EPOSは、オーディオの力がどのようにゲームの可能性を引き出すのかを伝えるバーチャルイベント「The Power of Audio in Gaming」を開催した。
イベントではまず、R&D部門副社長のJesper Kock氏が登壇し、「脳の聴覚 - 脳は音をどのように処理しているか」をテーマに基調講演を実施。ゲームオーディオ製品がどのような科学的根拠で設計されているかを解説した。続いて、サウンドの有識者を招き、パネルディスカッションを行った。
EPOSサウンドはどのような考えから生まれているのか
ゲームに没入するには、「足音がちゃんと足音として聞こえる」など、現実と同じレベルの音の再現が必要だ。また、ボイスチャットをつなぎながらのマルチプレイでは、チームメイトとのコミュニケーションも大事だろう。さらに、音のする方角がわかるよう、空間定位も重要な要素である。
「最新の研究結果では、すべての音は蝸牛管に達したあと、電気信号に変換され、神経を通って脳内の聴覚皮質に伝達されることがわかっています」と人間が音を認知することを科学的に分析するJesper Kock氏。聴覚皮質のなかで、神経コードと呼ばれる「電気信号の鎖」が意味のあるサウンドオブジェクトとなり、「定位(オリエント)」と「焦点(フォーカス)」の2つのシステムに作用するという。
音源定位がしっかりできれば、ゲーマーの脳はより聴きたい音にフォーカスしやすくなることから、Kock氏はゲーミングヘッドセットを開発するうえで、「音源の位置を正確に把握すること、そして、ゲームに関係ある音のみが聴こえることを担保しなければならない」と主張する。
それらを阻害する要因として、Jesper Kock氏は、空間の再現性の低さやノイズ、不明瞭な声、または、ヘッドセットがフィットしていないことを挙げる。
そのためEPOSでは、これらのキーワードをもとに、ゲーマー向けのヘッドセットを開発。チームとのコミュニケーションに使うマイクには、特定の周波数のノイズを低減させる機能を周囲360にプロットし、スピーカーユニットは、周波数特性を妥協することなく最適化し、すべてのディストーションをなくすよう作られていると話す。
もちろん、装着性も重要だ。だが、人によって耳の形は千差万別。すべての耳にフィットするものを作るのは不可能に近い。しかし、EPOSには世界中から集めた耳型へのアクセスがある。また、ゼンハイザーコミュニケーションズの前身であるデマントが補聴器ビジネスで培ってきたデータベースや聴覚学者のサポートがあるため、耳が痛くならないような設計が可能なのだという。
そのほか、「ゲームにより集中できるようなノイズキャンセリング機能や、10年以上脳の機能を最適化するための研究によってEPOSのサラウンドが生まれました。我々はこれをブレインヒアリングと呼んでいます」とEPOSのサラウンドがどのような考えのもとで設計されているのかを語った。
優先度の低かったゲームサウンドが転換期を迎えつつある
続いて、ゲーム業界のオーディオディレクターや、ゲーム作曲家などによるトークセッションを行った。
登壇したのは、EPOS ゲーミング部門 シニア・ディレクターのAndreas Jessen氏、Avalanche Studios Group リードサウンドデザイナーのDominic Vega氏、Cujo Sound サウンドデザイナーのBjorn Jacobsen氏、Rev Rooms オーディオディレクターのAndy Gibsonn氏、NokNokAudio サウンドデザイナーのMartin Kvale氏の5人だ。
「注目している最近のサウンドの技術革新は何か」というテーマにおいて、Andy Gibsonn氏は「次世代コンソール機の登場やCPUの処理能力の進化によって、音楽を制作するうえでの自由度が高まり、質の高いオーディオを提供できるようになりました」と回答。だが、音の情報量が増えることで、「たとえば、オープンワールドのゲームでは、では定位が必要な音の取捨選択が必要になってきたと思います」とDominic Vega氏が技術革新によって生まれたサウンド面での課題を指摘する。
たしかに、次世代ゲーム機が登場すると、サウンド面でのアップデートも大々的に伝えられる。2020年に発売された「PlayStation 5(PS5)」には、すでに保有しているヘッドホンをPS5本体にUSBで接続するか、DualSenseワイヤレスコントローラーの3.5mmヘッドセットジャックに接続することで、3Dオーディオを体験できる「Tempest 3Dオーディオ技術」を搭載する。
多くの人がヘッドセットを使って、よりクオリティの高いサウンドとともに、ゲームを楽しむようになってきているのだろう。
そのことについて、Bjorn Jacobsen氏は「だからといって、ユーザーは全員がEPOSのようなヘッドセットを使っているとは限りません。そのため現在は、プレイヤーがどんな形でサウンドを聴いているか、ゲームプレイ時に選択してもらっています」とゲーム制作上の難しさを述べた。
次世代ゲーム機が登場する一方で、モバイルのゲームも増えてきている。Martin Kvale氏は「モバイルの場合、プレイする際に音を聴いていないこともあるでしょう。そのため、音だけに依存するわけにはいかないわけです」と、シーンの違いを説明する。
また、Bjorn Jacobsen氏は、これまでゲームにおいてサウンドよりもグラフィックスが優先されてきた過去を指摘。ミュートでプレイするゲーマーが多いというアンケート結果もあるため、ビジュアル面に比べてリソースを割きづらいのだという。
だが、技術の進化に伴い、徐々にサウンドの重要性が見直されているとAndy Gibsonn氏。「ゲームの容量が大きくなり、オーディオに対して情熱を持つ人材も増えてきて、徐々にサウンドの重要性が高まっていると思います」を期待を寄せる。
さらに、「どんな武器を使っているか」「どんな傷を受けたか」を区別できるような、ゲームデザインの一部として音を活用することで、サウンドに対する評価が変わってきたそう。Andy Gibsonn氏は、ゲームの開発部隊からも、「グラフィック以外の要素で、重要なことだとプレイヤーに伝えたいがどうすればいいか」などと相談を受けるようになったと話す。
最後に、Andreas Jessen氏は「消費者のオーディオクオリティへの期待が高まっているのを感じます」と、サウンドの進化について言及。さまざまな人がゲーム業界に入ってきて、より底上げされていくはずだと将来のサウンドの進化を見込むとともに、EPOSが2021年に提供する予定の新製品にも自信をのぞかせていた。