オーブンレンジだけじゃない、体験の場
パナソニックでは、ビストロ体験教室のことを「MSTプロモーション」という名称で呼んでいるそうだ。MSTとは「見て、触って、食べて」の意味で、「おいしい!」と思ってもらう体験を重要視している。
家電を買おうと思ったら、家電量販店へ行って実物を見てみる、というのが今でも一般的だろう。しかし、これでは実際に使ってみて、食べてみて、という体験はできない。手入れ方法にしても、使用後の汚れた状態でないと本当に簡単なのかわからない。ビストロの場合は「私自身も使ってみて実感するのですが、温める以外の焼くとか揚げる、蒸す性能がとても高いんですよ」(パナソニック 広報担当者)というように、「オーブンレンジでこんなことまでできるんだ!」と知ってもらう場としても、体験教室はうってつけだった。
パナソニックはビストロ以外にも"体験"を重視した取り組みを多数行っている。たとえば、パナソニックの炊飯器「Wおどり炊き」で炊いたご飯を食べられる「食べ比べ亭」だ。2015年にも同様の取り組みをしているが、今年は京つけものの西利とコラボレーション。6月7日~26日(東京)、7月11日~31日(京都)と期間限定で、パナソニックの新旧炊飯器で炊いたご飯の食べ比べができるほか、Wおどり炊きのご飯と京つけものを組み合わせたオリジナルランチを提供している。
本当に購買へ結びついているのか
こうした体験型のプロモーションは、どのくらい購入へ結びついているのだろうか? 実は2014年と2015年には体験後のアンケートで購入意向のみを調査していたが、2016年からは自社の会員サイト「CLUB Panasonic」と連携し、実際に製品を購入した人がどのくらいいたかを本格的に追跡していく。
具体的には、ビストロ体験教室と食べ比べ亭、いずれも参加者へCLUB Panasonicコイン(他社のポイントやマイルに交換可能)300円分をプレゼント。製品を購入せずとも会員登録さえすれば受け取れる。体験教室に参加したユーザーがパナソニック製品を購入した場合は「My家電リスト」(ご愛用者登録)へ追加されるため、「どのくらい購買に結びついたか」がある程度みえるというわけだ(もちろん、会員登録や製品登録はユーザー任せになってしまうため、100%フォローしきれる保証はない)。
オーブンレンジは決して安くない買い物だ。そのくせ、オーブンレンジに限らず調理家電は買う前にわからないことが多く、特に使い勝手が気になる。ビストロ体験教室は、その不安をうまくすくい取るようにして、参加者を拡大し、購入へのハードルを下げている。なかなか伝わりにくい「いろいろな調理法に使えて、導入すれば便利である」ということを広く知ってもらうために、パナソニックとしてもまさにベストな場なのだ。
ビストロ体験教室へお邪魔してみて感じたのは、料理教室として充実しているということ。製品のPRが前面に打ち出されると、なんだか引いてしまうものだが、「ビストロを道具としていかに使いこなすか」を教えてくれるので自然なのだ。この点は田上氏が大切にしているようで、「食材の切り方とか味付けとか、そういった+αの情報を講師の方が採り入れてくれるので、料理教室としての価値が高いんです。参加者の方に、料理したいと思ってもらえることが大事」と話す。それは参加者の満足度というかたちでも表れており、実際にリピーターも少なからずいるそうだ。ビストロ体験教室はブランドイメージの向上にも寄与している。
家電の新しい売り方として"体験"の要素を採り入れたパナソニック。70拠点で料理教室を開催するのはそう簡単ではないはずだが、それに見合うだけの収穫はありそうだ。購買にどのくらい結びついているのか、参加者の追跡結果に期待したい。