ソフトバンクグループは8月8日、2023年3月期 第1四半期の決算説明会を開催しました。発表された四半期決算は、過去最大となる3.2兆円の赤字。登壇した孫正義会長は「この6か月で計5兆円の赤字を出したことになります」と力なく報告しましたが、反省の表情を浮かべながらも「経営に対する意欲は、ますます高まっています。志、ビジョンは一切変わっていません」と説明するひと幕もありました。
赤字の要因としては「世界的な株安」「急速な円安」を挙げる
発表の冒頭で、徳川家康の顰めっ面を描いた肖像画とされる『三方ヶ原戦役画像』を紹介した孫会長。「私のいまの心境です。織田信長との義理を果たすため、自分たちより遥かに強大な武田信玄の軍勢と戦って、負けて命からがら逃げてきた。そんな自身の反省のため、敢えて惨めな姿を肖像画として描かせたと言われています。私もソフトバンク創業以来の大きな赤字を、この2四半期で連続して出してしまいました。しっかり反省して、戒めとして覚えておきたい」と、落胆した様子で報告します。
今期の純利益はマイナス3兆1,627億円の赤字でした。「前の四半期が2兆円の赤字ですから、合計で5兆円の赤字になりました。前年に5兆円の利益を出しましたが、それを全て吐き出した形です。かつて大きな利益を出したときには、有頂天になる自分があった。いまになれば、それを恥ずかしく反省している状況です」。赤字の要因には『世界的な株安』と『急速な円安』を挙げました。
SVFの投資先は半数以上が価値減少。数少ない明るいニュースはLTVの改善
SVF(ソフトバンク・ビジョン・ファンド)の投資事業については、累計ではまだ赤字ではないと説明します。
SVFが投資するユニコーンは470社にものぼります。しかし、そのなかで現在も価値を増やし続けている企業は119社(25%)しかなく、価値を減らしている企業数が277社(59%)にも上っている状況です(2022年6月末時点)。
時価純資産(NAV)は18.5兆円となりました。その内訳を見てみると、アリババグループ関連が21%、SVFが47%、その他が32%という内容です。
今回のプレゼンテーション中、孫会長が「唯一、良かったこと」として挙げたのは、LTV(純負債÷保有株式、持っている資産に対する純負債の比率)が改善したこと。「半年以上前に、守りを徹底していくと申し上げました。今後2年間の返済すべき社債の2倍以上の現金を、いま手元に持っています。保有株式の価値はこの1年間で32兆円から21兆円まで減りましたが、純負債も同様に減らしていった。その結果、もともと5兆円あった純負債は3兆円まで減りました」と報告します。
このような状況を受けて、SVFにおいては今後(当面の方針として)、大幅な運営コストの削減、新規投資の厳選、既存投資先(473社)の価値向上を目指していく考え。「株式市場が大きく傷んでいるいまこそ“買い”ではないのか、という声もあります。私も内心、どこかでそんな気持ちに駆られますが、徳川家康の顰像のように、大いに反省するところもある。いまも高い志、ビジョン、信じるところは変わっていませんが、大義名分を追い求め過ぎると全滅する恐れもある。全滅だけは絶対に避けなければいけない。はやる気持ちはありますが、取り返しのつかない痛手を追わないように新たな投資は徹底的に抑えている、そんな状況です」。
最後は自己株式の取得枠について説明しました。9か月前に発表した1兆円の自己株式の取得については、すでに70%の進捗率です。さらにこれに加え、今後12か月間で新たに4,000億円の自社株買いの枠を設定する、と発表しました。
これまでの反省点は?
このあと孫会長は、質疑応答でメディアからの質問に答えていきました。
これまでの投資のどのような部分を反省しているか聞かれると「反省すべき点は、もう数え上げればきりがないぐらい。SVF1のときは大振りをしてました。UberだとかDiDi、WeWorkなど、1つの案件で1兆円に近いような投資もしていた。だから大振りして三振、みたいなこともたくさんありました。私自身の思い入れによって失敗したことも多かった」
「そこでSVF2では1件あたりの単価を安くして、ホームランではなくヒット、二塁打を狙って着実に当てていこうとしました。個人の思い入れに頼らず、テーマ、地域に分けた専門組織を作って、自信を持ってSVF2を行いました。2021年度は9カ月で5兆円ぐらいの投資を行って、実際に5兆円ぐらい利益を出しました。これで行けると思って有頂天になっていた。1個1個の振りは小さくなったけれど、たくさん打席に立って、いっぱい振りまくったんです」
「でも結果、大きな評価損を出してしまったということです。市場の環境が悪かった、戦争があった、コロナがあった、言い訳の材料はたくさんあるかも知れませんが、やっぱりそれは言い訳だろうと。反省すべき点はある。我々がもう少ししっかり厳選して、ちゃんとした投資を行っていれば、これほどの痛手は負わなかった」
「2021年はユニコーンの単価が高かった。コロナはなんとか乗り越えられそうだ、そんな雰囲気も手伝って、特にオンライン関係の銘柄の株価は上がっていた。だから未上場のユニコーンも高かった。でもマルチプルで買っても利益が出るという風に、我々は思い込んでしまっていた。そんな感じで高い値札のモノを、たくさん揃えてしまった」
「やっぱり投資は、高いモノを買うと価値が下がる確率も高まります。今となって振り返ってみれば、自分たちの中で評価に対して“バブル状態”があったんではないか、という風に反省しています。全て私の指揮官としての責任だと感じております」
海外のユニコーンを日本に輸入して、グループ傘下のソフトバンクあるいはZホールディングスを活かしていく、といった今後の施策について聞かれると「やっぱりSVFとして475社もありますし、ほとんどが年率50%~100%の大変な伸び盛りの会社だらけなのは間違いないんです。これらの会社の中には、優れたビジネスモデル、優れたテクノロジーを持っているところもたくさんあります。そういう意味では、我々、日本でのソフトバンク株式会社だとか、あるいはヤフーだとか、LINEだとか、PayPayだとか、彼らにとっては色んな技術、提携相手として宝の山だという風に考えております。そういう意味では、ポジティブな関係はたくさん作れるんではないかと思っています」。
3日後の誕生日で65歳になる孫会長。改めて経営に向けた意欲についてコメントを求められると「経営に対する意欲は、ますます高まっているところです。もちろん僕が病気をしたとか、意欲が減ってしまったということであれば、多くの株主にご迷惑をかけるわけにいかないし、社員にも迷惑をかけられないので、そのときは潔く引退しますが、いまはやる気いっぱい。迷惑だと言われても、やる気いっぱいだということであります。志、ビジョンについても一切変わっていないのが実態です」。
最後に「今日はなんか暗い話で申し訳ありませんでした」と頭を下げ、決算説明会を終えました。