Intelが「社運をかけて立ち上げた」と言える、新世代の半導体製造プロセス技術「Intel 18A」。この世界最先端クラスの半導体技術を使った初めての製品として今年、PC向けメインプロセッサ「Core Ultra シリーズ3」(開発コードネーム:Panther Lake)が発表され、これを搭載するPCの発売が始まっている。
このタイミングで、米Intel クライアント・コンピューティング事業本部 副社長で、クライアント・セグメント担当本部長のデビッド・フェン氏が来日。Core Ultra シリーズ3がどういった製品であるのかや、同製品がターゲットとするAI利活用と、「AI PC」の将来展望などを聞くことができたので、その内容をお届けしたい。
性能と電力、Panther LakeはIntel CPUの"良いとこ取り"
編集部:Core Ultra シリーズ3、つまりPanther Lakeですが、このプロセッサの特徴を改めて教えてください。Panther Lakeを搭載する「AI PC」は、前世代や競合の製品と比べた場合、特に何が優れているといえるのでしょうか。
デビッド・フェン氏(以下、フェン氏):ひとつはパフォーマンス(処理性能)で、特にCore Ultra シリーズ3の上位モデルにあたるCore Ultra X9やX7では顕著に、非常に高いレベルでCPU、GPU、AIのパフォーマンスを担保できました。
そして、ハイパワーであるところは担保しつつ、同時に効率性、つまり省電力性を両立しており、モバイルPCのバッテリー寿命を、これまでよりも伸ばすことができています。
Panther Lakeは、これまでのIntelのCore 200シリーズ(Core Ultra シリーズ2)のプロセッサの良いところだけを継承した、良いとこ取りを実現した製品と言えます。
編集部:モバイルPCのバッテリー寿命は最大で27時間まで伸びると発表されていました。過去のCore 200シリーズの"良いとこ取り"というのは、省電力志向のLunar Lakeと、高性能志向のArrow Lakeの良い部分だけを兼ね備えた、という理解でよいでしょうか。
フェン氏:その通りです。Panther Lakeは、そのLunar LakeとArrow Lakeのどの製品よりも高いパフォーマンスを出せ、しかも電力効率が良い。特にGPU、グラフィックスの性能が良い。そして、NPUも含めたAIのパフォーマンスが、今までのどの製品よりも高くなっています。
編集部:Panther Lakeでパフォーマンスと電力効率が両立できた理由について、大きな部分としては何があるのでしょうか。今回は、半導体の製造技術と、その技術を使ってつくる製品のアーキテクチャ(設計)が両方とも変更されています。トランジスタ製造のところで、ゲート技術のRibbonFETと電源技術のPowerVIAというものが新規で盛り込まれているというポイントは発表されていますが、具体的にはこれによって製品にはどんな効果があったのでしょうか。
フェン氏:まずは製造技術のIntel 18Aのところにおいてですが、(半導体プロセスノードの2nm以下相当の微細化で)トランジスタ密度が高くなって、パフォーマンスが高い、電力効率も高い。これがトランジスタサイドのプラス要因です。
そしてアーキテクチャサイド。アーキテクチャのところでは、CPU、GPU、NPUがすべて新しく、パフォーマンスアップしています。一方でアーキテクチャサイドでも電力効率を高める工夫があって、これは我々が「ローパワーアイランドデザイン」と呼んでいる仕組みによるものです。
このローパワーアイランドというのは、Panther Lakeでは、Pコア(メインのパフォーマンスコア)とは別の、4つのLP Eコア(低電圧コア)と4MBの共有キャッシュによって構築されていて、この省電力の部分だけをリングから外せる。リングから外せるというのは、LP Eコアとキャッシュのローパワーアイランドだけ動作させて、ほかを止めることができるということです。これにより、(ピークパワーを必要としないような)日常的なタスクをローパワーアイランド主体で処理でき、電力消費を大きく抑えることができるのです。
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Panther Lakeにおける、チップ上のコンピューティングコアの実装のイメージ。左上部分は通常のPコア(紫色の4基のブロック)と、Eコア(青色の4基×2のブロック)。その下、中央あたりで別に置いてあるの水色のブロックが「ローパワーアイランド」のLP Eコア。LP Eコアは4基のコアで4MBのキャッシュを共有している
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Panther Lake含む、これまでのIntel Coreのハイブリッドコアの構成を表にしたもの。Panther Lakeのローパワーアイランドは、Eコアの性能が上がったことで、Lunar Lakeなどの同様の仕組みよりもカバーできる範囲が広がっており、Pコアと切り替えてタスクを動かす動作も賢くなっている。Web会議程度ならローパワーアイランドだけで賄える
AI PCの普及、キラーアプリ不在の声もあるが
