昔ながらのビジネスモデルや、廃れつつあるモノやコト――。少しだけ手を加えて“リブート”させると、それが途端、斬新なビジネスに生まれ変わることがあります。そこには多くのビジネスマンにとってのヒントがある、かも。そうしたビジネスモデルにスポットを当て「リブート! “再起業”の瞬間」としてシリーズでお届けします。

「気兼ねなく」頼める、新しいインフラ

「今日、遅くなるから、保育園の迎え、お願いできない?」「買い物している間だけ、ちょっとこの子、預かってくれる?」

株式会社AsMamaの甲田恵子さん。1975年生まれ。IT企業等でIRを経験。退職&出産を機に育児と仕事に悩むママを救うAsMama創業。数多の起業家章もとる。著書に『ワンコインの子育てシェアが社会を変える!!』がある

かつては当たり前だったそんな光景も、コミュニティが希薄になった今、珍しいものになった。「ケガをさせたら怖い……」とやたらリスクを気にする風潮も関係していそうだ。 一方で、核家族や共働き世帯が今や大多数を占め、「子どもをちょっとだけ頼みたい」というニーズは、むしろ増えているといえるだろう。そんなジレンマを解消するため、株式会社AsMama(アズママ)の甲田恵子さんが立ち上げたのが「子育てシェア」だ。ネットを通じて「1時間500円で子育てを助け合える」、いわばクラウドソーシングのビジネスモデルである。

仕組みはこうだ。

まずサービスを利用したい親が、事前に子育てシェアのウェブサイトに登録。すでに子育てシェアに登録している友達や同じ幼稚園・保育園に通う“顔見知り“を検索でき、相手の携帯電話の番号を知っていたら、サイト上で連絡できる。もともと仲の良い友人知人に登録を促して、自分に友達申請を依頼するという手もある。

まわりに頼れる人がいないという場合は、AsMamaで2カ月間の研修を受けた認定支援者「ママサポーター」と“つながる”必要がある。ママサポーターは全国に点在しており、サイトにログイン後、どこにどんな人が住んでいるのかを確認可能。そうしたママサポーターが開催する交流会を知ることができ、面談を申し込むこも可能だ。

その後、利用者が突然の残業で「保育園の迎えに間に合わない」などという時、サイトにアクセス。「午後5時からの迎えをお願いしたい」などと依頼内容を書き込むと、グループの友達にメールが届く。依頼に応えられる人が返信して受注し、送迎などを代わりに行う、というわけだ。

利用額は1時間・500円(ママサポーターは600円、元保育士などの有資格者は700円)。現金あるいはクレジットカードによる決済で、預かってくれた人への謝礼となる。

またAsMamaは定期的にショッピングモールなどでイベントを開催。子育てシェアの仕組みを知ってもらうのと同時に、「顔見知り」をその場でつくり、気兼ねなく子供の送迎などを頼める“つながり”を増やせるのが目的だ。そのほかにも、協賛する食品メーカーが「食育セミナー」を開いたり、幼児教室が「用事教育に関する講義」を開いたりする。こうした企業の協賛金が、AsMamaの収益源となっているわけだ。

現在、子育てシェアは毎月約1000人ずつ登録者を増やし、今や累計3万人超。売上は1億円に迫る。

成功のポイントは、ネットによってかつての「気兼ねなく頼める」ムードを創りあげたことだろう。また「1時間・500円」と定額制なことも利用者へのハードルを下げたといえる。個人的に頼みごとをすると、タダで済ますのは心苦しい。だからといって「謝礼はいくら、お礼の品をどうするか」と頭を悩ますのは意外と煩わしい。子育てシェアではそうした煩わしさを解消したことがポイントといえるだろう。

「もっとも……」とこのサービスを創ったAsMamaの甲田さんは苦笑いしていう。「立ち上げた当初は今のようなウェブの仕組みもなかったし、ワンコインの発想も無かった。もっといえば、子育て世代の本当の悩みを、私自身がわかっていなかったんですけどね」。