AppleがApple Store実店舗で提供しているジュニア向けプログラム「Field Trip(フィールドトリップ)」がApple 銀座にて開催された。今回は茨城県古河市の上大野小学校の生徒、19名が参加した。

Field Tripは一年を通じてApple Storeで開催され、幼稚園生から高校生までを対象としている。今回は茨城県古河市の上大野小学校の6年生、19名が参加。ことわざをテーマに劇を上演し、iPadでビデオを撮影、編集するというワークショップが実施された。

ハイタッチと拍手で迎えられる19名の上大野小学校の生徒たち

まずは恒例のハイタッチと拍手で、ストアのスタッフがお出迎え。ワークショップが実施される3階のシアターへと向かう。着席後、これまた恒例となっている黄色いTシャツへの着替えタイムに突入。これは参加者全員に配られることになっている。

黄色いTシャツへの着替えタイム

Appleはこのところコミュニティにフォーカスする動きがあって、その中でも教育分野には特に注力している。Apple製品、サービスを通じ、学校の課外授業のような形で、普段の学習の幅を広げていってほしいという想いがそこにはある。小中学生向けのプログラムも数多く提供されていて、昨年秋もプログラミング・ワークショップ「Hour of Code」が開催された。2020年になるとプログラミングが必修教科となるが、それに先駆けて、Apple Storeではコンピュータプログラミングの基礎を学べる無料のイベントを実施しているのだ。店内ではプログラミングを学ぶための玩具も取り揃えている。

上大野小学校のある古河市ではICT教育を積極的に導入していることもあってか、自分でコードを書いたことがあるという子が何人かいた。今回は「国語」と「総合」という授業の一環でField Tripに参加とのことだが、6年生の全科目でiPadを利用しているのだ。

持参したiPadを取り出し、ワークショップがスタート

子供たちが持参したiPadを取り出し、ワークショップがスタート。今回はiPadで撮影を行い、iMovieを使ってタイトルなどを入れ込み編集していく。最終的に1分程度のムービーに落とし込んでいくのだが、1時間半という制限時間内に完成させるという、タイムマネージメントも要求されている。

スタッフから撮影のノウハウが伝授

スタッフからは、撮影のノウハウが伝授される。ピント合わせや露出の調整、集音のために被写体になるべく寄ること、編集ポイントの確保のため、前後3秒ほどマージンをとること、素材は多めに撮る、画面がガタガタしないよう脇を締めてカメラ構える、そしてカメラiPadを「横」にして撮影するといった解説が続く。最後のiPadを「横」にするのは、実は一番重要である。何故か? 自宅のテレビをご覧頂ければ分るだろう。駅構内などで設置されてるCF用のモニターを除いて、基本、映像は「横」だ。モニターが縦に設置されていたとしても、実際は横で編集されている。iPhoneやiPadで動画を撮るのにうっかり縦で構えてしまうお父さんお母さんがいたら、これからは注意してあげよう。

手際よく撮影を進めていく

続いてグループに分かれて撮影に入る。演出やカット割りは予め決めてきていたようで、手際よく映像を収めていく。15分ほどのカメラシューティングののち、iMovieを使った編集へ。スタッフのアドバイスを受けながら、撮ったムービーをタイムラインに並べ、尺を調整し、音やタイトルを入れて作品に纏め上げていく。どのグループもiPadの操作には慣れているといった様子で、15分程度の短い時間でもサクサクと作業を進めていった。

手早く編集。時間管理も大事

編集が終わったところで、各グループの映像をスクリーンに投影。「二度あることは三度ある」「嘘も方便」「馬の耳に念仏」などをテーマとした作品が次々に上映された。クスッと笑えるものもあれば、音楽までキッチリ入れ込んだものまで、実にさまざまな仕上がりだ。

仕上がった作品が次々に上映された

最後は修了証書と成果が収められたUSBメモリ付きのバンドが授与され、店舗前で記念撮影。参加者全員が主役のField Tripの幕が下りた。

修了証書と成果が収められたUSBメモリ付きのバンドの授与式

最後は店頭で記念撮影

先頃、Washington PostHuffington Postが、米国のドナルド・トランプ大統領は、全米芸術基金と全米人文科学基金を廃止する意向であるようだと報じた。トランプ大統領はもとより、アートや読書に興味がないと遍く知られていたが、それとは別に、筆者はその数日前、英国のファッション/カルチャー誌である"DAZED"で、こんな記事を目睹していた。

それによればテート・モダンでは、ロンドン芸術大学のカレッジの一つであるセントラル・セント・マーチンズの学生、OBと協力して、一般市民をギャラリーに呼び込むのを目的に無料のポップアップアートスクールを開講したとのことだが、この施策には、STEM教育の推進により、芸術分野の科目が軽視されるかもしれないという危惧が見え隠れする。英国政府は、GSCE試験から、新しいイングリッシュ・バカロレア試験への移行を目論んでいるのだが、そこでは、アートやその他のクリエイティブな科目を除外するというのだ。セントラル・セント・マーチンズのアート・プログラムを推進するアレックス・シャーディ氏は芸術分野の教育への脅威を訴えており、無料のポップアップアートスクールの開講もそういった危機への対抗を示すものだと見られている。

米国でも英国でも、芸術分野を中心とした人文科学の領域で未曾有の危機が訪れようとしているのである。だが、アートやクリエイティブな科目は軽視するべきではなく、むしろ重視するべきだということをAppleは教えてくれる。Appleの製品やサービスを支える一部として、そのデザインが果たす役割については今更論じるまでもないことだろう。もちろん、有能な人材を確保するという意味でも、AppleはSTEM教育にコミットしていくはずだが、それがすなわち、人文科学系の排除とはならない。それより、次の時代を担っていく人々のために、自然科学だけでなく、社会科学、人文科学ともに幅広い支援を行っていくことだろう。不偏不党な多様性はAppleにとって重要なキーワードなのだ。

今回のField Tripを報道向けに公開したのも、そんな意味が込められていると筆者は感じた。全ての教科でiPadを利用している上大野小学校はロールモデルとしてぴったりだからだ。もしかしたら、日本の人文科学系の教育関係者の中にもこういったICT教育の展開に不安や疑念を覚えたりしている方もいらっしゃるかもしれない。だが、テクノロジーは決して、あなたたちの「敵」ではない。