大阪大学(阪大)は9月7日、皮膚がんにおいて死亡者数の約80%を占める「悪性黒色腫(メラノーマ)」における、新規のがんシグナル軸ならびに治療のための分子標的を発見したことを発表した。

  • 今回の研究の概要。

    今回の研究の概要。(出所:阪大プレスリリースPDF)

同成果は、阪大 感染症総合教育研究拠点の菊池章特任教授(常勤)、同・大学院 医学系研究科の新澤康英助教(分子病態生化学)らの共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系のがんに関する全般を扱う学術誌「Oncogene」に掲載された。

悪性黒色腫は、肌の色に関係することで知られるメラニン色素を産生する色素細胞「メラノサイト」ががん化して発生する悪性腫瘍だ。その発症には人種間の差があり、白人では頻度が多いが、日本人は10万人に1人~2人が罹患し、1年間におよそ1800人が診断されているという。この悪性黒色腫は、皮膚がんの死亡者数の約80%を占めるとされる。

その見た目の特徴として、ホクロとの区別が難しい点があり(悪性黒色腫の約30%はホクロから発生する)、またリンパ節転移が広範囲に及ぶことも特徴の1つとなっている。その治療には、臓器に転移がある場合は免疫チェックポイント阻害剤や分子標的治療薬などの化学療法が主体となり、外科治療や放射線治療を加えた集学的治療が行われている。

現在、悪性黒色腫に対しては奏効率が高い薬剤が開発されているが、薬剤耐性の腫瘍の出現が大きな問題となっている。上述したように悪性黒色腫のおよそ30%はホクロから発生するが、その発症の仕組みは十分に解明されていなかった。そこで研究チームは今回、メラノサイトの色素を作る色素細胞特異的転写因子「MITF」の下流で発現する「GREB1 アイソフォーム4(Is4)遺伝子」に着目し、がん化における新たなシグナル軸と新規治療標的としての可能性について解析を行ったという。

GREB1は、ホルモン受容体により発現誘導される核内タンパク質で、発現した同タンパク質はホルモン受容体の転写活性を促進する。乳がんや前立腺がんにおいてGREB1は発現上昇しており、これらのホルモン依存性がん細胞の増殖を促進するという。これまで、GREB1とホルモン非依存性のがんとの関連は不明だったが、研究チームは以前、GREB1が肝芽腫と肝細胞がんにおいて高発現し、これらのがん細胞の増殖を促進することを報告済みだ。

そして解析の結果、悪性黒色腫においてGREB1Is4がMITFにより発現することを見出し、GREB1 Is4が「ピリミジン代謝」の制御を介して、がん細胞増殖を促進することが解明されたとする。なお、DNAやRNAを構成する塩基のうち、シトシンやチミンなどを「ピリミジンヌクレオチド」といい、その塩基部分が「ピリミジン塩基」と呼ばれ、グルタミンから複数の酵素反応により生成され、最終的に「リボース-5リン酸」(ホスホリボシル二リン酸)が結合し、生合成が行われる。今回の研究により、ピリミジン合成の律速酵素「CAD」は、GREB1 Is4によって活性化が促進されることが明らかにされたという。

さらに、GREB1 Is4に対する「アンチセンス核酸」により抗腫瘍効果が示されたことから、悪性黒色腫においてGRB1Is4が新たな治療標的であると提唱することにしたという。なおアンチセンス核酸とは、タンパク質を合成するmRNAを分解する分子のこと。ちなみにこの分子に特殊な修飾を付け加えることで(今回の研究で用いられた修飾型アンチセンス核酸)、血液中で安定して存在することができ、その結果がん細胞への取り込みが増し、治療効果が高まるのである。

免疫チェックポイント阻害剤の登場により、悪性黒色腫の治療が進歩している一方で、まだ治療困難な症例が存在しているのも事実だ。がん細胞は無秩序に増殖を繰り返すことが特徴であり、薬剤を用いて核酸の合成を阻害し、細胞の増殖を抑える化学療法が行われてきた。今回、GREB1 Is4がその核酸の合成を促進し、色素細胞のがん化を誘導することが判明したことにより、GREB1 Is4が、悪性黒色腫の増殖を促進する有力なタンパク質であることが明らかにされた。

研究チームは、GREB1が悪性黒色腫における治療標的となることを示し、今後、GREB1に対するアンチセンス核酸が新たな治療薬となることが期待されるとしている。