写真に写り込んだ不要なものを簡単に消せることで広く知られるようになったGoogle Pixelの「消しゴムマジック」ですが、現在は生成AIの進化でさらに高度な“消しゴム”機能が利用できるようになりました。パソコン版の画像処理ソフト「Adobe Photoshop」に加わって話題となったのが、ガラスなどに写り込んだ反射を消せる機能。高度なテクニックは必要なく、かなり自然に除去でき、予想以上の実力でした。

  • ガラスに写り込んだ反射も、簡単な操作でこの通り! まるでガラスがなくなったかのような描写になった

RAW画像限定ながら、AIを利用した被写体の除去が利用できる

Adobe Photoshopの「Camera Raw」に新たに加わった機能として「気になる箇所の除去」があります。Camera Rawは、RAW現像を行う際に立ち上がるプラグインで、「気になる箇所の除去」はそのなかの「削除」メニューの中にあります。この機能はRAW画像のみ対応し、具体的には[反射]と[除去]の2つの機能を備えています。いずれも、学習することで新しいアイデア(この場合補正でしょうか)を生み出す生成AIを応用したもので、スタンプなど従来からあるツールとは異なるのが特徴となります。

ちなみに[反射]は、ガラスの窓越し撮影した際などガラスに映り込んでしまった目障りな反射を除去し、ガラスの向こうにある被写体を鮮明にする機能です。ガラスの反射を抑えるというと、PLフィルターや黒い穴あきのレフ板がよく知られていますが、結果はそれに近いと述べてよいかもしれません。ショーケースに入ったカメラやレンズを撮影すると、ガラスの反射で鮮明に記録できないことがありますが、そのようなときに役に立つ機能です。

一方の[除去]は、被写体への注意をそらす人物の削除を行うもので、あくまでも写真に必要とする人物、つまりメインの被写体となった人物の削除は行わず、背景などに写った不要な人物を削除します。除去した人物の跡の部分は生成AIによる処理が施されます。背景に予期せぬ他人が写ってしまった画像で積極的に使いたい機能であるといえます

これら[反射]と[除去]、補正効果がいずれも高いのが特徴です。これまでスキルやテクニックがないと対応できなかったような修正や、プロのレタッチャーでも難しいような修正も簡単な手順だけで誰で行えます。ここでは、それぞれのワークフローとその作例を紹介していきます。

ガラスに映り込んだものを除去する【反射】

  • PhotoshopでRAWフォーマットの画像データを開くとCamera Rawで表示されます。Camera Rawの右端、縦に並ぶメニューから[削除](消しゴムのアイコン)をクリックします

  • [気になる箇所の削除]の下にある[反射]のドロップボタンを選択します。その後に表示される[適用]のボックスにチェックを入れます

  • 削除のための処理をCamera Rawが開始します。パソコンのパワーなどにもよりますが、処理には少々時間を要します

  • 処理が終了しガラスに映った反射を削除した画像が表示されます

  • なんと、除去した反射のみを表示することも可能。反射の除去が終わると、スライダーは+100になります。もとの状態を見たければ0に、削除した反射のみを見たい場合は-100にスライダーを動かします

  • [反射]の効果を試した作成。入り口ドアのガラス越しに船室を写したもので、処理前ではガラスの反射が写り込んでコントラストも低くなっています

  • 処理後はガラスの反射をほぼ削除でき、コントラストも向上しています。一部除去できなかった反射も見受けられますが、これだけ除去できれば上々といえます

  • 処理前の写真。外の明るい風景がガラスに反射しています

  • 処理後はウソのように反射がスッキリとなくなっています。ただし、ちょっと難しい処理だったためか、画面右側のガラスの反射が処理し切れていません

  • ガラス越しに神輿に乗る鳳凰を写しました

  • こちらも、ほぼ完璧にガラスの反射を抑えていることが分かります。いろいろ試してみましたが、水面の反射などは除去できず、ガラスの反射も条件によっては難しいものもありました