編集部:Panther LakeはAI性能が向上したことが注目されています。そこで、普及が期待されている「AI PC」について伺います。Panther Lakeでローカルのハードウェア性能は大きく上がりましたが、それでも、AI PCの普及には、ユーザーにとって"わかりやすい"恩恵が得られるアプリケーションが必要なのではないでしょうか。確かに、企業内のPC利用では、マイクロソフトのCopilotなど盛んに使われるものが出てきた一方、趣味など日常でのPC利用では、いわゆる「キラーアプリケーション」がまだ見当たらないように思います。
フェン氏:コンシューマー向けでは、確かにおっしゃる通り、我々も、これだというキラーアプリケーションはまだ存在していないと考えています。ですが、まずは現在、急速に起こってきていることから説明させてください。
それは、今、何百というISV(ソフトウェアベンダー)が、AIの機能をどんどん開発しているということです。なかには小型のアクセラレータのような機能もあれば、大規模な生成AIのようなものもあって、そういった様々なAI機能がこれからコンシューマー向けにどんどん出てくる状況にあるということです。
そして、その一方で、いわゆるアーリーアダプターと呼ばれる方々がいますが、そういった鋭敏な層の人たちが、特化型のローカルLLMを自分のPCで稼働させたいという積極的なニーズを出してきています。
話を戻すと、コンシューマーのニーズや利用シーンというのは本当に多様化しています。なので、ワンサイズで全てを満たすことは難しいと考えています。だからこそ、様々な規模感で、AI機能の開発に取り組むISVの皆さんをサポートしていきます。モデルのサポートというところも含めて、出来うる限り広範なかたちでサポートできるようにしていきます。
編集部:「ハイブリッドAI」の方向へ進むという話があります。AI機能を使うにあたって、ローカルのAIハードウェアであるAI PCと、クラウドのAIの計算資源を組み合わせるというものです。AI PCが増えれば、ローカルのAI計算資源が、データセンターに匹敵するような規模にもなり得るという話も聞きました。
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AI機能の演算処理がどこで行われるかは、AIサービス事業者にとっては経済的コストに直結する。ローカル側で処理できる部分はAI PCにまかせれば、データセンターの負担は減る。ローカルとクラウドのAIサービスに必要に応じてアクセスするハイブリッドAIは、AI計算資源を最大化しつつ、コストや電力資源を最適化する可能性がある
フェン氏:我々はAI利用において、今後はユーザーは必ず「パーソナルエージェント」を導入することになると見ています。この、エージェンティックなAI利用では、ハイブリッドAIを活かすことが最も求められるようになると考えています。
どういうことかというと、パーソナルエージェントが、ローカルのAI PC内でデータを活用できるようにしつつ、一部のパフォーマンスが必要なタスクに関しては、クラウドのデータセンター側に投げるというような判断をするようになります。
ISVの開発、多くのモデルのサポートしていくこと、そして、(様々なAI機能を呼び出して目的を達成しようとする)エージェンティックAIの体験を実現していくこと、これにより、これからますますローカルのAI PCの普及が進むことになるだろうと見ています。
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Intelでは、ハイブリットエージェントAIを構築できるツールセットとして、ローカルとクラウドにあるデータベースにアクセスしてハイブリッドに最適解を出す仕組みを実現でき、ローカルとクラウド間の通信において秘匿性データを保護する機能も備える「Intel AI Super Builder」を公開、提供している
編集部:実際に、ローカルのAI PCの普及がはじまる、エージェンテックAIを人々が使い始める時代は、いつ頃になると想定しているのでしょうか。年内なのか、少し未来の話なのか。今回のPanther LakeによるAI PCの登場はそのきっかけになるでしょうか。
フェン氏:既に始まっていると言うこともできます。アーリーアダプターや(趣味の)ホビイストの視点では、ローカルのAIモデルやパーソナルエージェントの活用は始まっています。
今年のCES 2026の会場でも面白いデモンストレーションを公開しました。3台のミニPCを組み合わせたデモです。ミニPCにはそれぞれ12XeコアのPanther Lakeと、64GBのメモリを搭載しました。その3台のミニPCはThunderboltで接続しており、ミニラック状態で重ねています。このミニPCのシステムには、1200億パラメータの大きなモデルを走らせることができました。
このシステムのアイデアは、我々が考えたものではありません。実は、ネット上で活動していたアーリーアダプターのPCユーザーの方が考えたものが元になっています。アーリーアダプターは既にローカルLLMを自分のPCに導入している。そこで一般的なミニPCのシステムであっても、Panther Lakeであれば高いAI能力を実現できるという実例にもなりました。
次の一手は? Intel 18AのデスクトップPC向け製品への適用は?
