ワコムは、同社が主催するクリエイター向けセミナー「Wacom Creative Seminar」の1周年を記念して、スペシャルセミナー「Wacom Creative Seminar Special」を開催。本レポートでは、画像処理のテクニックと同社ペンタブレット「Intuos5」の活用方法について実演を交えながら解説した、フォトレタッチャーの北岡弘至氏によるセッションの様子をお伝えする。
レタッチがきっかけでペンタブレットユーザーに
北岡氏がペンタブレットを使い始めたきっかけは、フィルム写真のレタッチだった。フィルム写真のスキャンにはどうしてもごみが入ってしまうため、そのゴミを取り除くためにペンタブレットを使い始めたのだ。ペンタブレットを使い始めたころは、描いた画像が表示される点と、描く手元が異なることに違和感を覚えたという北岡氏。しかし、仕事を通じて徐々に慣れ、いまではメールやインターネットでもペンタブレットを使っているという。
また、同氏は16日に発売される新製品「Intuos5」を実際に使ってみて、ペンを触ったときの質感とポータブル性がいいと評価。撮影の現場にノートPCを持参し、その場でレタッチをすることがあるため、ペンタブレットの携帯性は非常に重要なのだという。また、クライアントにグラフィックをモニターで確認してもらう時などは、ワイヤレス接続を利用することで、スマートにやり取りができると語った。
ありふれた写真を"舞台"に仕上げるテクニック
北岡氏が今回のセミナーで伝えたいと強調していたのは、「レタッチは、パスとブラシでマスクを作って、さらにトーンテーブルの理解ができれば大体のことができる」ということ。その中でも、特にマスクの部分が取り上げられた。
今回のセッションでは、実際に同氏が手掛けた広告制作を例に解説が行われた。この案件でまず取りかかったことは、元となる電車内の写真から余分なものを消し、シートの色を変えていく作業。また、パスで選択範囲を指定し、写真に合わせて色味を変えていった。
次に、外からの光を加える作業。窓枠をマスクでつくったあとに、枠をぼかし、必要のない部分、明るくしたくない部分を塗りつぶすことによって、窓枠だけを作る。そこにトーンカーブをつけて加工した。
最後に、スマートフォンのキャラクターをシート上に配置。日差しが入った明るいシーンを想定し、それぞれレイヤーを作って、距離に応じて濃度などを調整した。
人物写真のレタッチにおける秘訣とは
続いて、例に挙げられたのは銀行の広告制作案件。ここでは、特にレタッチが難しいとされる「髪の毛」に関する加工の解説が行われた。まず、エッジの立っている髪をなぞり丁寧にマスクを取り、フチの白い部分をトーンカーブで黒くして自然に仕上げる。
髪の毛のレタッチはそれだけでも難しいが、暗い中での黒い髪の毛という組み合わせや、写真の一部が切れているとなると、さらに難易度は上がる。そういった場合は、まずできる限り写真を明るくして、ブレている部分、ボケている部分などを分けてアウトラインを取るのがポイント。髪の毛以外の部分を別に作っておいて、あとで髪の毛を追加し、徐々に階層を重ねていくことで髪の毛のやわらかさを表現するそうだ。
最後に北岡氏は、人物写真のレタッチにおける最近の傾向と自分なりのコツについて、「肌の質感、角質を残してできるだけ綺麗にするやり方がトレンド。自分の場合は、まず最初にすべて綺麗に直してしまう。その後で、オリジナルの写真とレタッチ後のプレビューを見比べながら、そのひとの特徴的な部分(例えば、男性だったら顎の割れ方など)を残す"引き算"のやり方をしている」と、その秘訣を語ってくれた。