ソフトバンクのビジネス向けイベント「Softbank World 2022」がオンラインで開幕しました。特別講演に登壇した孫正義氏は、「日本はAI普及が遅れている」「日本を最先端のDX国家、カンパニー群にしなきゃいけない」「ソフトバンクも率先して取り組むが、我々だけではダメ」とDXとAI革命のビジョンを語りました。

日本でのAI導入への熱意を語った孫正義会長

  • 孫正義氏

    ソフトバンクグループ株式会社 代表取締役 会長兼社長執行役員 ソフトバンク株式会社 創業者 取締役の孫正義氏

孫氏は冒頭の特別講演に登壇。「少年時代に蝶が好きだった」という話から講演をはじめた孫氏は、DX(デジタルトランスメーション)とAIに話を進めました。先ほどの蝶の話をたとえに、「コロナ禍の中で、情報をFAXで送っているのを見て驚いた。しかし、それをFAXに変えたところでDXが進んだとはいえない。それは芋虫がさなぎになったにすぎない。そこから蝶にならなければいけない」と言い、さらに一歩進めたデジタル化、AI化が必要だと語ります。

「日本では、AIが必要なのかということが有識者などの間で議論されているレベル。その間に欧米ではどんどんAIを活用している。議論をしている暇はない」と日本のAI普及の遅れを指摘し、AIによってコスト削減やイノベーション創出を図ることが日本の産業の競争力の根源になると話しました。

  • 企業へのAI導入率

    日本におけるAI活用の遅れを指摘。企業へのAI導入率はスリランカ、チリ、ロシアにも後れをとる

  • AI人材の充足度

    AI人材の充足度も、経営層/エンジニアともに不十分

現時点で累積CPU出荷数が2,500億個を超えたというARM、多数のユーザーを抱えて貴重なデータをもたらすソフトバンク/Yahoo!/LINE/PayPayなどのサービスというグループの資産はAI化に大きな役割を果たします。事例としては小売店の在庫管理や水処理にAIを活用しているケースが紹介されました。

  • IOTデバイス1兆個の世界

    ARMのCPU出荷は現在のペースであれば10年後に1兆個を超える

  • データ基盤

    ソフトバンクグループの豊富なデータ基盤

ソフトバンクは、世界にある1,500社のユニコーンAI企業のうち、475社にソフトバンク・ビジョン・ファンドを通じて出資しているそうです。孫氏は、「世界中のAIの英知をグループに持ち込んで、日本そのものをAI化するのがわれわれの責務だと思っている」と語ります。

  • ユニコーン企業への出資

    ソフトバンク・ビジョン・ファンドを通じて世界中のユニコーン企業に出資

  • AI投資・AI人材

    Zホールディングスとして、AI投資、AI人材の獲得を進める方針

最後に孫氏は「日本のDNAはハイテク国家」「今こそ目覚めて、日本を最先端のDX国家、カンパニー群にして、世界中に発信しなきゃいけない」「ソフトバンクも率先して取り組むが、われわれだけではダメ」と話し、講演の視聴者に対して「日本のすべてのビジネスマン・エンジニア・教育者がAIに目覚めて、芋虫やさなぎのままで終わらず、蝶として大空にはばたいてほしい」とメッセージを送りました。

  • AI革命を牽引

    ソフトバンクグループとして日本のAI革命を牽引すると宣言

  • 情報革命で人々を幸せに

    「情報革命で人々を幸せに」というビジョン

「誰一人取り残さないデジタルの社会実装」を語った宮川社長

孫会長の特別講演に続いては、ソフトバンク株式会社 代表取締役 社長執行役員 兼 CEOの宮川潤一氏が「ニッポン、変えテク。~デジタルの社会実装で変わる、日本の未来~」と題した基調講演を行いました。この講演の中で宮川氏はテクノロジーの社会実装の例としてスマートシティとスマートリテールについて紹介。そしてその基盤となる5Gの現状と将来展望について話しました。

  • 宮川潤一氏

    ソフトバンク株式会社 代表取締役 社長執行役員 兼 CEOの宮川潤一氏

  • スマートシティ、スマートリテール、5G

    スマートシティとスマートリテール、そしてその基盤となる5Gについて語った

スマートシティについては、まず環境意識が高くエネルギーの脱化石燃料化が進んでいるスウェーデンでの状況を紹介。そのうえで、日本では地域ごとに課題が異なるとして、地方では過疎化に対する伊那市、茨城県境町、会津若松市の事例を解説しました。都市における取り組みとしては、ソフトバンクの本社がある竹芝地区でのさまざまな取り組みについて語り、さらにそれを日本全国へ広げていきたいと話しました。

  • スマートシティ

    スマートシティについては地方と都市で異なる取り組みを行う

スマートリテールに話題が移ると、小売業での課題として「人手不足」「物価上昇」「ECの台頭」を挙げ、人流データの活用による店舗開発、テクノロジーによる店舗運営というデジタルの活用が、厳しい業界の中で勝ち抜くカギとなるといいます。そしてAgoopの人流データの分析、業務スーパーにおける欠品検知やタブレット付きカートによる商品情報の提供、ファーストキッチンでの顔認証による決済と同時の顧客属性取得といった事例を紹介し、「デジタル化でサプライチェーン全体が最適化され、売上の向上にも寄与する。店舗DXはさらに進化し、リテール業界はかわっていく」という将来像を示しました。

  • スマートリテールの実装例

    スマートリテールの実装例として、人流データによる店舗開発、最新テクノロジーによる店舗運営の事例を紹介

そういったスマートシティ・スマートリテールなどの基盤となる5Gについては、「4Gは人とインターネットがつながるコミュニケーションツール。5Gは人とモノ、モノとモノがつながって産業化の礎になる」と位置づけます。3月末でソフトバンクの5G人口カバー率は90%を達成していますが、もちろんこれはさらに広げていく方針とのことです。

  • 人口カバー率90%

    5Gの人口カバー率は90%を達成

現状は「4Gから5Gへの移行期で、4Gのコアに5Gの基地局、端末がつながっている状態」という認識で、5Gの高速通信だけが活用されているといいます。5Gのコアにつながる真の5Gがこれから実現すれば、低遅延・同時多接続というメリットが活用されるようになるという予測です。

  • NSA構成の5G

    NSA構成の現在の5G。宮川氏は「移行期」と表現

  • SA構成の5G

    宮川氏のいう「真の5G」はSA構成で低遅延・同時多接続のメリットを活用できる状況

具体的には、低遅延によって向上・店舗の無人化、遠隔手術への応用などが可能に。また、多接続により、街中のありとあらゆるものがつながることで、児童運転やスマートシティが実現します。5Gはこれらを実現する基盤となるので、先述のように「産業の礎」というわけです。

  • 真の5Gによる社会の変化

    真の5Gによって実現されるようになるサービス、未来像

低遅延・多接続によって実現されるソリューションの事例を紹介した後、宮川氏は「セキュリティが高い」というローカル5Gのメリットと「自分で設置・運用しなくていいから導入ハードルが低い」というパブリック5Gのメリットを良いところ取りしたサービスとして、ソフトバンクが設置・運用を担う専用ネットワーク「プライベート5G」を2022年から提供すると宣言。「誰一人取り残さないデジタルの社会実装へ」と将来像を語りました。

  • Private 5G

    Private 5Gを2022年より提供

  • 誰一人取り残さないデジタルの社会実装へ

    「誰一人取り残さないデジタルの社会実装へ」という将来像