過去最大の赤字計上――少し前の話になるが、ソフトバンクグループ株式会社が8月8日に発表した2023年3月期第1四半期決算発表が世間を騒がせた。孫正義会長は、同社の実態が悪いことを正直に説明すべきと、神妙な面持ちで決算説明会に登壇した。同社史上で過去最大級となる3兆1,627億円(連結ベース)の最終損失(「親会社の所有者に帰属する純損失」という)計上の背後で何が起きているのか――会計的観点から説明していこう。

  • 孫正義氏

    8月9日にソフトバンクグループ株式会社の四半期決算発表を行った、代表取締役 会長兼社長執行役員の孫正義氏

赤字の主要因は投資損失

ソフトバンクグループ株式会社の四半期報告書によれば、セグメント損益は「SVF(SoftBank Vision Fund L.P.:ソフトバンク・ビジョン・ファンド)事業」が2兆3,307億円の損失、次に大きな損失が「持株会社投資事業」の1兆1,980億円となっており、「ソフトバンク事業」が2,253億円、「アーム事業」が298億円と、それぞれ利益を計上している。これに「その他事業」のセグメント損失253億円、セグメント調整額67億円を合計したものが、連結ベースの税引前損失である“3兆2,924億円”という金額だ(ここから法人所得税1,961億円、非支配持分663億円を加減算したものが、最終損失の3兆1,627億円となる:△3兆2,924億円+1,961億円-663億円=3兆1,627億円)。

  • セグメント別の損益

    ソフトバンクグループ株式会社の2023年3月期第1四半期決算資料より、セグメント別の損益

上述したように、SVF事業の損失がソフトバンクグループ株式会社が今回計上した赤字の7割以上を占めていることが分かる。

ここで、まず、同社の資本構造を説明しておいたほうがよいかもしれない。コンシューマーレベルで「ソフトバンク」と言われて思い浮かべる人も多いスマートフォンをはじめとする通信事業を営むソフトバンク株式会社は、ソフトバンクグループ株式会社は別法人である。ソフトバンク株式会社の親会社としてソフトバンクグループ株式会社が存在しており、ソフトバンク株式会社が手掛ける通信事業は親会社であるソフトバンクグループ株式会社の下で一つのセグメントとして事業運営が行われているのだ。そして、これも先述したようにソフトバンク事業は2,253億円の黒字(セグメント利益)を計上している。

  • 四半期連結損益

    ソフトバンクグループ株式会社の2023年3月期第1四半期決算資料より、四半期連結損益

過去最大3.2兆円の赤字が財務に及ぼす影響は?

「私はソフトバンクのスマートフォンユーザーなんだけど、結局、この赤字を受けて会社はどうなるの?」と不安に駆られる方々もいらっしゃるかもしれない。その説明をする前にもうひとつ、現在のソフトバンクグループ株式会社の連結グループについて解説しておこう。

孫正義会長が日本ソフトバンク株式会社として1981年に設立した会社が、現在のソフトバンクグループ株式会社である(現在のソフトバンク株式会社は旧ソフトバンクモバイル株式会社が前身)。PC用ソフトの卸から通信事業へと中核事業が移り変わっていき、事業も多角化していく中で、2015年に商号変更により誕生した現在のソフトバンクグループ株式会社(旧ソフトバンク株式会社)は、事業会社というより、連結グループ内の事業開発等の目的もあってか投資会社としての側面が強くなっている。

その投資事業の中核であるSVF事業が、このところ全世界的に進むインフレや、金利上昇による世界的な株価下落を原因として受けた影響が、投資先銘柄の評価額下落という形となって表れたわけである。

そして、赤字の主要因はあくまで、こういった評価損であり、現実にキャッシュ・アウトが生じているわけではない。実際に今回の四半期報告書を見ても、「営業活動によるキャッシュ・フロー」は1,408億円、「投資活動によるキャッシュ・フロー」は2,860億円、「財務活動によるキャッシュ・フロー」は1,759億円とプラスのキャッシュ・フローを計上している。

  • 企業の概況

    ソフトバンクグループ株式会社の2023年3月期第1四半期決算資料より、企業の概況。十分なキャッシュフローを確保している点に注目

つまり、今回計上した巨額赤字の主要因はいわゆる株式評価損であり、会計上の簿価修正とでもいうものだ。実際に資金流出を伴うものではない。

また、2022年6月末時点で同社は6兆706億円もの「現金及び現金同等物」を保有しており、かつ10兆1,745億円の資本(「親会社の所有者に帰属する持分合計」が8兆5,624億円、「非支配持分」が1兆6,121億円)を計上している点からも、財務基盤的に見ても今回の赤字が同社の経営に対してすぐさま深刻な事態を及ぼすとまではいえないだろう。