2月末時点では平均容量が8.7GBに増加しているほか、20GB以上のシェアプラン契約数も24.7%に増加しているという。
そしてもう1つ、特徴的な変化となるのが年齢構成で、井原氏によるとイオンモバイルでは60代以上が急速に伸びているとのこと。2027年3月末時点では18%程度だったのが、2026年2月末時点では37.9%と大きな比率を占めるようになった。
シニアに弱いとされるMVNOの中で、60代以上の利用者をそれだけ獲得できていることは相当異例なのだが、その理由について井原氏は、やはり同社が実店舗を持ち、対面でサポートができる安心感を提供できていることを挙げている。これは低コスト重視で、契約やサポートをオンラインに絞っている大半のMVNOには真似ができないものだけに、イオンモバイルとしてもその強みを存分に生かすサービスの提供に力を入れていく方針のようだ。
その1つとして2026年上期には、「オンライン申し込み&店舗受取サービス」を開始する予定とのこと。契約の申し込みはいつでも手続きができるオンラインで実施しつつ、スマートフォンの受け取りや契約の確認はイオンの店舗で実施することにより、利便性と安心感の両立を実現することで顧客獲得の強化を進めたい考えのようだ。
グループのサービスとの連携で「イオン生活圏」に取り込む
他にもイオンモバイルは、顧客獲得や利便性の向上に向けた取り組みをいくつか打ち出しており、その1つとなるのが2026年3月26日より提供開始するイオンモバイル公式アプリである。
その具体的な機能としては、1つに未契約者に向けた新規契約への対応が挙げられる。2026年4月1日に携帯電話不正利用防止法が改正されるのに合わせてICカードの読み取りに対応したほか、契約の煩雑な手続きを解消するためアプリ上で気軽に対話しながら契約できる手続き方法を提供するという。
それに加えて、ユーザーの契約・利用状況などを管理する「マイページ」機能もアプリ化。これにより各種手続きの操作性向上が図られるほか、新たにウィジェットへの対応、そしてAIチャットによるプランの見直しやサポート等ができる機能なども、今後追加される予定だ。井原氏はこのアプリを「デジタル戦略の核になるもの」としており、今後も継続的に強化していく方針のようだ。
そしてもう1つ、イオンモバイルが顧客獲得に向け強化を図っているのが「イオン生活圏」との連携である。これは要するに、イオンのグループ各社が提供するサービスと、イオンモバイルを連携することで顧客の契約拡大や解約防止につなげる、いわゆる経済圏ビジネスの一環といえるもの。具体的にはクレジットカードや住宅ローンなどの金融・決済サービスと連携しての割引、あるいはイオン株主向けの優待割引などが挙げられる。
イオン生活圏との連携は2023年頃から開始しているが、2025年度の純増数のうち81.6%はイオン生活圏と連携しているとのこと。それに加えてイオン生活圏連携者は解約率が1%を切るなど非常に低く、井原氏も「点で売るのではなく、生活インフラの一部として提供する戦略が結実している」と、大きな効果を発揮している様子を見せている。
そうしたことから、イオンモバイルでは連携施策を強化する方針を打ち出しており、2026年3月にはイオンフィナンシャルサービスが提供するクレジットカード「イオンゴールドカード」で、イオンモバイルの月額料金を支払うことで5%の割引が適用される「イオンゴールド割」を開始。株主優待による5%割引や、ゴールドカード特典による「WAONポイント」の2.5%還元も合わせると、実質的に12%引きとなるため非常にお得になるとのことだ。
ただ、イオン経済圏の実現には苦労もあったようだ。井原氏はイオン生活圏との連携に関して、イオンモバイルのサービス開始当初から考えはあったというが、これまではイオンモバイル自体の事業規模が小さく、グループ内の他の事業からは「あまり相手にしてもらえなえなかった」とのこと。だがイオンモバイルの契約数が増え、事業の認知度も向上してきたことで、ようやく強固な連携ができるようになったという。
それゆえ井原氏は、今後さらにイオン生活圏との連携を強化し、新規契約の獲得だけでなく、既存契約者にも利用を広げイオングループのロイヤルカスタマーへと育てていきたい考えを示している。イオンモバイル契約者全体でいえば、イオン生活圏のユーザーは52.6%と半分程度にとどまるだけに、井原氏はこれを70%、80%にまで上げていきた考えのようだ。
ただイオンモバイルがイオン生活圏との連携で事業を強化する上で、大きな課題となってくるのがが、携帯4社が既に強固な経済圏ビジネスを展開していることだ。MVNOはこれまで、携帯大手から顧客を奪って成長してきた経緯があるが、最近ではその携帯4社が経済圏ビジネスを大幅に強化し、4社から流出する顧客自体が減少傾向にある。
それだけに井原氏は、イオンモバイルの価格面でのメリットだけでなく、他のMVNOにはない実店舗を持つことを生かし、店頭での手続きやサポートができることで乗り換えに不安を抱く消費者に安心感を与え、ハードルを下げることで契約を増やしていきたい考えを示している。
最近では異業種がMVNOに参入するケースも増えているが、イオンモバイルは10年間サービスを提供し、全国に店舗とスタッフを持ち実績を積み重ねてきた実績がある。ただそれでもイオンモバイルの契約数は100万に満たず、MVNOの大手と言えない実情もあるだけに、今後は他のMVNOにはないイオンならではのスケールメリットを、明確に契約へとつなげていくことが、より強く求められることになりそうだ。






