第7章 Windows 8の機能とソフトウェア - ユーザーファイルをバックアップする「ファイル履歴」

コンピューターを使用する上で欠かせないのがバックアップだが、Windows 8は新しいアプローチを試みている。それが「ファイル履歴」という新たな機能だ。同機能は、ユーザーファイルを対象にしたバックアップ機能であり、個人ライブラリに保存されているファイルを定期的に別の場所へ保存するというもの。保存先は専用の外部ストレージや、ネットワーク上の共有フォルダーを指定可能である。

ファイルに加わった変更点を指定時間ごと(初期状態では一時間)にバックアップを作成する。あくまでも本機能はユーザーファイルが対象となるため、Windows 8のシステムファイルや設定はバックアップ対象とならない。

前バージョンであるWindows 7に限らず、それこそMS-DOS時代からOS標準のバックアップ機能が備わってきた。Windows Server 2003以降は、フォルダー単位のスナップショット機能を作成するVSS(ボリュームシャドウコピーサービス)を搭載し、Windows XPにもアドオンを追加することで使用することが可能だったが、多く知られたのはWindows Vista以降である(図491~492)。

図491 MS-DOS 6.20に付属する標準のバックアップツール

図492 「以前のバージョン」は、ボリュームシャドウコピーサービスによって実現する機能だ

VSSはボリューム上のファイルを使用中でも、その状態をスナップショットとして作成し、バックアップやコピーに利用するという技術。この機能を使ってバックアップを作成しているのが「以前のバージョン」である。Windows Vista、Windows 7と受け継がれてきた機能ながらも、あまり注目されてこなかったのは事実だ。それでもその利便性にお気付きの方は活用してきたのではないだろうか。

だが、Windows 8のフォルダーを確認すると、<以前のバージョン>タブは除外され、同機能を用いたファイル復元機能が使用できなくなっている。このような仕様変更を行うにあたり、同社ストレージチームのプログラムマネージャーであるBohdan Raciborski(ボーダン・ラシボースキー)氏は、「残念ながら、バックアップは人気のあるアプリケーションではなかった」と述べ、標準搭載するバックアップツールの不人気度を認めている。また、前述のように「以前のバージョン」は有効な機能ながらも、その存在に気付く方は多くない。そのため、個人データを対象にした本機能を搭載したのだろう(図493~494)。

図493 Windows 8でもVSSサービスや管理ツールであるvssadmin.exe自体は使用可能だ

図494 その一方でフォルダーのプロパティダイアログからは、<以前のバージョン>タブが取り除かれている

内容を具体的に述べると、ユーザーフォルダーおよびPublicフォルダーの「Contacts」「Desktop」「Documents」「Favorites」「Music」「Pictures」「Videos」といった各フォルダーの世代バックアップをバックグラウンドで作成。エクスプローラーのリボンにある<履歴>ボタンをクリックすることで、バックアップフォルダーが専用のウィンドウから復元操作を行うという流れだ

単純に「以前のバージョン」「ファイル履歴」という二つの機能を比較すると、前者は強制的かつ特定のフォルダーが使用されていたが、後者はユーザーの好みに応じて有効/無効を選択し(初期状態で「ファイル履歴」機能は無効)、バックアップ先も自由に変更できる。この差は大きいのではないだろうか。また、各ユーザーファイルが7ギガバイトに収まるのであれば、SkyDriveフォルダーを保存先とすることで、オンラインストレージを併用したバックアップデータの冗長化も実現可能だろう(図495~499)。

図495 バックアップ先はローカルディスクや外付けのHDD、ネットワーク上の共有フォルダーなどを選択可能

図496 保存先をNAS上の共有フォルダーとし、ファイル履歴機能を有効にした状態。初回はすべてのファイルがコピーされる

図497 NAS上の共有フォルダーには、ユーザーフォルダーおよびPublicフォルダーの特定フォルダーがコピーされ、必要に応じて復元可能となる

図498 バックアップデータ復元時は専用のUIを使用する。ここからすべてもしくは個別の復元操作が可能だ

図499 ファイル履歴機能の詳細設定。バックアップは初期状態で一時間ごとに実行される

その一方で気になるのがシステムに対する負荷だ。初期設定では一時間ごとにバックアップが作成されるため、その間の応答性が低下する可能性を不安視する方も少なくないだろう。この点も考慮されており、NTFSの変更ジャーナルを確認し、変更されたファイルだけをバックアップ対象に含めている。また、Windows Vistaから実装したLow Priority I/Oや、Windows 8から実装されたメモリの再利用で優先度の低いメモリが使用される仕組みだ。

なお、バックアップ処理はユーザーログオン状態やシステム負荷、バッテリ駆動か否かなどを十秒ごとに確認し、処理を行うか否かを判断する。モバイル環境で使用する際も、専用のストレージデバイスの検出ロジックなどを見直しているため、ファイル履歴機能を有効にすることでの負担が利便性を上回ることはなさそうだ。

「ファイル履歴」は単純ながらも利便性が高く、実に興味深い機能である。しかし、使用にはいくつかの制限がある。一つ目はバックアップ・復元対象がユーザーファイルに限られている点だ。そもそもWindows 8は、個人ファイルやWindows 8の設定を保持したままシステムファイルなどを初期化する「PCのリフレッシュ」が用意されている。そのため、従来のようなフルバックアップを取る必要がなく、データ消失のダメージが高い個人ファイルに注力するのがスマートという結論に至ったのだろう。

もう一つにはフルバックアップ機能と併用できない点である。Windows 8におけるフルバックアップ機能である「Windows 7のファイルの回復」(詳しくは次節で紹介)でバックアップスケジュールを有効にすると、「ファイル履歴」を実行できなくなるのだ(図500)。

図500 フルバックアップを取る「Windows 7のファイルの回復」機能でスケジュール設定を行うと「ファイル履歴」は使用できない

確かに前述したコンセプトや不人気なアプリケーションであれば、フルバックアップ機能を改良せず、ユーザーに選択させるという考え方は自然である。しかし、コンピューターを活用する上で、ローカルディスクをイメージ化するシステムイメージの作成が欠かせないのは、読者が一番わかっているはずだ。この変更・仕様は性急さを感じるのは筆者だけではないだろう。