エンターテインメント業界におけるNFTの価値創出を目的に、サイバーエージェントグループに属するCyberZとOENが、NFTプロデュース事業を本格的に始動させた。NFTの活用を促し、さらに新たな体験の創出を目指すというが、この事業において両社はそれぞれどのように関わっているのか? また、NFTという新たな潮流をどうとらえているのか? CyberZ 執行役員の青村陽介氏とOEN 代表取締役社長の藤井琢倫氏に話を聞いた。

協業開始から4カ月で3つのプロダクトをリリース

――CyberZとOENがNFTコンテンツのプロデュース事業をはじめることになった経緯、また、2社がそれぞれどのような形で本プロジェクトに関っているのか教えてください。

青村陽介氏(以下、青村氏):両社でそれぞれNFTに関する事業をはじめたいという話が持ち上がっていたタイミングで、私から藤井さんにお話をしたのが経緯です。2社ともサイバーエージェントグループに所属しているので、話が早かったんですね。

CyberZはNFTの発行と運用、財務や法務といった部分を担当しています。弊社はメディア事業でライセンスを扱うこともあるうえ、エンジニアやクリエイターが多数いるので、そこを活かして主に枠組みに当たる部分を担っています。

  • CyberZ 執行役員の青村陽介氏

藤井琢倫氏(以下、藤井氏):OENはコンテンツの中身、企画とプロデュースを担当しました。こちらが立てた企画に対して、CyberZからは技術や法務的、倫理的にできるできないといったアドバイスをもらい、プランニングの精度を向上させています。

  • OEN 代表取締役社長の藤井琢倫氏

――CyberZ側からお話を持ちかけられたとのことですが、何かきっかけがあったのですか?

青村氏:弊社では、定期的に新規事業を考える会議が行われているのですが、2021年のはじめにNFTが話題に上がりました。検討を重ねた結果、全社的に取り組むことが決まったのがきっかけですね。

藤井氏:OENでは、これまでブロックチェーンやNFTをあまり扱ってきませんでしたが、ABEMAのコンテンツとして触れることはありました。弊社はエンターテインメント業界のさまざまなIPとのつながりがあり、その方々と何かNFT関連のコンテンツを作っていこうと話をしていたときに、ちょうど提案があった形です。

――図らずも足並みがそろったわけですね。

藤井氏:そうですね。どうせやるならグループ内の2社で協力したほうがダイナミックに展開できそうだという思惑もありました。

青村氏:うちから話を持ちかけたのが、2021年の夏ぐらいだったと思います。

――両社からこの事業に関する発表があったのが11月ですから、かなりのスピード感ですね。事業をはじめるにあたって、技術的な準備はどのように行われたのでしょうか?

青村氏:試行錯誤しながらとにかくやってみようと。弊社にはエンジニアリングの組織がいくつもあり、ここ数年のホットトピックだったブロックチェーンの基礎的な研究は行っていましたが、NFTはそうした基礎研究の内容と違う部分も多く、グループとしてNFTに取り組むことが決まってから体制を整えていきました。

藤井氏:かなり早い立ち上がりでしたね。2~3カ月のあいだに複数のプロジェクトが立て続けに生まれました。開発組織を作ったのも夏以降ですから、確かにスピード感のある取り組みでした。

青村氏:事業の準備では、技術的な部分を整えることはもちろんですが、購入してくださるユーザーさんのファン心理みたいな部分を突き詰めることが重要だと判断しました。プロジェクトごとのIPに対し、お客さまが抱いているファン心理を深掘りし、より訴求力を高める工夫を模索しました。

企画から販売までを2社で分担

――NFT事業でたとえば売り上げなどの目標や、目指しているビジョンはありますか?

青村氏:NFTはエンターテインメント産業にとってすごく魅力的で、価値のあるビジネスモデル。これを利用してもっと日本のコンテンツを世界に発信し、日本のエンターテインメント業界にお金を還元するモデルを作るなど、社会的にしっかりと意味のある事業にしたいと思っています。

――なるほど。具体的なゴールが設定されているわけではないんですね。

藤井氏:今はまだNFT自体に未知数な部分もありますし、事業を進めていくなかで見えてくるものもあるので、目標を設定するにしてもそれからですね。

青村氏:事業として一定の利益をしっかりと得られるようにする必要があるとはいえ、今はまだ具体的な目標を設定するよりも、優先順位として「NFTマーケットに対して意味があることをどうやって仕掛けていくか」のほうが上だと考えています。

――今回のプロジェクトはNFT活用事業をプロデュースするという文言で語られていますが、具体的にどういうことをされているのか教えてください。

青村氏:NFTの企画を立てるところから発行、財務関連までをワンストップで僕ら2社で行っています。現在までに「香取慎吾NFTアートチャリティプロジェクト」や「ももクロメモリアル NFTトレカプロジェクト」など、11月までにいくつかのプロジェクトをリリースしていますが、これらがまさに事業化の成果ですね。

  • 「香取慎吾NFTアートチャリティプロジェクト」では、寄付を行った人に、香取さんが2015年に描いた壁画のNFTアートを提供

  • 全52種類のカードを取り扱った「ももクロメモリアル NFTトレカプロジェクト」

――個人が作成したアート作品が驚くほどの高額で取引されるなど、NFTにおいては個人の活動も大きな話題になっていますが、今回のプロジェクトでは基本的に企業を対象としたものと考えてよいのでしょうか?

