第5章 Windows 8を支える機能たち - 変化するデバイス経験 その2 「NFC」「USB 3.0」

前節は話がプリンターに特化してしまったが、Windows 8から強化されるデバイスサポートで興味深いのが、NFC(Near Field Communication)である。近距離無線通信と訳されるNFCは、ISO/IEC 18092として国際規格に定められており、2005年にはISO/IEC 21481としてバージョン2にあたるNFC IP-2が国際標準規格として制定。

日本国内では、ソニーが開発した非接触型ICカード「FeliCa(フェリカ)」の技術を用いた鉄道系ICカードが有名なため、電子マネーの側面が目立っている。だが、NFCは通信技術の一つであり、コンピューターの使用スタイルを大きく変化させる可能性が高いのだ。このWindows 8がNFCをサポートすることは、2011年に開催された開発者カンファレンスのBUILDで発表されたため、興味深く思っている方も少なくない。

NFCを搭載したコンピューターにWindows 8をインストールした環境では、「Tap and Do」と呼ばれる操作が可能になる。例えばキーボードやスピーカーといったワイヤレスデバイスと、コンピューターを同時にタップすることで接続が可能だ。執筆時点では、Lenovoの「ThinkPad Table 2」がNFCを搭載すると発表しており、Windows 8とは関係ないがエレコムが、スマートフォンをのせるだけの接続するNFC対応シリコンキーボードを発売している。

このような通信技術は赤外線やBluetoothなど、さまざまな技術が搭載され整理されてきたが、OSレベルでのサポートはNFCの普及を一気に押し上げる結果になりそうだ(図362)。

図362 Windows 8におけるNFCサポート構造を解説するホワイトペーパー「Windows 8 Near Field Proximity Implementation Specification」

OSレベルでサポートする新デバイスの一つにUSB 3.0がある。2008年に正式な仕様として規格化され、AMDのA75やIntel 7シリーズのチップセットに内蔵されるようになったのはご承知のとおり。既に2011年の時点で独自にUSB 3.0用チップを搭載したマザーボードも登場し、USB 3.0対応HDDも出回っている。

そもそもUSB 3.0は最大データ転送レートが、5ギガビット/秒とUSB 2.0の約10倍で、シリアルATA 3.0ベースのeSATAとほぼ同等。これまで以上の作業効率を期待できる規格だ。USB 2.0などとの後方互換性を維持しながらも、最大伝送距離はUSB 2.0の5メートルに対して3メートルと短くなっているため、配線周りは気を遣う必要がある。

いずれにせよ今後USB 3.0が主流になることは疑う余地もなく、Windows 8がOSレベルでサポートするのは自然の流れである。だが、MicrosoftはUSB 3.0の対応設計を行うにあたり、従来のドライバースタックを強化するのではなく"新規作成"を選択した。

同社は仮想USBポートや仮想USBハブをソフトウェアで実現し、約千種類ものUSBデバイスの動作検証を実行。Windows 8のスリープおよびスリープ復帰の正常動作やストレステストなどを行ったという。その結果搭載されたUSB 3.0関連ファイルは、xHCIホストコントローラに接続する「Usbxhci.sys」や機能拡張をサポートする「Ucx01000.sys」、ハブドライバーとなる「Usbhub3.sys」の三つで構成されている(図363)。

図363 ハブドライバーとなる「Usbhub3.sys」

各ハードウェアベンダーは新しい仕様に即して、USBクライアントドライバーを書かなければならないが、エンドユーザーはマザーボードベンダーが提供するデバイスドライバーを組み込まずとも、"USB 3.0に対応した環境でUSB 3.0対応デバイスをそのまま使用できる"と捉えればよい。