LINEが10月29日に公表した2015年第3四半期(7-9月期)の業績は、同社の事業が好調なことを改めて示すものとなった。全体の売上は322億円で前年同期比35%増、基幹のLINE事業単体の売上も38%増の299億円に達した。しかし、気がかりな数値も見られる。それはLINE事業月間アクティブユーザー数(MAU)だ。伸びが急激に鈍化しているのである。

LINEのMAUが伸び悩み

LINEのMAUは、業績と関連するひとつの指標だ。同社の売上のうち約9割は、LINE事業によるもので、LINEのMAU増加が、スタンプの販売、ゲームによる課金、ひいては広告事業などに結びついていく。いわば"基礎体力"ともいえるものだ。

今回公表された業績報告で、注目すべきはグローバルMAU。ここに大きな変化が生じている。2014年第3四半期には約1億7000万人、同年第4四半期には約1億8100万人、2015年第1四半期には約2億500万人と、半年で約3500万人のMAUを獲得し、好調を維持していたが、この期を境に伸び悩み始めている。2015年第3四半期には、約2億1200万人としており、この半年で増加したMAUは約700万人でしかない。

MAUの推移(2014年第3四半期以前は非公表)

MAUが伸び悩んだ理由

では、なぜ伸び悩んだのか。その点について「MAU獲得のためのマーケティングよりも、注力地域、マネタイズに注力すべき地域に力を入れてきた結果」と同社広報部は説明する。単純なMAUの獲得よりも、特定の国・地域においてトップシェアを維持・獲得するためにテコ入れしてきたというわけだ。とりわけ注力したのは、インドネシアをはじめとしたアジア地域で、今後も同地域に力を入れていくという。

確かに、メッセージアプリは、ある国・地域において、多くの人に使われてこそ意味のあるもの。シェア、利用率が上がるほど、マネタイズは有利になっていく。逆にシェアトップになれなければ、上位に取り込まれる恐れもある。その意味でターゲットに注力したというのは、理にかなったことと言える。

だが、MAUの伸びの鈍化は見逃せない兆候だ。ターゲットを定めて事業展開をしてきたとはいえ、いずれその国・地域の伸び代はなくなる。次への布石を絶え間なく打ちだすには、MAUを大きく伸ばしておきたいはずだ。

MAUの推移が示唆すること

かなりデータは古くなるが、AllThingsDがモバイルデータ解析会社Onavoの調査データをもとにした2013年8月の報道によると、日本国内においては絶好調のLINEも、海外ではまだ存在感を示しきれていない。Facebook傘下のメッセージアプリ「WhatsApp」が南米(アルゼンチン、ブラジル、コロンビア)、欧州(ドイツ、スペイン、イタリア)でシェア1位を獲得している(いずれも9割以上の利用率)。示されているのは一部の国々だが、報道からは2013年の段階でWhatsAppが優勢なことがわかる。そのWhatsAppは2014年2月のMAUが4億5000万人、そして、2015年3月で6億人と急速な成長を遂げているという。

WhatsAppは1年目の利用料は無料、2年目から年額99セントの利用料をとっており、利用者の拡大が収益に直結するビジネスモデルだ。もちろん、国別での詳細なデータがはっきりしない限り、獏としたものが残るが、WhatsAppの成長スピードが速いほど、LINEを含めた他のメッセージアプリの成長は厳しくなる。今回のLINEのMAUの伸びの鈍化は、世界的に見た中で、アジア地域を別として、開拓エリアがかなり限られてきたことを示唆する可能性がある。