ソフトバンクは2024年6月6日、オンライン専用ブランド「LINEMO」の新料金プラン「LINEMOベストプラン」「LINEMOベストプランV」を発表した。通信量に応じて料金が変化する仕組みを導入するなど楽天モバイルを意識した内容との声も多いが、LINEMOベストプランVには音声通話定額が標準付属するなど、軌道修正が図られている部分もある。一体なぜだろうか。
楽天モバイルのような段階制を導入
店舗でのサポートをなくすことで大幅な低価格を実現したオンライン専用プランは、2021年に携帯3社から相次いで大きな話題となった。その後も若い世代にターゲットを絞ったNTTドコモの「ahamo」や、大幅なリニューアルを図ってプリペイド方式に近い仕組みを導入し、新たな市場を開拓しているKDDIの「povo 2.0」は、現在も大きな存在感を発揮している。
一方で、関心が薄れているのがソフトバンクの「LINEMO」である。LINEMOはオンライン専用プランならではの低価格実現に加え、LINEのトークや音声・ビデオ通話の通信量がカウントされない「LINEギガフリー」を提供するなど、メッセンジャーアプリ「LINE」とのサービス連携に力を入れているのが大きな特徴となっていた。
だがオンライン専用プランとしての存在感は他の2社と比べると影が薄く、競合他社とのサービスだけでなく、スマートフォン決済サービス「PayPay」との連携に力を入れた「ペイトク」を提供する「ソフトバンク」ブランド、そして低価格で人気を博す「ワイモバイル」ブランドなど、ソフトバンク内のブランドと比べても存在感が薄れてきているというのが正直な所ではないだろうか。
そうしたこともあって、ソフトバンクは2024年にLINEMOのテコ入れに動いたようだ。実際同社は2024年6月6日に、LINEMOの新料金「LINEMOベストプラン」「LINEMOベストプランV」の2つのプランを新たに打ち出している。
これら2つのプランは、従来のLINEMOのプランである通信量3GBの「ミニプラン」と、通信量20GBの「スマホプラン」に代わって提供されるもの。だが大きく変わった点もいくつかあり、1つは毎月の通信量に応じて料金が変化する、段階制の料金を取り入れたことだ。
実際LINEMOベストプランは、月当たり3GBまでであれば月額料金はミニプランと同じ990円だが、3GBを超えた場合は10GBまで高速通信が可能で、その場合の料金は月額2090円となる。LINEMOベストプランVも同様に、20GBまでであれば月額2970円だが、それを超えると30GBまでは月額3960円で利用できる。
段階制の料金プランといえば楽天モバイルの「Rakuten最強プラン」が思い起こされ、3GBで通信量が変化している点や、20GBで料金プランが変わっている点などはある意味、Rakuten最強プランを意識している部分が大きいように感じる。もちろんソフトバンクとしても、新料金プラン導入に当たっては、LINEMOと価格やサービス内容的に近しいRakuten最強プランは少なからず意識したものと考えられる。
顧客ニーズの変化を読み取った変更も課題は“経済圏”
だが新プランの内容には、LINEMOのサービスを提供開始して以降の市場環境変化も少なからず影響しているようだ。1つはユーザーが利用する通信量そのものが増えていることだ。
実際同社が提示した資料によると、LINEMOのミニプランで3GBの通信量を超過しているユーザーの割合は年々高まっており、2024年4月時点では34%に達しているとのこと。通信速度の高速化に加え、動画を前提としたサービスが増えるなどコンテンツ自体の変化によって、通信量が増え従来プランの通信量では賄いきれなくなっているようで、より多く通信量を利用したい人に向けて段階制の仕組みを導入した側面も強い。
そしてもう1つは通話定額だ。実はLINEMOベストプランVには、5分間の定額通話ができる「通話準定額」(月額550円)相当のサービスが標準で付属しており、その分料金は従来のスマホプラン(月額2728円)より高く設定されている。
だがLINEMOのスマホプランは発表当初、ahamoに対抗するべく5分間の通話定額が標準で付属する仕組みだったものの、その後SNSで「LINEで通話ができるから音声通話は使わないので、もっと安くして欲しい」という声が多く挙がったことから、その仕組みを省いてベースの料金を引き下げた経緯がある。にもかかわらず、LINEMOベストプランVで5分間の通話定額が標準付属となったのはなぜだろうか。
ソフトバンクの専務取締役 コンシューマ事業推進統括である寺尾洋幸氏は、その理由として、契約7カ月までは通話準定額を無料で利用できるようにする、LINEMOで実施しているキャンペーン施策の成果が影響しているという。ミニプランではキャンペーン終了後にオプションを外す人が多い一方、スマホプランでは終了後も有料ながら通話準定額を継続利用する人が多い傾向にあったとのこと。
そこでスマホプランの後継となるLINEMOベストプランVには標準で5分間の通話定額を付けるに至ったとのことだ。SNSでの声の大きから一度は5分間通話定額を外したものの、実態とずれがあったことから軌道修正を図ったといえそうだ。
一方で、スマホプランで提供されていた、1000万種類以上のLINEスタンプが使い放題になる「LINEスタンプ プレミアム for LINEMO」は、LINEMOベストプランVでは提供されないという。こちらもサービス提供開始からの特徴の1つでもあっただけに、提供されなくなった理由が気になる所だ。
寺尾氏はその理由について、「この先『LYPプレミアム』をLINEMOにも導入することを検討している」ためと答えている。LYPプレミアムはLINEや「Yahoo! Japan」といったLINEヤフーのサービス、そしてPayPayでお得な特典が利用できる有料サービスで、ソフトバンクやワイモバイルの料金プランにはLYPプレミアム相当のサービスが標準で付属する。
だがLINEヤフーは現在、個人情報漏洩問題が相次ぎ、日本政府から親会社の1つである韓国ネイバーとの関係見直しが求められるなど、大きな混乱が生じている。そうしたLINEヤフー側の事情もあってか、LINEMOでのLYPプレミアム提供に向けた検討はまだ進んでいないようだ。
LYPプレミアムの標準提供はLINEMOの競争力を高めるだけでなく、ソフトバンクが競合他社のいわゆる「経済圏」に対抗する上でも重要な意味を持つ。通信サービスに関しては単独で時代にあった対処を進められる一方、他のサービスとの連携については経営統合で複数の親会社を持ったLINEヤフーの力が必要であり、自社単独で思うように進められなくなったことが、ソフトバンクにとってもどかしい状況を生んでいるといえそうだ。