選択した人物をまとめて消去できる【人物】

  • Camera Rawの右端、縦に並ぶメニューから[削除](消しゴムのアイコン)をクリック。[気になる箇所の削除]の下にある[人物]のドロップボタンを選択します

  • 消去する人物を赤いオーバーレイで表示します。問題ないようであれば[削除]ボタンをクリックします。オーバーレイの色は変えることが可能です

  • 処理が終了し、人物を削除した画像が表示されます。Camera Rawの画面右端、縦に並ぶメニューから[編集]のアイコンをクリックすると編集の画面に戻ります

  • こちらはオリジナルの画像。いたるところに人物が写り込んでいます

  • 処理後の画像。よく見ると不自然なところもわずかに見受けられますが、見事に人物が削除されました。人物の影も削除されていることは驚きです。この機能を使えば、見知らぬ人物がフレームの外に出ていくまで待つ必要はなくなりそうです

  • オリジナルの画像。船や柵などの前に人物がいて、手作業で修正するのは困難なシーンです

  • 処理後の画像。こちらも見事に人物が消えています。人物で見えてなかった部分はどのように再現するのか気になるところですが、よく見ない限りそれほど不自然さは感じません。生成AIの実力といったところでしょうか

  • この機能は、主題となる人物と、写り込んでしまった人物をソフトが判断し、写り込んだ人物を削除します。その精度は高く、不要な人物を削除したあとの処理もまるでもともとそこに人がいなかったように思えるほど自然な結果が得られます

  • この作例も、きわめて精度の高い仕上がりが得られました

[反射]も[除去]も処理を行う画像にもよりますが、生成AIによりそれなりの精度で修正を行うことが分かりました。まだ少し修正の甘いところも条件によっては見受けられますが、パッと見にはさほど不自然に感じることはありません。家人に処理前と処理後の画像をパソコンのモニターで見せたのですが、手品を見ているようだと驚くばかりでした。いずれの機能とも、今後学習を重ねることでさらなる進化、精度の向上が期待できそうです。

なお、この[反射]と[除去]の入る[気になる箇所の除去]については、パソコンのプロセッサーによっては対応しない(表示されない)ようなので、まず表示の有無を確認されることをオススメします。

マウスで指定した被写体を削除する【削除】

最後に[削除]メニューのなかにある[削除]を簡単に紹介します。この機能も生成AIを用いたもので、不要に思える部分をドラッグして削除を行います。一般的なスタンプツールでの削除と異なるのは、複雑な背景と絡み合ったようなものに対しても効果的であること。作例では、電線やそれによってできた影を削除しましたが、まるでプロのレタッチャーにお願いしたような精度の高い仕上がりが得られました。Camera RAWを使ってRAWフォーマットのデータを現像する際は、積極的に活用できそうな機能です。

  • Camera Rawの右端、縦に並ぶメニューから[削除](消しゴムのアイコン)をクリック。削除したい部分をドラッグしていきます

  • ドラッグしたところは赤いオーバーレイで表示します。ここでは消したいところすべてをドラッグしてみました。青色の[削除]ボタンをクリックすると処理を開始します

  • 処理が終わりましたが、電線の一部が削除されず残ってしまいました

  • 残った電線の上をドラッグしていきます。再び青色の[削除]ボタンをクリックして処理を行います

  • 処理が終わった状態。空に若干の色ムラが生じていますが、Photoshopのスタンプツールで修正するとよいでしょう

  • オリジナルの画像。いい被写体なのに電線が縦横無尽に走っており、建物の壁にも影が落ちています

  • 電線やその影がかなりいい感じで削除されているように思われます。この機能であればスタンプツールなどを使うよりも早いですし、消すのが難しい部分もソフト任せで処理が可能です

何ともあれ、Photoshopも進化が止まる様子は微塵もないようです。生成AIの活用はCamera RAWばかりでなく、Photoshop本体のツールにも波及していくはずですので、そうなればJPEGやTIFFフォーマットなどにも[反射]や[除去]が対応する可能性があります。生成AIの進化に、当分目が離せません。