一般社団法人マイクロオーナーズの「マイクロオーナーズアプリ」は、日々の買い物でスポーツチームに応援金を送ることができるアプリだ。代表理事の藤澤佳穂氏は、開発のきっかけとプロスポーツの発展にかける思いを熱く語ってくれた。

  • アプリ立上げの経緯やサービスの詳細を語る藤澤佳穂氏

    マイクロオーナーズアプリについて説明するマイクロオーナーズ 代表理事の藤澤佳穂 氏

マイクロオーナーズを立ち上げた藤澤佳穂氏

スポーツ界にとって大きな試練となったコロナ禍を乗り越え、いまスポーツの楽しみ方が大きく変化している。いまやスポーツはスタジアムやテレビでビッククラブを応援するだけのものではなくなっており、インターネットを通じて小さなチームや遠く離れたチーム、さらに選手個人を応援することも可能となっている。一方で、スポーツチームの経営状況はまだまだきびしく、スポーツごとの格差も大きい。

このようなスポーツチームとスポーツ選手を支えたいと藤澤佳穂氏が立ち上げたのが、一般社団法人マイクロオーナーズだ。3月23日にはスポーツチームに応援金を送ることができる「マイクロオーナーズアプリ」をApp StoreやPlay ストアでリリースし、すでに参加している浦和レッドダイヤモンズ (以下、浦和レッズ)のファンから受け入れられている。

  • 3月23日にリリースされたマイクロオーナーズアプリ

代表理事の藤澤佳穂氏は、どのような思いでマイクロオーナーズを始め、どんな未来を思い描いているのだろうか。藤澤氏との対談から探っていきたい。

プロスポーツの収益性や選手の待遇を改善したい

――藤澤さんがマイクロオーナーズを立ち上げたそもそものきっかけはなんでしたか?

私はもともと広告会社に勤めており、6年ほどベトナムで社長をやっていました。そのときにベトナムサッカー代表に大きなスポンサーを付け、さまざまなプロモーションを展開をしていました。当時はサッカー協会も選手も大変喜んでくれていたのですが、残念ながら数年後そのスポンサー企業がマーケティング上の方向転換でスポンサードをやめてしまったんです。もちろんこれは広告の世界では普通の事なのですが、彼らが喜んでいた分、自分のちからの無さを残念に思いましたし、何かもう少し、短いアスリート人生を全うできるような仕組み作ってやれないのかなと思いました。

その後日本に帰国し、過去の経験を買われて今度は、あるプロフットサルチームの経営のお手伝いをすることになりました。現在はF1リーグに上がりましたけど当時はF2リーグで、チームとしての広告価値もまだ小さかったので大きなスポンサーがつくことが難しく、選手のほとんどがアルバイトをしていました。勇気や喜びを与えてくれる選手たちのアルバイトを、1日でも2日でも短くする方法がないかなと思ったんですね。

――プロスポーツの収益性や選手の待遇を目の当たりにしたことが大きな理由だったのですね。

はい。私自身もスポーツをやっていた人間なのですけれども、プロになれない一般の人にとってプロスポーツは、楽しさだけでなく勇気や喜びを与えてくれるものでもあります。僕は、人生の中でそういう瞬間が本当に大切だと思っているんです。

しかしながら、多くのプロスポーツチームの経営状況は決して良くありません。チームの収入は、観客動員による収益とグッズ販売の収益、そしてスポンサーさんの収益という3つの柱で成り立っています。とくにスポンサーが占める割合は非常に大きい。多くのファン、根強いファンを抱えていても、スポンサーに頼らざるを得ないのが現状です。

そのうえ、コロナ禍でスポーツチームの多くは収入が激減しました。同時に、コロナ禍でスポーツの楽しみ方は進化し、オンラインとの融合イベントになりました。プロスポーツチームはいま、第4の収益構造を捜しています。このような中で、プロスポーツ事業の独立性向上、チームとファンと地域の活性化を目指したのが、「マイクロオーナーズ」です。

  • スポーツが与えてくれる勇気や喜びについて語る藤澤氏

――マイクロオーナーズはどんな方針でスポーツチームの課題解決を目指しているのですか?

ひとつ目は、そんなプロスポーツ事業の独立性を改善すること。プロスポーツの興行って、ホームゲームでしか収益を得られないんですよ。仮にアウェーの試合に応援に行っても、そのお金はほとんどホームチームの収益になります。またサッカーやラグビーなどのコンタクトスポーツは試合数が稼げません。140前後の試合ができるのは、日本では野球くらいではないでしょうか。おまけに、強くないとスポンサーもつきません。結果として、選手たちはスポーツに集中して取り組むことが難しくなります。

ふたつ目は、スポーツチームとファンと地域を繋げるお手伝いがしたいということ。電子マネーはもう10兆円規模の市場になっていて、そこには誰が何を買ったかという膨大なデータがあります。このビッグデータを活用することで、新たなチームの資金源を作れるかもしれないと考えています。

  • マイクロオーナーズが目指すチームとファン、地域の繋がり

チビッ子からおばあちゃんまで支援できる仕組みを

――マイクロオーナーズアプリ誕生の経緯について教えてください。

クラウドファンディングや投げ銭のような仕組みはすでにありますが、僕が目指したのは試合がある日もない日も日常的に応援できる仕組みです。誰でにも分かりやすく普段使っている現金で、200円からでもチームの一員になれるっていう発想ですね。チビッ子からおばあちゃんまで気軽に支援できる一口馬主のような仕組みを作りたいと思いました。

