NVIDIAが自社のイベント「GTC 2024」で新製品を発表した。報道各社が「生成AIでリードを続けるNVIDIAが新型半導体を発表」といった見出しで大きく取り上げた。昼間のテレビのニュースでもCEOのJensen Huangが巨大チップを見せる画像が映し出された。昨年来のAIブームによる半導体各社の株価上昇がけん引する日米の株式事情のニュースとともに、NVIDIAブランドは一般人にもすっかり定着した印象を持つ。

AI半導体市場を独走するNVIDIA

昨年のNVIDIAの大躍進を支えた「H100(通称:Hopper)」の後継機種である発表された新製品は、「B200(通称:Blackwell)」となずけられた。

最近のNVIDIAのイベントに関する報道によると、2つのGPUチップを中央に据えて、その周辺をHBM(広帯域メモリー)が囲む形で実装されているという。前製品のH100と比較するとかなり巨大に見えるチップである。私は、この40年の長きにわたってCPUの新製品のチップ写真を眺めてきたが、そうした新製品のチップ写真を見るたびにそれにかかわった設計・製造エンジニア達の新製品に懸ける熱い思いを感じる。H100は発表以来、需要の急増で単価が高騰する状態を続け、その恩恵を受けたNVIDIAは前年対比総売り上げが2倍という驚異的な成長を遂げた。自社イベントで新製品であるB200を発表したCEOのHuang氏は、供給増による品薄緩和を訴えるが、急拡大を続ける生成AI市場の旺盛な需要増は勢いを落とす気配はなく、CUDAのソフトウェア環境で、ユーザーをがっちりと抑えているNVIDIAの独走はしばらく続くものとみられる。恒常的な供給不足に伴う単価高騰は新製品でも続くだろう。

  • NVIDIAの「Blackwell GPU」のダイイメージ

    NVIDIAの「Blackwell GPU」のダイイメージ (出所:NVIDAI)

まだ始まったばかりのAI半導体市場

昨年はNVIDIAの独走に呼応するように、AMDを始めとする多くの競合が一気に市場参入した年でもあった。生成AIに限らず、HPC・シミュレーション市場なども含めて、AI活用の場が飛躍的に拡大していて、競合が充分に共存できる級数的な市場拡大がこの背景にある。半導体ブランドではかねてよりGPU市場で競合してきたAMDが現在では頭1つ抜け出している印象だが、かつてAMDに在籍したJim Keller率いるTenstorrentや、ウェハスケールの異色の超大型チップ製品でHPC市場に参入するCerebrasなど、各社が個性豊かなアーキテクチャーで新製品を投入し、市場は大いに盛り上がっている。報道によるとCerebrasの最新製品が集積するトランジスタの数は4兆個だというから、驚きである。

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    4兆トランジスタを搭載したCerebrasの第3世代ウェハスケール半導体「Wafer Scale Engine-3(WSE-3)」(出所:Cerebras)

単価高騰、品薄、買占め、などの言葉が行きかうAI半導体市場でのNVIDIA一強の状況が続く今日では、MicrosoftやGoogleなどのハイパースケーラー各社による自社チップ開発にも充分な理由がある。これまでAI分野では沈黙してきたAppleも、早くもコモディティー化が進む自動運転市場への参入を一旦諦め、それに関わっていたエンジニア部隊を、AI市場への本格参入に振り向けるという。独自開発のMシリーズCPUなど、CPUの開発では大きな存在感を持つAppleが、強力なAIチップを独自開発しているであろうことは、充分に想像できる。もっぱらの関心はその進捗状況はどれほどで、本格参入がいつになるかである。

AI機能はサーバー側だけでなくエッジノードでも展開が始まり、その環境に適したより省電力で安価なAI半導体も今後多く出現することも予想される。

こういった状況を見ていると、Windows 3.0からWindows 95が発表されたくらいの1990年代のPC勃興期に、AMDやCyrixなどの互換CPUが続々と登場した時期に感じたワクワク感が思い出されるが、当時と現在のAI市場拡大と決定的に異なるのは、その巨大な市場規模とプラットフォームの多様化である。AI半導体時代はまさに始まったばかりだという印象を持つ。

供給を一手に請け負うTSMC

冒頭にご紹介したNVIDIAの年次イベントGTC 2024で、CEOのJensen Huangは2つのチップを手にしていた。H100とB200と思われるが、特に新製品のB200は巨大なチップである。もちろん複数のチップがタイル状に敷き詰められたパッケージ製品であるが、各々のチップはダイサイズとしてはかなり巨大である。私は業界に長くいすぎたせいで、こうした巨大チップを見ると、「直径300mmのウェハからどれだけとれるのだろう」とか「出だしの歩留りはかなり悪いだろうな」などと余計なことを考えてしまう。

チップの製造を考えると、どうしてもNVIDIAを製造で支えているファウンドリのTSMCの状況が気になる。最近、TechInsightsの調査による興味深い記事を目にした。ファウンドリを含むすべての半導体ブランドの総売り上げのランキング記事である

ファウンドリ企業とファブレス企業の売り上げが混在しているので、もちろんダブルカウントされているのではあるが、興味深いことに、世界最大の半導体企業は台湾のTSMCである。NVIDIA、AMDやAppleなど、ファブレス企業のハイエンド品の製造を一手に請け負っているのがTSMCである。2022年から2023年にかけて総売り上げを2倍にするという驚異的な成長を遂げたNVIDIAは、半導体ブランドとしては世界最大となった模様であるが、総売り上げの単純比較でNVIDIAの売り上げを上回ったTSMCがいかに巨大な存在かを実感する。TSMCの売り上げは、ファブレス企業への処理済みウェハに対する代金の総体であるから、その単価は製造プロセスの先端化とともに上昇しているとはいえ、NVIDIAのエンド市場での単価高騰よりははるかに低いことを考えると、そのアウトプットはまさに圧倒的と言える。

ファウンドリ市場ではTSMCによる一強状態が続いているが、これにも今後変化が訪れる可能性がある。IDM 2.0を目指すPat Gelsingerが率いるIntelは、米政府による85億ドルの資金提供をようやく正式に受けることとなり、アリゾナ、ニューメキシコ、オレゴン、オハイオの4州で建設中の新工場に今後5年間で1000億ドルの設備投資を行う予定だ。これらの工場での最先端技術による量産などが成功すれば、5年後にはTSMCと肩を並べるファウンドリキャパシティが生まれることになり、そのプロセスラインでどのブランドのAI半導体が製造されるかは、現時点ではまったく想像がつかない。

「AI半導体を制するのは誰か?」という問いの答えはまだ予測不能の状態である。