この秋、iPhone用の新OS「iOS 13」をはじめ、iPadやMac用の新しいOSが一斉にリリースされました。これらの新OSでアップルが特に注力したのが、ユーザーのプライバシー保護をさらに強化すること。面倒な設定を済ませる必要はなく、いつも通りiPhoneやiPadを使っているだけで大事なプライバシーをしっかり守れるようになりました。
プライバシー保護の機能は、ユーザーが気づかないところで密かに活躍しているケースが多いこともあり、11月7日にはプライバシー保護の具体的な取り組みを解説する特設ページがアップルのWebサイト内に設けられました(「Apple製品ユーザーなら読むべし、2019年版『プライバシー』ページ公開」を参照)。これに合わせ、iPhoneユーザーにどのような変化がもたらされるのか、この秋にリリースされた新OSで実際に試しつつ、改めておさらいしたいと思います。
プライバシー情報はお金になる
まず大前提として、インターネットに接続して利用するスマホやタブレットで、なぜプライバシーの保護が重要になるのかを改めて確認しておきましょう。
WebブラウザーやSNSなどのアプリを使っていると、検索したキーワードや訪れたWebサイトの内容、現在自分がいる場所に関連のある広告が表示された経験を持つ人がほとんどでしょう。一度検索したものに関連する商品がズラリと並ぶ通販サイトもあります。これは、検索に使ったサイトやインストールしたアプリがあなたの行動データを常に監視しており、そのデータを基にして広告を表示しているからです。
「地図やメール、SNSなどの便利なサービスが無料で使えるし、クレジットカード番号は登録していないから金銭的な被害を受ける心配もない。世界的に知られている企業だし、多少の情報が渡るのは仕方がない」と考える人も多いでしょう。
しかし、Webブラウザーやアプリで使われるのは、こっそり収集されたデータのごく一部にすぎません。データが悪意のある企業に渡って細かく分析されれば、あなたの性別や趣味、結婚しているかどうか、子どもの性別や年齢、自宅の場所、勤務先の会社名や役職、今関心があること、今ほしいもの、今困っていること、抱えている持病などのプライバシー情報が丸見えになってしまう可能性があります。そうなれば、自宅の窓の外から常に誰かが覗いていたり、出勤時や外出時に常に誰かがあとを付けている状況と同然。のちのち、ふだんの生活に思わぬトラブルやしつこい勧誘が舞い込んできて、金銭的や身体的な被害が発生する可能性も否定できないのです。
アップルは新OSでどのような点を強化したか
そのように、サービスを無料で提供することと引き換えにプライバシー情報をお金儲けにつなげるネット企業が増えるなか、アップルは「プライバシーを守りながらでも最善のサービスを提供できる」というポリシーを貫いています。ユーザーのプライバシーを保護するために、iPhoneなどの新OSでは「データ収集を最小限に抑える」「クラウドではなくオンデバイスで処理する」「データを収集する際は透明性を持って伝える」という改良を加えています。
そのうえでまず力を入れたのが、位置情報の保護です。iPhoneなどの最新OSでは、アプリが位置情報を収集することに制約を加えられるようになりました。これまでは一度承認すれば、アプリは使われていない時もバックグラウンドで位置情報を取得できました。しかし、新OSでは「1度だけ許可」という項目を追加し、アプリを利用している時のみ位置情報を提供できるようになりました。そのように設定しておけば、アプリが位置情報を取得しようとするたびに確認のウインドウが表示されるので、意図しないタイミングで位置情報の取得があったことが把握でき、本来想定している用途以外で位置情報が使われるリスクが確実に減るわけです。
アプリが位置情報をどのような用途に使うかは、取得時に表示されるウインドウだけでなく、「設定」→「プライバシー」→「位置情報サービス」でアプリを選択しても確認できます。
プライバシー重視のソーシャルログイン「Sign in with Apple」
鳴り物入りで追加されたのが、ソーシャルログインの「Sign in with Apple」(日本語表記は「Appleでサインイン」)です。さまざまなWebのサービスやアプリを利用する際、いちいちユーザー登録をせずにSNSなどのログイン情報でログインできる「ソーシャルログイン」が普及していますが、そのアップル版というべき存在です。
ソーシャルログインはFacebookやGoogleなどが提供していますが、ユーザーの名前やメールアドレス、誕生日、居住地など、自社が持っている情報をログインするサービスの会社に渡すケースが少なくありません。つまり、ユーザーは面倒な会員登録の作業が省ける代わりに、大事な個人情報を差し出しているわけです。
ユーザーのプライバシーを売り物にすることをヨシとしないアップルがこの状況を看過するわけはなく、満を持してApple IDでログインできるソーシャルログインを作ったわけです。iPhoneやiPadでのログインは簡単で、白い「Sign in with Apple」(「Appleでサインイン」)をタップし、Face IDかTouch IDを使って認証を済ませるだけ。Apple IDやパスワードを入力する必要は必要ありません。
手間をかけずにログインできるのがSign in with Appleの特徴ではありません。ログインする際、誕生日や居住地などのプライバシー情報は渡さないだけでなく、希望すれば名前やメールアドレスを伏せてログインすることも可能。メールアドレスはログインのためにランダムで作られたものを使うため、そのアドレス宛てのメールをブロックすれば、それ以降は不要なメールを受信せずに済みます。
Sign in with AppleはアプリだけでなくWebサイトでも使えるので、AndroidスマートフォンやWindowsパソコンなどアップル以外のデバイスでも利用できます。この場合はApple IDやパスワードの入力が必要になりますが、プライバシー保護のメリットはiPhoneとまったく同じです。
ポケットのスマホにはプライバシーが詰まっている
アップルがYouTubeで公開したiPhoneとプライバシーに関する動画では、「あなたのプライベートな情報は、家よりも携帯電話の中にある。ポケットの中に、あなたについての大事なことが詰まっている」と、日ごろ何気なく使って外にも持ち出しているスマートフォンはプライバシーの塊だ、ということを改めて注意喚起しています。個人情報が詰まっているスマートフォンや、それを動かすOS、周辺のサービスがどのような思想のもとに作られているか、改めてチェックしてみるのもよいかもしれません。