京都府立医科大(KPUM)は12月5日、日本多施設共同コホート研究「J-MICC STUDY」の一環として、約3.6万人を超える日本人女性を9.4年間(中央値)追跡したデータを用い、座っている時間と乳がん罹患の関係について研究を行った結果、世界で最も長い時間を座位で過ごすといわれている日本人について、1日7時間以上座っていることが乳がん罹患リスクを上昇させることを解明したと発表した。

同成果は、KPUM大学院 医学研究科 内分泌・乳腺外科学の富田仁美フューチャーステップ研究員(KPUM大学院 医学研究科 地域保健医療疫学 併任)を中心とする約30名の研究者が参加した共同研究チームによるもの。詳細は、日本癌学会の公式欧文学術誌「Cancer Science」に掲載された。

乳がんは、日本人女性で罹患率が最も高いがんとして知られる。がんはさまざまな要因が組み合わさって発症するが、そのおよそ35%は生活習慣を改善することで予防できるという研究報告がある。また別の研究報告によれば、日本人の乳がん罹患の原因のうちおよそ5%は運動不足に起因しているとされ、運動は乳がん罹患のリスクを下げる効果があるという。しかし、年齢や性別、体格などに個人差があるため、個々の適度な運動量を明確に提示することは容易ではない。

一方で近年になって、長時間の座位行動(横たわるなども含む)は、健康に悪影響を与えることがわかってきている。WHO(世界保健機関)でも2020年に長時間の座位行動を「健康を害する行動」として位置づけており、他国ではガイドラインを作成するなど、座位時間を減らす対策が進められている。

それに対して日本人の座位時間は、国際標準化身体活動質問票2011年のデータ(日本人約5000人)によると、世界で最も長く、中央値は1日当たり7時間という結果が出ているという。そのため座位時間とがん罹患の関連についても指摘され始めているが、1日の座位時間と乳がん罹患の関係が示された報告はまだないとのこと。そこで研究チームは今回、座位時間と乳がん罹患の関連を明らかにし、さらに運動することでその関連の解消になるかどうかについての分析を行ったとする。

  • 国別の平日の座位時間

    国別の平日の座位時間(出所:KPUM プレスリリースPDF)

今回の研究では、3.6万人超の日本人女性の9.4年間(中央値)の追跡データを用いて、1日の座位時間と乳がん罹患の関係を分析。さらに、余暇の運動量として代謝当量(METs[hour/day])、余暇の運動頻度、1日の歩行時間と座位時間を掛け合わせた影響が分析された。

研究チームによると、追跡期間中に554名の乳がん罹患が認められ、1日あたりの座位時間が7時間未満の集団と比較し、7時間以上の集団の方が乳がん罹患リスクは約36%高い結果となったとする(36%の上昇で罹患率は1.36倍)。ただし、座る時間が長くなるほど乳がんの罹患リスクが上がり続けるわけではなかったともしている。

  • 1日の座位時間と乳がん疾患リスク

    1日の座位時間と乳がん疾患リスク(出所:KPUM プレスリリースPDF)

次に、身体活動に関する項目と座位時間と乳がん罹患の関係を掛け合わせて解析が行われた。1日あたりの座位時間が7時間以上の集団は、余暇においてMETs 1hour/day(1週間当たり1時間のジョギングをする運動量に相当)以上の運動、余暇に週3回以上の運動、1日1時間以上の歩行などのいずれの身体活動において、7時間未満の集団より乳がん罹患リスクが高い結果となったとのことだ。

  • 1日の座位時間×余暇の運動量と乳がん疾患リスク

    1日の座位時間×余暇の運動量と乳がん疾患リスク(出所:KPUM プレスリリースPDF)

  • 1日の座位時間×余暇の運動頻度と乳がん疾患リスク

    1日の座位時間×余暇の運動頻度と乳がん疾患リスク(出所:KPUM プレスリリースPDF)

加えて、1日7時間以上の座位時間では、余暇の運動や1日の歩行時間が増えても乳がん罹患リスクが低下していないこともわかった。今回の研究結果について研究チームは、乳がん罹患において、座位時間が運動よりも強い影響を与える要因である可能性が示されていると結論付けている。

  • 1日の座位時間×1日の歩行時間と乳がん疾患リスク

    1日の座位時間×1日の歩行時間と乳がん疾患リスク(出所:KPUM プレスリリースPDF)

今回の研究により、1日当たりの座位時間を7時間未満にすることは、女性の乳がん予防の1つとなることが解明された。研究チームは以前にも座位時間の延長と死亡リスクの増加を報告しており、女性のみならず男性においても、長すぎる座位時間を短縮することが推奨されている。コロナ禍からのテレワーク普及により、今後も在宅業務による家庭内デスクワークの継続導入が予測される中、在宅業務は通勤が削減されるなどメリットもある一方で、それが運動不足を招き、座っている時間の延長につながる可能性があるとする。

また今回の結果より、普段の座りっぱなしによる運動不足を解消するために、余暇にまとめて運動することよりも、普段から座位時間を短縮し、こまめに運動することが効果的と考えられる。研究チームは、座りっぱなしに気づいたら立ち上がってストレッチをしてみる、普段の移動にできるだけ階段を使ってみる、隙間時間に体操をしてみるなど、日々の小さな心がけで健康を維持していくことが望ましいとしている。

なお、J-MICC STUDYは現在進行中のコホート研究であり、がん罹患や死因などの追跡調査を行っているため、乳がんのみならず、ほかのがんと座位時間の関連も今後解明されていく可能性があるともしている。