新たなパーソナルツールとして開発

「Bento」

長いMacの歴史の中で、パーソナル向けのデータベースソフトはこれまでほとんど存在しなかった。データベースソフトと言えば「FileMaker」。これがMacユーザの常識だった。しかし、ファイルメーカーが作った「Bento」はそんな状況に大きな風穴を開けた。

同社独自の調査によると、データベースを必要と考えているユーザは全体の75%にも上ったが、そのうち2/3が導入をためらったこと、そして、回答者の半数がわかりやすいデータベースを望んでいたことが分かったという。それが、Bento開発のきっかけとなったようだ。

なお余談であるが、古くからのMacユーザにとって、Bentoという名前は「OpenDoc」のコードネームとして聞き覚えがあることだろう。しかしBentoとOpenDocとは関係なく、「"幕の内弁当"のようにさまざまなデータを美しく分かりやすく統合管理できるツールを」という思いでネーミングされたようだ。

米FileMaker社長 ドミニーク P. グピール氏

ーBento開発のきっかけを教えてください

ドミニーク P. グピール氏: Mac OS XにはiWorkやiTunesなど、個人のインスピレーションを刺激する良質なソフトが揃っています。iWorkがビジネスの生産性を再定義したように、全く新しいパーソナル向けのデータベースソフトを作ろうと考えたのです。

ーBentoはLeopard専用とのことですが、今後Windows版もリリースされるのですか?

グピール氏: Bentoリリースの背景にあるものは、アップルのコンシューマ市場における成功があります。Macユーザは、アップルの良質なソフトを享受し、その良さになじんでいます。そのようなユーザに対してBentoのコンセプトは理解してもらいやすいだろうと考えているのです。

まずは、このMac版で成功することが目標であり、今後Windows版を出すかどうかは未定です。

ー開発にあたって特に注力された点はどこにありますか?

グピール氏: "データベースソフトは難しい"という常識をどう乗り越えるか。そこが苦労した点です。その答えはユーザが使っているMacのHDDの中にありました。「データベースというものは、データ入力をしなければならない」。そんな敷居の高さがありました。しかし今や、iCalやアドレスブックなどさまざまな情報を持っています。これらの情報をリンクして活用することは、これからの時代に求められるものと思います。

ーこの製品で想定される用途はどのようなものでしょうか?

グピール氏: Bentoはパーソナル向けデータベースソフトです。しかし、「パーソナル」と言っても、家の中だけで使うという意味ではありません。会社では仕事で必要な情報を管理し、家では趣味や家庭内の情報管理に使うといった具合に、さまざまなシーンで利用できるようにデザインされています。

ーTigerなど前バージョンのOSをサポートしていない理由は?

グピール氏: Bentoは、Leopardの持つさまざまな機能を活用し、美しい成果物ができるようにデザインされています。旧バージョンのサポートを行うと、プログラムが複雑になってしまい、ソフトウェア自体の良さを生かすことが難しくなります。我々は、できるかぎりシンプル、かつベストなソフトを作りたかったのです。

ー開発にあたってアップルからの特別なサポートはありましたか?

グピール氏: いいえ。これは、サポートが必要になるような特別なAPIは一切使っておらず、全てLeopard標準のものを利用して開発しているためです。もちろん、アップルとの良好なコミュニケーションの上に成り立っている製品であることは間違いありませんが。

ーFileMakerとの統合は行えないとのことですが、その理由を教えてください

グピール氏: FileMakerとはCSVファイルでデータをやりとりできますが、システムの統合は考えていませんでした。ビジネスユースの本格的なRDBとパーソナルユースのBentoとを統合することは難しく、下手に統合すると中途半端な製品になる危険があります。「パーソナル向けとして最高の製品を作りたかった」というのが私たちの思いでした。FileMakerはビジネスで、Bentoをパーソナルでと、両方使いこなしているケースも多々見受けられます。

ー現在のBentoの評判は如何ですか?

グピール氏: プレビュー版のダウンロード数は記録的な数となりました(1月上旬の段階で14万本以上がダウンロードされ、3月19日の発表では25万本以上とさらに増えている)。楽しく、エレガントで美しい。クリエイティビティを刺激する製品であるとの良好なフィードバックを得ています。

ーBentoはすばらしいのですが、iCalやアドレスブックの印刷機能に満足しないユーザがたくさんいます。Bentoから直接印刷できたらと思うのですが?

グピール氏: 貴重なご意見、ありがとうございます。日本でのそのような状況が把握できていなかったので、今後この件について検討したいと思っています。

ーテンプレートについて教育向けのものが目立つように思いますが、何か意図されていることはあるのでしょうか?

グピール氏: Bentoは、教育市場においてかなり注目されており、多くの問い合わせをいただいています。昔、私どもの会社がクラリスという名称だった時代にも、教師や教育関係者のみなさんがさまざまなテンプレートを持ちよって交換し、授業計画を作ったりレポートをまとめたりといったことがありました。Bentoは、このような市場でも大きな力を発揮するものと思います。

ーデータ共有機能など、今後の新しい機能追加はありますか?

グピール氏:そうですね。データ共有機能についても検討していきたいと思っています。なお、私どものWebサイトでは、ユーザ同士が交流できる「フォーラム」を設けております。フォーラムでは日々活発な議論や提案が多数寄せられています。私たちは、いただいた要望全てを実現することは保証できませんが、優先度の高いものから実現し、より良い製品にしようと考えています。

                 ※※※

満を持して発売されたBento。「難解で専門的で、入力が大変」というデータベースソフトの概念を根底からくつがえしたBento。その良さは、ソフトを起動し、実際にいろいろと操作してみることで十分実感できるだろう。エレガントでスマートに、美しい成果物を作成できる。そのMacの優位性が、ついにデータベースの世界でも実現したのだ。

もちろん、こんなソフトは他に類を見ない。いわゆる"表計算ソフト"は世の中に多いが、Bentoのような直感的な操作はもちろん、美しいデザインのテンプレートを選び、手軽にライブラリを作って情報を管理するなどという芸当はとても不可能だ。まさにBentoは、Macそのものの魅力、アドバンテージをさらにアップさせる画期的なソフトといえる。恐らく、従来の表計算ソフトでは想像できないような世界が、ここにあるのだ。