年収1000万円を超えるパワーカップルや、数千万円を稼ぎ出す医師。一見、誰もが羨む「勝ち組」に見える彼らだが、その内情は意外と家計に余裕がないケースも珍しくないという。
「高収入の方であっても、実は老後に資金ショートしてしまうリスクは十分にあります」──こう語るのは、登録者数35万人超のYouTubeチャンネル『鳥海翔の騙されない金融学』の鳥海翔氏だ。
稼げる人ほど、老後のリスクに気づきにくいのはなぜなのか。
今回は、FPとして数多くの富裕層の相談に乗ってきた鳥海氏に、エリート層が意外と陥りやすい老後破綻の落とし穴について伺った。
パワーカップルほど家計が見えなくなる理由
世の中は新NISAや株高の話題で持ちきり。「投資さえすれば将来は安泰」という空気があるが、足元の家計管理が疎かな状態で投資を始めても、資産形成はうまくいかない。鳥海氏は、多くの高年収世帯が無意識に陥っている“ある感覚”について指摘する。
「私のところにご相談にくる方でも意外と多いのが、『毎月の収支はトントンか多少の赤字でも、ボーナスがあるから大丈夫』というパターンや、『収入が多い分、細かい使途不明金には目をつむっている』といったケースです。ご本人は『家計は回っている』と認識されていることが多いのですが、実際は管理ができているというより、ボーナスという臨時収入や、潤沢なキャッシュフローに支えられているだけの状態かもしれません」(鳥海氏)
毎月の給料だけでは足が出ても、夏と冬のボーナス、あるいは翌月の高額な給与で帳尻が合う。この「なんとかなってしまう状況」が、危機感を遠ざけてしまうのだ。
「心理としては、『ボーナスで補填できているから、貯金もできているはず』『年収が高いから、いざとなれば調整できる』と楽観的に捉えがちです。ですが、もし会社の業績や環境の変化でボーナスが減ったり、役職定年で年収が下がったりした瞬間、構造的な赤字が表面化してしまいます。稼ぐ力がある方ほど、このリスクに気づくのが遅れてしまうことがあるんです」(鳥海氏)
聡明な彼らが、なぜこうした状況に陥るのか。その背景には、夫婦間の「配慮」があるという。
「いわゆるパワーカップルの場合、お互いに自立しているため財布が別々ということがよくあります。相手の支出を詳しく把握しようとすると、どうしても干渉することになり、喧嘩の種になりやすい。 そのため、『揉めるくらいなら、今のままで』と、あえて触れないようにしてしまう。これは決して怠慢ではなく、家庭の平和を優先した結果なのですが、結果として家計全体がブラックボックス化しやすい傾向にあります」(鳥海氏)
年収3000万医師でも、老後は赤字800万になる現実
その傾向が顕著に出るケースの一つとして、「医師」が挙げられる。鳥海氏のもとには、将来への漠然とした不安を抱えた医師からの相談も多いという。もちろん全員ではないが、高収入ゆえの“特有の事情”があるようだ。
「医師という職業は、非常に激務であることが多いです。お金を使う時間がないように思えますが、実はその逆のケースもあります。日々の重圧やストレスを発散するために、旅行や車、住まいなどにお金をかけることでバランスを保っている側面もあるようです。これらは単なる贅沢というよりも、激務を乗り越えるための、ある種の『必要経費』に近い感覚なのかもしれません」(鳥海氏)
「稼いでいるから大丈夫」。現役時代はその理屈で回っていても、生活水準を維持したまま老後に突入すれば、計算が合わなくなる。
「医師の方の場合、教育費や生活費を含めると年間1200万円ほどの支出になっているケースも珍しくありません。年収3000万円あれば当面は問題ありませんが、課題はリタイア後です。年金生活に入り収入が月20数万円程度になったとしても、一度上げた生活レベルを急に下げるのは、誰にとっても簡単なことではないからです」(鳥海氏)
仮に生活水準を変えなければ、年間で約800万円の赤字となる計算だ。老後が20年続くとすれば、単純計算で1億6000万円の不足が生じる。
「これだけの赤字幅は、退職金や一般的な投資だけでカバーするのは難しい金額です。現役時代にどれだけ稼いでいても、どこかのタイミングで支出の構造を見直さない限り、老後の資金繰りは厳しくなってしまいます」(鳥海氏)
彼らが相談に訪れるのは、心のどこかで「このままではいけない」と気づき始めているからだ。ただ、具体的にどこから手をつけるべきか悩んでいることが多い。
「今の生活を維持できているのは、現役としての高い稼ぐ力があるからです。しかし、その収入が落ち着いた時、膨らんだ固定費だけが残ってしまうのは避けたいところです。高収入の方ほど、早めの対策が重要になります」(鳥海氏)
次ページ「老後破綻に至らないために――投資の前にやるべきこと」


