夏本番を迎えて各地で催されている伝統的な祭りにも、環境保護や脱炭素のトレンドが押し寄せています。1,100年を超える歴史を持つ京都・祇園祭では、夜の古都を幻想的に彩る「山鉾」(やまぼこ)の提灯を照らすのに、LED電球とポータブル電源が使われていました。伝統の祭りと最新テクノロジー製品の融合は、遠く離れた青森のねぶた祭の取り組みに刺激を受けて生まれたものでした。

  • 京都の夜を幻想的に照らし出す祇園祭の山鉾の提灯。LED電球とポータブル電源の電力が使われていた

青森ねぶた祭での採用を知り、EcoFlowに連絡したのが縁

京都の夏の風物詩といえる祇園祭。象徴的な存在が「山鉾」と呼ばれる山車で、各地区の有志が作り上げた山鉾が街を練り歩く本祭が目玉となっています。本祭の前後に開かれる「宵山」では、山鉾に付けられたいくつもの駒形提灯に明かりが灯され、「コンチキチン」の音色で知られる祇園囃子とともに幻想的な雰囲気の夜祭りが楽しめます。

  • 宵山では、いくつもの駒形提灯に明かりが灯され、ふだんの京都とは異なる雰囲気が楽しめる

山鉾の前後には数十個の駒形提灯が取り付けられていますが、ほとんどの山鉾では消費電力が大きく発熱もある白熱電球にAC100Vの商用電源を接続しています。さまざまな企業や製品が環境保護の取り組みを進めるなか、京都が誇る伝統の祭りが旧態依然とした状況でいいのか…ともどかしく感じていたのが、祇園祭ごみゼロ大作戦 再エネ担当の井上和彦さん。何か改善できないか…と思っていたところに目にしたのが、青森のねぶた祭での取り組み。大きな山車を照らし出すのに、EcoFlowのポータブル電源とLED電球を用いていることを知り、これだ!と思ったのだそう。

  • 青森のねぶた祭では、2022年からEcoFlowのポータブル電源が電源として用いられている

  • 山車にポータブル電源を積載し、移動中もポータブル電源の電力でねぶたを照らし出す仕組み

  • 祇園祭ごみゼロ大作戦 再エネ担当の井上和彦さん

この仕組みを山鉾に応用できるのかを試してみたく、ポータブル電源のレンタルをお願いすべくEcoFlowに問い合わせたそう。ねぶた祭での実績や評価があったことから、EcoFlow側も積極的な姿勢で話はスムーズに進み、ポータブル電源やソーラーパネルの貸し出しが決定。井上さんは、有料でのレンタルを想定していたものの、趣旨に賛同したEcoFlowが無償での貸し出しを提案してくれたそうです。

さまざまな山鉾があるなか、いち早くEcoFlowのポータブル電源を採用したのが、今回取材した「鷹山」の山鉾。鷹山は、200年近く前に山鉾を焼失して以来、長らく祇園祭に参加していなかったものの、復興を目指す地元有志の熱意が実って山鉾を再興し、2022年に祇園祭への復帰を果たしました。

鷹山保存会の理事長を務める山田純司さんは「鷹山を復活させるにあたって、当初からLED電球と再生エネルギーを使おうと思っていた」と語ります。

  • 鷹山保存会の理事長を務める山田純司さん

  • 見事に復活した鷹山の山鉾

復活を遂げた2022年の祇園祭では、再生可能エネルギーで充電した電気自動車を山鉾の隣に持ち込んで電源を供給していました。しかし、やはりクルマは大きくて場所を取るだけに厳しいと感じていたそう。そこに井上さんからポータブル電源を利用する提案があり、2023年の祇園祭から採用。場所を取らない点に大いに満足したそうです。

ポータブル電源の電力は再生可能エネルギーで充電

2年目となる2024年も基本的な部分は同じですが、ポータブル電源は2023年で用いたDELTA 2 Max+エクストラバッテリーの組み合わせに加え、最新モデルのDELTA Pro 3も追加。DELTA Pro 3は単体で4096Whの容量を持つため、エクストラバッテリーを接続する必要がなくなりました。

  • ポータブル電源は、大容量化を図った最新モデル「DELTA Pro 3」を用いた

山鉾の提灯に取り付けるLED電球は40W相当の電球色タイプで、山鉾の前後に数十個ほど鈴なりにぶら下げます。山田さんが「情緒のある色にしたくLEDの色にはこだわった」というだけあって、白熱電球と変わらぬ暖かみのある光で提灯を照らしていました。夕方から夜明けまで点灯させても、ポータブル電源の容量は半分ほど残っているそうです。山鉾の前方の部分は山鉾本体とは分離していて配線できないため、この部分は乾電池駆動のロウソク型LEDライトを用いていました。

  • LED電球はフィラメントタイプのものを用意。「情緒のある色で光る」ことにこだわって選んだという

  • LED電球をソケットに装着し、駒形提灯を取り付ける。電源ケーブルは配電盤を経由してポータブル電源につながっている

  • 鈴なりになった提灯を上まで引っ張り上げれば設置は完了

  • 山鉾の前方にある提灯には電源の配線が来ていないため、乾電池駆動のロウソク型LEDライトが使われていた

  • 見事に美しく灯った鷹山の山鉾。夜通し点灯し続ける

  • 祇園囃子の音色も聞こえ、目と耳で伝統の祭りが堪能できる

ポータブル電源のバッテリーは、再生エネルギー由来の電力を用いて運営しているパタゴニア京都などの近隣店舗に協力してもらい、日中に充電を実施。フル充電になったら運搬して山鉾に接続する仕組みです。ソーラーパネルも用意しているものの、日中だけでフル充電…というわけにはいかないため、あくまで協力店舗の再生可能エネルギーをメインに充電するそうです。

  • ポータブル電源は近隣のパタゴニア京都まで持ち込み、店舗が契約している再生エネルギー由来の電力で充電するという念の入れようだ

古都・京都の伝統ある祇園祭で活躍していたポータブル電源ですが、山田さんは「鷹山だけの取り組みではまだパフォーマンスに過ぎない。もっと広く浸透するようにしなければ意味がない」と、全体への波及が必要だと語ります。LED電球+ポータブル電源+再生可能エネルギーを採用する山鉾が増えていけば、環境に配慮した祭として世界から訪れる人の注目を集めることになりそうです。