通常、スポンサーとかオーナーと言うと高額が必要とイメージされがちですが、これは200円という少額からでもチームのデジタル上のオーナーとして参加出来る仕組みです。だからユーザーではなくマイクロ(最小)のオーナーズなんです。

最初はスタジアムがある駅にドネーションゲートを設置するという企画を考えていました。試合の日だけ交通系ICカードで通るゲートが一つだけチームカラーになっていて、自発的にそのゲートを通ると事前に設定していた金額がチームに寄付されるというものですね。しかし仕組み的に難しく実現はできませんでした。

その結果行き着いたのが、QRコード決済を使ったマイクロオーナーズアプリです。3月23日にリリースし、現在はJリーグのサッカーチーム、浦和レッズさんにご契約いただいております。形はキャッシュレスに変わりましたが、より日常的にそして自発的に応援金を送る仕組みになったと思います。

――マイクロオーナーズアプリの使い方とオーナーのメリットは?

アプリの使い方はカンタンです。ユーザー登録を終えたら、始めに応援するチームと選手、使用する電子マネーを選択します。アプリの「Pay」画面から電子マネーのボタンをタップするとそれぞれの電子マネーの決済画面に移動するので、そこでいつも通りお買い物の支払いをしていただくだけです。

アプリを経由して電子マネー決済をすると、「応援ガチャチケット」が手に入ります。チケットは地域でパートナーとして賛同頂いている店舗のクーポンからも入手可能です。このチケットを使って応援ガチャを回すと、決済手数料などの諸経費を差し引いた応援金がチームへ送られる仕組みとなっています。

ガチャを回すと「マイクロオーナーズ選手メダル」を手に入れることができます。これは選手をメダルとしてコレクションできる仕組みで、野球カードのデジタル版ですね。現在、浦和レッズの選手をレア1から4まで29選手、88種類用意しています。レア4はチームマスコットのレディアです。メダルをコンプリートされたら推し選手の自分の名前入りメダルもプレゼントします。

メダルの枚数でブロンズからゴールドまでランク分けをしており、ランクが上がると閲覧できるチームのデジタルコンテンツ「オーナーズコンテンツ」が増えていきます。また、メダルの枚数とレア度にポイントを付けた「マイクロオーナーズランキング」も公開しています。

  • 左から、マイクロオーナーズアプリのホーム画面、決済画面、メダルコレクション、デジタルコンテンツ

――それはファンには嬉しいですね! 普段の買い物でチームを支援でき、選手のメダルもコレクションできるわけですから。

ありがとうございます。またチームとファンだけでなく、地域全体の活性化にも繋げたいということで、チーム応援クーポンを発行しています。現在は浦和レッズを応援するホームタウンの飲食店8店舗にご協力いただいており、店舗でアプリを使うと割引や特典が受けられます。現在のホームスタジアムである埼玉スタジアムと浦和駅周辺のお店は、試合後気軽に飲みにいくのには少し距離がありますが、もっとファンと繋がりたいというお店も多かったです。このアプリでチームだけでなく地域も応援出来ればと思っています。

――提供開始から約半年が経過しておりますが、各所の反響はいかがですか?

浦和レッズは非常にファンの熱量が高く、最初はSNSで厳しい批判もありました。これは炎上するんじゃないかと思いましたね。でもアプリを使っている人だから、こわごわと「貴方のご指摘をアドバイスと捉えて、改善していきます」と返信すると、今度は「こんな返信が来ました!」とリツイートしてくれたんです。心強いなと思いました。

  • マイクロオーナーズアプリリリース時の反応について語る藤澤氏

小さなチームでもどんどんマイクロオーナーズに参加してほしい

――順調な滑り出しを見せているオーナーズアプリですが、今後の展開は?

まずはユーザーに向けて、UI・UXの改善を進めたいと思います。それから、新しい楽しさが広がる仕組みやコンテンツ作りですね。

将来的にはJリーグ・Bリーグのほか、ラグビーのリーグワンのようなチームスポーツからゴルファーのような個人アスリートまで、最終的には大学の体育会とも組んで大きなマーケットになるといいなと思っています。とくにJリーグは30周年を迎え、地域のプロスポーツという観点でのリブランディングのタイミングかもしれません。ファンは地元だけではなく北海道から沖縄までどのエリアにもいらっしゃいますので、現地に行かずとも好きなチーム、地元のチームを支援できる仕組みとして広がっていけば嬉しいですね。仕組み自体はスポーツ以外でも活用できるので、クリエイター支援や災害地支援なども可能です。

そういった将来的な広がりのためにも、まずは参加してくれるスポーツチームを増やしたいと思っています。現在は浦和レッズさんが参加してくれていますが、このようなビッグクラブでなくとも大歓迎で、もっと小規模なチームにも参加してほしいと思っています。切実にファンからの支援が欲しいのはそういったチームだと思いますし、自分の好きなチームが登録されていることは、アプリを使っていただけるきっかけにもなるでしょう。

――大きなチームから小さなチームまで登録されていたら、新たに契約したいというチームも増えるかもしれませんね。

そうなんです。もちろん、ご参加いただけるのはサッカーチームに限りません。バスケットボールやラグビー、バレーボール、さらにeスポーツなど、興味を持たれたチームのマネージャーさんは、ぜひ私にご連絡いただきたいと思います。登録したらザクザクお金が集まるものではないですが、一緒にプロスポーツチームの第4の収益構造を作っていきましょう。

――本日はありがとうございました。