キヤノンが、国宝などの文化財の複製品を集めた展示会「高精細複製品で綴る日本の美」をキヤノンギャラリーS(東京都港区)で開始しました。「なんだ、本物じゃなくて複製品か」と思うかもしれませんが、金箔や表装を施した作品は本物と見間違うほどの迫力。さらに、ガラスケースなどに阻まれることなく顔を近づけて間近で鑑賞できる点や、世界に散らばる著名な名宝の数々を同じ空間で次々に鑑賞できる点など、芸術に明るくない人でも思わずのめり込む魅力的な展示になっていました。
キヤノンが取り組む「綴プロジェクト」とは
「高精細複製品で綴る日本の美」では、キヤノンが京都文化協会と2007年から取り組む文化財未来継承プロジェクト「綴プロジェクト」で制作した高精細複製品のなかから8点を展示しています。
綴プロジェクトは、国宝クラスの屏風や襖絵、絵巻物などの貴重な文化財の高精細複製品を制作するプロジェクト。キヤノンのデジタルイメージング技術を活用して文化財を撮影・プリントし、京都の伝統工芸技術を用いて金箔を施したうえで、襖や屏風に必要な装飾(表装)を施し、本物そっくりの複製品を作り上げます。
高精細複製品を作り上げることで、作成時点の状態を保存して将来も再現でき、劣化が避けられない文化財の継承につなげられます。さらに、作成した複製品をオリジナルに代えて一般公開に用いたり、作品研究や教育に用いることも可能になるなど、とても有意義なプロジェクトとなっています。
今回、展示されている高精細複製品は以下の8作品です。
作品名 | 原本 |
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国宝「風神雷神図屏風」 | 俵屋宗達 筆、大本山建仁寺 所蔵 |
国宝「松林図屏風」 | 長谷川等伯 筆、東京国立博物館 所蔵 |
重要文化財「竹に虎図襖」 | 狩野山楽・山雪 筆、臨済宗妙心寺派 天球院 所蔵 |
重要文化財「風神雷神図屏風・夏秋草図屏風」 | 尾形光琳/酒井抱一 筆、東京国立博物館 所蔵 |
「樹花鳥獣図屏風」 | 伊藤若冲 筆、静岡県立美術館 所蔵 |
「雲龍図」 | 曽我蕭白 筆、ボストン美術館 所蔵 |
「見返り美人図」 | 菱川師宣 筆、東京国立博物館 所蔵 |
「江戸風俗図屏風」 | 菱川師宣 筆、スミソニアン国立アジア美術館 所蔵 |
まさに本物の再現、本物にはないメリットも
展示されている高精細複製品はインクジェットプリンターでプリントされたものですが、プリントしたあとに金箔などを施してオリジナルに忠実に仕上げているため、まさに本物そっくり。言われなければ複製品だとは分かりません。
複製品を集めたこの展示会ならではの魅力が、「作品に限りなく近寄って間近で鑑賞できる」「一般公開される機会がきわめて少ない作品が同じ会場で同時に鑑賞できる」「プロジェクションマッピングによる新趣向の展示が楽しめる」「写真は撮り放題、SNSでの公開もOK」など、本物ではあり得ない展示や鑑賞が可能なこと。
本物の作品を展示する場合、作品の劣化や破損を防ぐため、ガラスケースなどに格納された状態で展示され、しかも作品に近づいての鑑賞はできません。今回の展示会ならば、作品に触れなければどんなに顔を近づけても問題なく、作品の細部を大迫力で思う存分堪能できます。
さらに、今回展示される作品は、どれも一般公開されるチャンスがきわめて少なく、さらに公開される場所も限られるものがほとんどで、なかには海外に行ってしまったものも。それらが一堂に会して鑑賞できるのは、複製品ならではです。
ユニークな試みが、「松林図屏風」にはプロジェクションマッピングを用いた新たな映像表現が使われていること。時折、雪がしんしんと降るアニメーションが投影され、作品のストーリーを拡張してくれます。本物の国宝にプロジェクターの強い光を当てることは不可能なので、複製品ならではの表現となっています。
展示されている作品は、どれも自由に撮影できます。作品に触れることは禁止されていますが、カメラやスマホをグッと近づけて撮影し、SNSに投稿できるのは本物では不可能な醍醐味といえます。アップで撮影して細部の表現や技法を学ぶのもよいでしょう。
EOS R5に超望遠レンズを付け、部分ごとに細かく撮影していく
高精細複製品は、オリジナルの作品をデジタルカメラで撮影し、画像処理を施したうえで12色の顔料インクを採用する大判インクジェットプリンターでプリントし、京都の伝統工芸技術を用いて金箔や表装を施して作り上げます。
撮影は、文化財が保管されている場所で撮影します。ただ、保管している寺社自体が貴重な文化財であることが多く、撮影システムは最小限にまとめつつ、貴重な作品にキズを付けないよう離れた場所から望遠レンズを用いて撮影するなど、細やかな配慮をするそう。
カメラは、フルサイズミラーレス「EOS R5」にRFマウントの超望遠レンズ「RF400mm F2.8 L IS USM」を装着(以前はマウントアダプター経由で「EF400mm F2.8L IS II USM」を使用)。このカメラを専用の制御システムに取り付け、屏風や襖を1枚ずつ、それぞれ数十カットかけて分割しながら全体を撮影していき、合成して数十億画素相当の画像を生成します。かつては、EFマウントのデジタル一眼レフ「EOS 5D Mark IV」を用いていたそうですが、現在はミラーレスに移行しています。
撮影後、現場でオリジナルに忠実に色合わせをしたうえで、本番印刷と同じ色が出るプリンターを持ち込んで試し刷りし、色合いを確認。問題なければ、後日12色インクの大判プリンター「imagePROGRAF」で作品を等倍で印刷します。プリントされた作品は、京都の職人による伝統工芸技術を用いて金箔を施したうえで、襖や屏風に必要な表装を施し、キヤノンと職人の底力で本物そっくりの複製品を作り上げます。
「高精細複製品で綴る日本の美」は、キヤノンマーケティングジャパン本社1階にあるキヤノンギャラリーSで11月16日(木)まで開かれています。入場は無料なので、最新のイメージング技術と職人の伝統技術が融合した作品をぜひ間近で見てください。