「アナログ停波延期問題」は、難しい話題のひとつ。やみくもに「地デジ反対!アナログ停波は中止すべき!」などと叫んでも意味がない。世界のテレビの潮流がデジタル化であることは間違いないところだからだ。

アナログ停波を2011年7月24日正午に断行すれば、テレビが見られなくなる「地デジ難民」が生まれることは明らかだ。しかし、延長をしたとしても、次の停波時期までに皆移行完了、地デジ難民はいませんでしたということにははならないだろう。一方で、その間は放送事業者はアナログ、デジタルの両方の放送をしなければならず、また、家電メーカーも販売計画が大きく狂って、大きな打撃となる。停波を断行すれば困る視聴者が生まれ、延長すれば経済に大きな影響を与えてしまう。結局は、ありとあらゆる手段を講じて、2011年に生まれるであろう地デジ難民を最小限に食い止める努力をし、断行してしまうしか道はないだろう。

この状況のときに、「停波は先送りされるかもしれない」という情報が流れれば、「地デジ対策は後回しでいいや」という人が増えることは明らかだ。あまり、建設的な話題ではないのだ。

しかし、そうもいっていられない世論調査が、NHK放送文化研究所から出てきた。月刊誌「放送研究と調査」6月号に掲載された論文「アナログ停波へ厳しさ増す環境」だ。視聴者の39%が「地デジ対応はアナログ停波の時点で行う」と回答しており、「万が一視聴可能世帯が伸びない場合どうすべきか」という問いには、地方自治体の53%が「停波期限を一定期間延長すべき」と回答している。「予定通りアナログ放送を停波すべき」と回答している視聴者は35%にすぎず、「停波を延期」「アナログテレビがなくなるまで」と答えた人が合せて55%にのぼっている。

また、この論文が指摘しているのは、賃貸、分譲の集合住宅の地デジ対策の遅れだ。どのように対応するかまだ決まっていない集合住宅が51%もある。分譲では「費用が思ったよりかかる」「費用分担の住民同意がとれない」という問題があり、賃貸では「大家が負担すべきか、店子が負担すべきか」「大家が負担する場合、家賃の値上げに踏み切らずを得ない」など、集合住宅では多くの問題が山積みになっている。

ところで、海外にはすでにアナログ停波をした国があるが、そちらはうまくいっているのだろうか。米国の場合は、今年6月に停波が実行され、大きな混乱はなかったといわれる。しかし、それでもアナログ停波は二度延期されている。本来は地デジ放送開始後8年目の2006年12月末に停波が予定されていた。ただし、このときは85%以上の世帯に地デジが普及していることという条件をクリアできずに2009年2月17日に延期。しかし、地デジチューナー用のクーポン配付の予算が確保できず、同年6月12日に再度延期された。地デジ放送開始から11年半のアナログ停波だった。しかし、米国は70%がケーブルテレビを視聴しているので、停波によりテレビが見られなくなる人はごく少数だと見積もられていた。

韓国でも2010年12月を停波予定にしているが、普及率が伸びないため、すでに2012年12月へと2年の延期が決まっている。韓国は2001年から地デジ放送が開始されているため、11年後にアナログ停波となる。

ヨーロッパ各国は2000年前後から地デジ放送が始まり、すでにアナログを停波した地域もあり、2011年から2012年ごろにほぼアナログ停波が完了する。ヨーロッパは、地域別停波という方式をとっていて、たとえば日本であれば東京都は今年に、大阪府は来年にと、地域でアナログ停波の期限を変えているのだ。こうすることで、地デジ普及率の高いところからスムーズにアナログ停波をすることができ、アンテナ工事、地デジチューナーの供給、サポートなどのマンパワーを分散活用することができる。もう、時すでに遅しだが、日本も欧州のように地域別アナログ停波の計画を立てるべきだったのではないか。ヨーロッパ各国はこのような方法をとっているにもかかわらず、完全移行には8年から10年かかっている。

日本の地デジ放送の開始は2003年末で、アナログ停波が2011年7月だから、7年半での完全移行を目指している。これは世界最速の移行作戦だ。なぜこんなに短期間なのか。地デジへの完全移行が決まったのは2001年7月25日。このとき、テレビの買い替えが一巡するのは10年ほどかかっていることから、「10年後までにはすべてのテレビが地デジ対応にできる」ということが根拠になっている。しかし、実際に地デジ放送が開始されたのは2年半後だし、1990年代は家庭に2台目のテレビ、3台目のテレビがどんどん買われた時代で、「10年ですべてのテレビが置き換わる」という統計的な根拠も怪しい。ほんとうに2011年7月24日正午にアナログを停波できるのだろうか? だれもが心配したくなる。

ところで、アナログ停波が延期されるかどうかという問いには、「すでに延期は決定されている」という回答が厳密には正解。アナログ停波は2011年7月24日正午だが、放送局の事情により、同日深夜12時まで延長してもかまわないことに決定している。つまり、すでに12時間の延期は決定されているのだ。

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