4月24日に開催されたイベント「Wacom Creators' Symposium」で、ワコムはVR/MR用3D描画ツールの試作機をお披露目しました。

  • 3D描画ツールのデモの様子。VR世界にデジタルペンが再現され、造形が進められていきます。タイヤを四隅に配置してラフスケッチのように自動車のボディを描き、クリエーターのアイディアをカタチにしていく様は圧巻でした

「VR/MR技術を活用した3D描画ツールのご提案」と題して講演の壇上に上ったワコムのクリエイティブ・ビジネス・ユニット プロダクトライフサイクルマネージメント シニア・バイス・プレジデントの玉野浩氏。パナソニックに入社後以降、通信畑を歩んできた人なのですが、2015年にHTC NIPPONの代表取締役社長に就任し、ヘッドマウントディスプレイの代名詞とも言える「HTC VIVE」を日本に広めた方そのひとなのです。

  • にこやかな表情で3Dクリエーションに対するワコムらしいアプローチを提案する玉野浩氏

通信畑からVR畑へ、本格的に3D/VRコンテンツのクリエイティブツールの開発に携わることとなった玉野氏。平面の世界で3Dを制作するのではなく、直接VRやMRの世界のなかで立体を形作っていく環境が整ったら、いったいどんなクリエイティビティを発揮してくれるのだろう。そうした、クリエーターの閃きに対する期待を寄せ、カタチとなったのが今回お披露目となった3D描画ツールというわけなのです。

VR空間上に直接描く! こだわりはトラッキング精度

さて、2016年にフィーチャーされたVRですが、2017年は大きなトピックも少なく「鳴り物入りでやってきたVRだけれども、結局何に使うのだろう?」と興味が離れたのではと玉野氏。しかし、様々な業界において“業務にVRをどう活かすか”を真剣に考えている企業の多さに気付かされたのだそう。

例えば、自動車デザインの現場では、紙を使ったスケッチからモデリングを行い、複数回にわたり実寸大のクレイモデル制作を経て煮詰めていきます。しかし、課題として、3Dデータと実物の差を埋めるべく、長い工程と作業量に加え長大なデータのやり取りに苦慮していたといいます。

  • ユーザーの意見やワークフローを把握し、クリエーターに寄り添うツールを生み出すべく立ち上がったワコムVRプロジェクト

ワコムが来年度に実用化を見込んでいるのは、VR空間上に直接描画できるソフトウェア「gravity sketch」との組み合わせで、その課題を解消すべく生まれた3D描画ツール。この実証用試作機(Proof of Concept:PoC)を開発するにあたって、いくつかのチャレンジがあったと玉野氏はいいます。

  • 自動車のデザインにおいては、スケッチから3Dへのモデリングを経てクレイモデルで検討していくというワークフローが主流だと玉野氏。その制作過程の課題を解消するべく世に送り出そうと鋭意開発中なのが実証用試作機(Proof of Concept:PoC)

もっともこだわったのは、ワコムのテクノロジーの代名詞でもあるデジタルペンを用いることとそのトラッキング精度だそう。クリエーターの創造力をスポイルすることがないよう、ペン先から意のままにVR空間に筆を走らせることができるといいます。また、そのインプットコントローラーにも工夫が凝らされており、長時間の作業でも腕に疲労がたまらないよう軽量化が図られているほか、前述したようにデジタルペンを活用することでワコム製品へシームレスに連携することも目指しているとのこと。

  • 写真上は構成イメージ。写真下はインプットツール(描画用コントローラー)で、IRライトボックスを用いたトラッキング方式(SteamVR)で、インプットコントローラーでVR空間内に描画していきます

紙にスケッチする良さを3D空間で再現

ワコムも開発に協力しているソフトウェア「gravity sketch」とワコムのこだわりが凝縮されたインプットコントローラーの実力はいかほどのモノなのか。玉野氏は「実際に見ていただくのが早い」と、ビデオ映像を公開。ルーカスフィルムのチーフデザイナーが使用している様子を披露しました。

映像を見た印象では、紙に描くスケッチ、つまり2Dの制作の良さと、ダイレクトに3D空間にオブジェクトを創造できる手軽さが上手に融合されているなと感じさせられました。アイデアを試行錯誤する段階において、平面ではなく立体として煮詰めていくことができるため、"2Dから3Dへ"という作業工程をスキップすることもできそう。

細部の作り込みまで「gravity sketch」で行うことも可能とのことですが、クリエーターが使用する既存のCAD・3Dソフトとの連携も視野に入れており、エクスポートしたデータを外部ソフトで読み込み、仕上げを行うことも可能にしていくということです。

  • 「gravity sketch」の実力の一端が垣間見えるのがこのスライド。約4時間でスライド内右にあるロボットの造形も可能だと玉野氏

  • 写真では伝わりづらいのですが、こちらがルーカスフィルムのチーフデザイナーが「gravity sketch」を用いて未来的な飛行機を創造している様子のビデオより抜き出したワンシーン。VR空間上に描いた線を鏡面で反射させたようにオブジェクトが展開するなど、様々な機能を駆使して描いていました

  • こちらも、ものの数分で何もなかった頭部にサングラスとヘッドフォン、そして髪の毛をすらすらと。茶目っ気たっぷりな髭も、精緻さの光るヘッドフォンも、クリエーターのアイディアをそのままダイレクトに表現していました

VR/MR/ARの利活用シーンは、今後その領域を拡大していくことでしょう。その際、それらのコンテンツで表現される"モノ"のクリエイティブにおいて、クリエーターの相棒として心強い道具となる3D描画ツール。今後製品化に向け、より高いレベルでのトラッキング精度を保ちつつインプットコントローラーを小型・ワイヤレス化や、産業・業種ごとのワークフローを理解し最適化されたUIの提案などが図られるといいます。