藤井氏:プロジェクトの端緒としてABEMAなどでご縁のあるIPをベースとして想定していたため、企業との取り組みが中心になるとは思いますが、今後は個人を含めたプロジェクトも手がけていきたいと考えています。

青村氏:NFTなら個人の強みを活かせるケースもありますが、一方で個人ではなかなか実現できないスケールのプロジェクトもあり、NFTのアーティストの方々からお声がけいただき、打ち合わせを行っています。

藤井氏:BtoBだけに特定しているわけではありませんが、サイバーエージェントの強みを活かすうえでも、BtoBが中心にはなると思います。

投機ではなくファンマーケティング的側面も

――前述のようなスピード感のある事業展開を考えると、コロナ禍の影響はあまり受けなかったのでしょうか?

青村氏:影響がなかったと言えばウソになりますが、影響を感じさせないくらいコロナ禍でも多くのメンバーがきちんと対策を心がけながらがんばっていました。このスピード感を実現できた一番の理由は、みんなが「絶対に成功させたい」「喜んでもらいたい」という熱意を持って取り組んできたからです。CyberZとOENだけでなく、IPホルダーの皆さまもそこに共感してくださって、それぞれが高い熱量を持って取り組めました。

――先ほど、具体的な目標を決めずに事業をスタートしたとおっしゃっていましたが、初の取り組みとしてほぼ同時に複数のプロジェクトにGOサインを出した判断基準はどこにあったのでしょうか?

藤井氏:僕はNFTのビジネスモデル自体がとても魅力的だと感じていて、それを広く浸透させたいという想いがあります。たとえば、香取慎吾さんのプロジェクトでは、ファン層の幅広さや数を考えると、まさに広くNFTを浸透させるのに大きな役割を果たすはずです。

ブロックチェーンやNFTといった最先端のデジタルな技術に詳しい人に向けるのではなく、どれだけ幅広い層にアピールできるか、認知を広められるかといった観点が、プロジェクトの土台としてありました。

――実際にプロジェクトを進めていくなかで反省点はありましたか?

藤井氏:「ももクロメモリアル NFTトレカプロジェクト」では、「10周年記念東京ドームLIVE」の写真を活用したトレカを制作し、「OpenSea」と「PassMarket」という2つのサービスを通じて限定販売したのですが、「PassMarket」では、わずか1時間で完売しました。

購入するときには需要と供給に応じて変動する手数料がかかるのですが、そうした購入する側の負担をもう少し事前にケアできたらよかったですね。

――具体的にケアできる方策はあるのでしょうか?

藤井氏:既存の仕組みで販売する以上、ある程度は仕方ない部分もあります。ただ、今回はイーサリアムを利用しましたが、それ以外であれば状況は違ったかもしれません。

もうひとつ、今回は10枚でワンパッケージにしていました。これがもっと少数だったなら、取引を少額に抑えられた可能性はありますね。

  • 「ももクロメモリアル NFTトレカプロジェクト」は、1パック10枚セットで限定2,288パック販売

青村氏:今のNFTは、二次流通で差益を出す投機的な面で注目度が高くなっています。そこにおもしろさがあって僕も個人的に取引を行っていますが、そうではなく、ファンが商品を手に取ったときに感動してくださったり、おもしろいと感じてくださったりするケースもたくさん見受けられたんですね。

今回は購入者のベネフィットを追求してのリリースではなく、アイテムを手にしたときの喜びとか、コレクション欲求にフォーカスしました。購入者の感想を見ると、パッケージのシリアルナンバーがいい数字かどうかで一喜一憂されていたり、買えたことを純粋に喜ばれていたり、投機ではなく、「コレクションを目的としたNFTも成立する」という手応えを得られたことは、ひとつの発見でした。

NFTプロデュース事業で重要なのは「ストーリー」

――購入したユーザーが喜びを得られるかどうかは今後の事業でも重要な要素になりそうですね。

青村氏:藤井さんにいつも教えてもらっていることなのですが、僕たちはプロデュース事業ではコンテンツが持つストーリーが大事だと考えています。NFTで扱うコンテンツにストーリーがしっかりあれば「なぜNFTなのか?」「なぜこのタイミングなのか?」といった点で購入者に納得や意味を提供できます。

――ストーリーですか?

