パナソニックは11月29日、機関投資家や証券アナリストを対象に同社の技術に関して説明を行う「技術IR」を開催した。
同社が、技術部門に関してIR説明会を行うのは10数年ぶり。そして今回発表した内容は、単なる技術説明ではなく、むしろイノベーション戦略の説明会と位置づけられるものだった。実際、パナソニック 専務執行役員 CTOの宮部 義幸氏は、「10数年前は6000億円の研究開発費用を、どう効率的にマネジメントするのかという話だったが、今はイノベーション戦略が重要になる」と話す。
パナソニックは、今年4月に「研究開発部門」を再編したうえで「イノベーション推進部門」へ改称を行った。「狭義の技術開発を行うのではなく、ビジネスプロセス全体をみることができる組織へと転換した」(宮部氏)こともあわせ、イノベーション戦略が同社のコアになりつつあることを裏付けるものだといえる。
7月スタートの「β」、すでに1200のアイデア出し
イノベーション戦略の最たるものが、新たに発表した全社横断プロジェクト「Panasonic β」の設置だろう。
パナソニックでは、これまでの事業部体制によるモノづくりを「タテパナ」と表現し、横串を通した新たな体制を「ヨコパナ」と表現している。Panasonic βは「ミニヨコパナ」の実現を目指し、「イノベーション量産化のマザー工場」と位置づける。ソフトウェアやデザイン、AI、データサイエンスといった職能の"ヨコパナ化"と、各事業部の横断的組織による"事業部のヨコパナ化"によって、クロスバリュー型の成長を目指す。
「パナソニックのような(伝統的な大)企業は、イノベーションを起こそうとすると歴史的に阻害要因がある。これを取り除かないと、実効性につながらなくなる。これを解く仕組みが『Panasonic β』だ。独立した新たな会社のような形で、デジタルネイティブビジネスを構築するものであり、パナソニックのビジネスプロセスやビジネスモデルをデジタル変革していくことになる」(パナソニック ビジネスイノベーション本部 副本部長 馬場 渉氏)
Panasonic βの「β」は「パーフェクション文化」、つまり何事にもミスを許さない完璧主義と相対する姿勢を示すもので、「不完全なもので多くのトライアルを指向する部門であることを示した」という。7月にスタートしたこの取り組みは、1293個のアイデアから81個のアイデアをプロトタイプ化。そのうち31個をハードウェアとして実装し、3つの「住空間プロトタイプ」として体験できるレベルにまで至っている。
「私が知る限り、こんなにスピードが速い会社はなく、シリコンバレーのスタートアップ企業よりも速い。最初は5人、3職能が参加していたに過ぎなかったが、現時点では4カンパニー、29人、9職能が参加している。建築やエネルギー、IT、家電といったさまざまな分野のスキルを持つ人材が、全社を巻き込む形に発展している」(馬場氏)
7月からという短期間でプロトタイプ化、ハードウェア製造による具現化までのスピード感はすでに証明されたと言っても過言ではないが、馬場氏はまだ商品化まで至っていない点を課題視していた。