おいしさの追求

おいしさの追求は、今回のプロジェクトに始まったことではない。同社では企業理念に「うまいすしを、腹一杯。うまいすしで、心も一杯。」を掲げている。筆頭株主が幾度も入れ替わった社歴のなかで、その理念が忠実に実行されてきたかはわからないが、現在はおいしさの追求にこだわりをもっているようだ。

水留浩一社長は次のように語る。「期初に組織を変更して、商品企画部を新設した。おいしさを追求しつづけていくことをミッションとした部署であり、昨年度は、定番メニュー、マグロ、鮮魚、えび、卵に磨きをかけた」。

その具体例が次のようなものだ。鮮魚の皮引きを店舗で実施したり、通常は26スライスにカットされる卵を20カットに変更して、厚く、卵の味が感じられるようにした。マグロは地中海から空輸して取り寄せ、冷凍せずに店舗で提供するといった取り組みも進めたという。

こうしたおいしさの追求の延長線上にあるのが今回の100円プロジェクトである。仕入れ先や加工法の見直しを行い、スシロースペックとも呼ぶ独自のやり方を進めていくことで、水留社長は「本当にいいものを調達しよう。それを今年度は拡大する形で成果につなげていきたい」と意気込む。そして、こうしたやり方については、余地があるとのことだ。

あくまで100円のおいしさにこだわり

とはいえ、素材にこだわれば原価も上がるのが常。スシローではサーモンの例で挙げたように、部位ごとに値段設計を変えるといった工夫もするが、今回の取り組みでは「少し原価は高くなる」(堀江氏)というのが実情のようだ。

原価が上がるなら値段相応にすればいいのでは? とも思える。しかし、水留社長はあくまで100円にこだわりたいようだ。「お客の多くは100円の商品を中心に食べている。選び抜いて自信をもった商品を食べて欲しい」「売上比率を見ると、高価格帯の比率が少し増えすぎているかもしれない。そうしたことから100円を充実させていこうとなった」と話す。

なぜ100円にこだわるのか。集客力の向上はどれほど見込むのか。原価の上昇をどこで吸収するのか。100円にこだわる背景や核心までは捉えきれず、疑問も多々として浮かぶが、「100円の商品を充実させ、おいしさを追求する」というのが、業績拡大に向けてスシローが出した答えのようだ。

回転寿司業界を見れば、最近、くら寿司が牛丼の販売に乗り出したし、牛丼を見れば、吉野家が居酒屋を意識したサービスを展開している。しかも、安く、おいしくという流れは続いている。外食産業を広く見れば、同業をライバルとして捉えるべきではなく、もはや外食産業全体が競争相手と言っていい状況だろう。

そうしたなかで本業に立ち返り、企業理念を追求していくのも、ある意味スシロースタイルといえるかもしれない。スシローが追求する100円のおいしさは消費者を満足させ、さらなる業績拡大につながっていくだろうか。