編集部:新しい製品を発表したばかりではありますが、将来の製品について聞けることはあるでしょうか。まずPanther Lakeで大きく性能が上がったGPUについて。今回のGPUは、アーキテクチャの世代としては、現行のデスクトップPC向けGPUであるArc Bシリーズ(開発コードネーム:Battlemage)と同じものです。デスクトップ向けGPUでは次世代(Arc Celestial? というかArc Cシリーズ?)の開発の進捗も注目されています。
フェン氏:将来の製品については……、もちろんご要望はわかります(笑)。まず今は、今回リリースするPanther LakeのGPUの性能に、我々はとても満足しています。将来のロードマップですので、こういった場合の定番の受け答えですが、その時が来たら開示いたします。今の時点では開示できませんが、期待いただき、是非このまま見守っていただければと思います。
編集部:では、「Nova Lake」については聞けるでしょうか。これは先日のIntelの決算発表で、リップ ブー・タンCEOが2026年末にリリースする予定であると言及していたものです。Intel 18A製造のPanther Lakeは優れたプロセッサですが、ノートPC向けです。Nova LakeはIntel 18A初のデスクトップPC向けプロセッサになる。日本でも多くの人が、特にゲーマーやクリエイターは、Intel 18AでデスクトップPCもアップデートしてくれることを期待しています。
フェン氏:おっしゃる通り、我々のリーダーがNova Lakeについては発表をしており、Intel社内でも"ワクワク"しているところですが、決算発表で言及した情報以外に公開できる情報、詳細情報は話すことができません。
ただ、デスクトップPCの展開に期待があるということはよく理解しています。そこについては、いくつかお伝えできることがあります。
まず、Panther Lakeは、既にノートPC以外、ミニPCやその他のPC(携帯型ゲーミングPCなど)のかたちでも使われていることです。ミニPCでは、これはある意味、デスクトップPCでも(Intel 18Aが)使えていると言ってもいいかもしれません。
もちろん、質問の意図はわかります。(Nova Lakeでの)「Core Ultra Sシリーズ」の製品、LGAベースのデスクトップ向けですね。将来のロードマップはまだ非開示ですが、見守っておいていただければ、また改めて、お話できる時が来る予定です。
メモリ半導体の不足は課題も、AI PC普及には楽観的
編集部:最後に、半導体の供給面についての質問です。というのも、Intel 18Aよりも前、Intel社の半導体の生産能力に不安が持たれた時期がありました。そこからのIntel 18Aの立ち上げで、最初の製品です。今回、供給量が十分なのかであったり、製造の歩留まりであったりに問題はないのか、現状を教えてください。
フェン氏:これについては、我々のCEO、CFOがここまでに話している内容と一貫したものになります。Intel 18Aの生産能力と供給能力は、社内で設定していた期待値と同等がそれ以上の能力が上げられている、とお答えすることができます。
さらにPanther Lakeに関しては、顧客からの評判が非常に良く、高い需要を得ています。時間の経過とともに需要がさらに増すケースも出てきました。これから需要が伸びてくることも見越して、顧客の需要に応えられるよう、現在、全力で取り組んでいるところです。
編集部:半導体の供給では、これはIntelの問題ではなく、Intelが対応できる範囲を超える問題とは思いますが、足元で、メモリ半導体の不足が大きな問題となってきました。NANDまで足りなくなってきました。AIデータセンターでの爆発的な需要増加でバランスが崩れてしまったことが要因と言われています。これによりPCの販売が滞り、価格高騰も顕著です。これはAI PCの普及を妨げる要因になるのではないでしょうか。問題が長期化する懸念もあります。Intelではこの問題をどう捉えているのでしょうか。
フェン氏:我々は、この問題の状況を密にモニタリングしています。この問題を乗り越えていけるよう、パートナーとの連携に努めているところです。
そして、我々はAI PCの普及については楽観的に見ています。楽観的に見ている理由はいくつかあります。
まず、ここまでお話した、幅広いAIモデルのサポート、ISVとの取り組みの強化、エージェンティックAIとハイブリッドAIの発展です。これらが進むにつれ、ユーザーは、最新世代の、より強化されたAI PCを求めるという、ユーザーニーズのプッシュが出てくるからです。
そして、どんな時でも、Intelのミッションは変わらないということ。ミッションとはつまり、我々は常にリーダーシップとなるような製品を届けしながら、業界屈指のソフトウェアのサポートをISV向けに提供する。そして継続的に、業界のパートナーがエージェンティックAIとハイブリッドAIを展開できるように支援していく。これらをIntelがあきらめることは無いからです。