青村氏:たとえば、「香取慎吾NFTアートチャリティプロジェクト」の場合、まず香取慎吾さんがパラスポーツに造詣が深く、かねてから応援していた背景がありました。香取さんが感じたパラスポーツの感動をいつまでも残しておきたい、パラスポーツに関わる人に恩返ししたいという香取さんの想いが、ここで言うストーリーです。

タイミングとストーリー、そしてNFTの技術がマッチしたことがこのプロジェクトの成功につながったと思っています。

――NFTではストーリーが重要とのことですが、これはNFTがまだ黎明期だからこそ重視される要素なのでしょうか?

青村氏:僕はNFTが普遍化してもストーリーの重要性は変わらないと思っています。むしろ、デジタルコンテンツであるNFTは、エモーショナルな部分の薄れないストーリーがより重視されるようになると思っています。

しかし、ストーリーが大事ではあっても、これを作るのはかなり大変ですし、難しいし、実行には大がかりな仕掛けが必要になるケースも多いはずです。僕たちはそこに貢献できると思っています。

――藤井さんはなぜストーリーが重要だとお考えになったのでしょうか?

藤井氏:オンラインで購入が完結する場合、アイテムの背景やストーリーに対する共感・関心が重要だと考えているためです。

たとえば、2021年の11月にペイパービューで「朝倉未来にストリートファイトで勝ったら1000万円」という企画を実施しましたが、これは、対戦相手による挑発や生い立ちを事前にYouTubeで話題にするからこそ、期待値が上がって見たくなるもの。唐突に朝倉未来さんと対戦相手の久保田覚さんの試合を配信するよりも価値が高まると思います。

自己表現としてのNFTとデジタルアート

――NFTで取引される「デジタルアート」について、アナログにはない、デジタルならではの魅力や可能性があれば、教えてください。

藤井氏:僕は家にアートを飾るのが好きなのですが、リアルなアートは物理的に飾る場所が足りなくなっちゃうんですよね。保管も大変ですし。そういった制約から解放されるのは、とてもわかりやすいひとつのメリットだと思います。

青村氏:デジタルだからこそ出せるベネフィットがあると思っています。たとえば、世界中の人々が集まるメタバースのような世界で行われるイベントのチケットやアバターの3Dモデル、コスチュームなんかがNFTで販売されたりしたら、そこにはリアルでは出せないおもしろさが生まれると思います。デジタルだからこそ可能な利用方法の追求はこれから進んでいくでしょうね。

僕はアーティストへの応援も兼ねて、SNSのプロフィールに自分が買ったNFTを設定しているんです。これによってNFTに興味がある人との会話が生まれることもあります。

――人と人との接点をデジタルが取り持つ現在では、プロフィールとして機能する面があるかもしれないですね。

青村氏:実際に大手のSNSはプロフィール画像をNFTで認証する機能を実装し始めています。NFTとデジタルアートが個人を表現する世界観になっていくのかもしれません。

――世界共通のマイナンバーというか、社会保障番号のように機能していく可能性はありそうですね。

青村氏:そうですね。そういった実用的に機能するメリットもあるでしょうし、名刺やファッションのように自己表現の手段としても多く使われるようになっていくんじゃないでしょうか?

NFTで取引できるデータの種類というか、表現の幅は無限大だと思っているので、今後はさまざまなものがNFTで取引される可能性があると思っています。

NFTが一般化し、手軽に利用できる未来へ向けて

――今後はNFT事業に関して、CyberZ、OEN以外のサイバーエージェントグループと協働される予定はありますか?

青村氏:今は弊社とOENの2社が先頭に立って、NFT事業でいち早くよい事例をつくることが重要だと話しています。それ以外に具体的な協働の予定は立っていません。

ただ、グループ内の各社でゲーム配信やリアルイベント、物販といった事業に取り組んでいるので、こういった事業とは連動の可能性はあると思っています。

――ゲームをはじめとしたIPの制作、イベントの開催、配信メディアとサイバーエージェントグループの守備範囲の広さは、NFT事業で活きそうですね。

青村氏:サイバーエージェントグループの場合、同じグループに属しているからといって、ひとつの企業のなかの多くの部門がいっせいに連動することはあまりありません。グループ企業それぞれの裁量が大きく、独立性が高いことが長所のひとつなんです。

とても声がかけやすいたくさんの異業種企業がご近所にいるイメージと言えばわかりやすいかもしれません。今回のNFT事業も私から藤井さんに声をかけてはじめて動き出したように、いずれは多くのグループ内企業で組んで、いろいろなことができればいいと個人的には思ってます。でも、まずはCyberZとOENの2社ではじめたこの事業で成功事例を作ることが課題です。

――CyberZとOENでは、NFTの今後の展望、それに向けての事業展開など、今後のビジョンをどのようにとらえていますか?

青村氏:NFTを通して提供できるベネフィットはどんどん増えていくと思います。それに応じてユーザーが利用する局面もどんどん増えていくのではないでしょうか? 今は物珍しくてNFTという単語が強調されていますが、これを意識せずとももっと手軽に利用できるような未来がきたらいいと思っていますし、そこに僕たちも貢献したいですね。