第4章 Windows 8のWindowsストアアプリ - Windowsストアアプリ版「Internet Explorer 10」

Windows 8は、最新のInternet Explorerとなる「Internet Explorer 10」が搭載されているが、従来のデスクトップで動作するバージョンとWindowsストアアプリ専用の二種類が存在する。そこで本章ではWindowsストアアプリ版Internet Explorer 10特有の機能をピックアップすることにした。

近年はWebブラウザーの重要性が増している。当初はWebサーバー上のコンテンツを表示するに過ぎないツールだったが、柔軟なUIを持つRIA(Rich Internet Application)が増えることで、OS上のアプリケーションよりもWebアプリケーションが重視されるようになった。当初はAdobe Flashなどアドオンを必要としていたが、Webブラウザーの機能向上によりプラットフォームはDynamic HTMLに移行し、今後はHTML5が主流になるだろう。

そのため、当初は"野暮な使い方"とされていた全画面表示の有用性が高まっているのはユーザーが一番理解しているとおりである。前述のとおりWindowsストアアプリは全画面表示で操作することを前提としているだけに、Windowsストアアプリ版Internet Explorer 10はWebアプリケーションの実行環境として適切ではないだろうか(図295)。

図295 全画面表示となるWindowsストアアプリ版Internet Explorer 10

そのWindowsストアアプリ版Internet Explorer 10は、デスクトップ版と同じようにURL表示やタブ機能はそのまま残されている。HTMLタグの指定やリンクを右クリックする際に<新しいタブでリンクを開く>を選択すると、画面上部にタブとして別ページを開く仕組みだ。後者の操作ではアクティブなタブは切り替わらないものの、ページを右クリックするとタブバーおよびアドレスバーが現れるので、同バーから操作すればよい(図296~297)。

図296 タブ機能も用意されているが、必要な際に表示される仕組みだ

図297 アドレスバーを選択すると、履歴情報やお気に入りからページを開くことができる

また、アドレスバーも同じくアクセス時や操作時まで非表示になっている。確かに現在はURLを直接入力する場面は少ないため、同仕様を選択したのは自然の流れだろう。だが、偽のWebサイトに誘導して個人情報や金銭を盗み取る"URLフィッシング詐欺"の温床になる可能性は脱ぎきれない。そのため、Internet ExplorerシリーズではSmartScreenフィルター(詳しくは後述)を用意し、セキュリティ対策を講じている。なお、デスクトップ版でお馴染みのInPrivate(アクセス情報などを保存しない閲覧モード)はナビゲーションバーから操作可能。

お気に入りの管理は簡単でバーに並ぶボタンをクリックすると現れるメニューから<お気に入りに追加>を選択するだけだ。この際<スタート画面にピン留めする>を選択すれば、文字どおりスタート画面にピン留めすることが可能だが、今後増加するであろうタイルの数を増やすのが得策だとは思えない。あくまでもピン留めは必要最小限に抑えるか、お気に入り機能を使用した方がいいだろう(図298~299)。

図298 バーに並ぶボタンをクリックすると、スタート画面へのピン留めやお気に入りの追加が可能

図299 お気に入り情報はデスクトップ版Internet Explorer 10と共有される

Windowsストアアプリ版Internet Explorer 10のオプション設定は、デスクトップ版と異なり最小限に抑えられている。特徴的なのはフリップ操作で次のページに進める「ページフリップ」だろう。筆者はタッチデバイスを所有していないので、同機能の使用感を語ることはできないが、他のタブレット型コンピューターを使用した経験を踏まえれば、便利そうな機能といえる(図300)。

図300 Windowsストアアプリ版Internet Explorer 10のオプション

さて、Windowsストアアプリ版Internet Explorer 10を使用する上で注意しなければならないのが、アドオンをサポートしていない点である。前述のようにWebブラウザーはアドオンを用いて機能拡張を行ってきたが、Windowsストアアプリ版Internet Explorer 10はMicrosoft Designスタイルのセキュリティ設計により、原則的にアドオンをインストールすることができないのだ。

そのためアドオンを必要とするWebページを閲覧する際は、デスクトップ版Internet Explorer 10で閲覧する機能や、URLリンクをクリックした際に起動するInternet Explorer 10をデスクトップ版/Windowsストアアプリ版から選択するオプションが用意されている(「リンクの開き方を選択」に関しては後述)。

それでもAdobe Flashのようにデファクトスタンダードの地位に上り詰めたアドオンは、どうしても必要になる場面があるだろう。本来ならデスクトップアプリ版Internet Explorer 10を使用すれば済む話だが、最終的に同社はWindows 8にAdobe Flash Playerのサブセットを内蔵することに決めた。設定を行う「Flash Player設定マネージャー」はデスクトップのコントロールパネルから起動するあたりに、ちぐはぐな印象を覚えるが、Windowsストアアプリ版Internet Explorer 10でFlashコンテンツの再生が可能になっている(図301~304)。

図301 バーに並ぶボタンから、閲覧中のWebページをデスクトップ版Internet Explorer 10で開き直せる

図302 デスクトップ版Internet Explorer 10のオプションには、URLリンクを開くWebブラウザー(デスクトップ版/Windowsストアアプリ版)を選択できる

図303 コントロールパネルに用意された「Flash Player設定マネージャー」

図304 内蔵されたAdobe Flashのバージョンは「11.3.372.94」と配布版より新しい

一昔前はYouTubeなどの動画サイト閲覧に欠かせないAdobe Flashだったが、現在はHTML5への移行が進んでいる現状を踏まえると、Webブラウジングにアドオンが必須とは言いがたい。それだけにWindowsストアアプリ版Internet Explorer 10は、セキュリティ管理などを必要とするアドオンの排除に徹したかったのだろう。残念ながら前述のとおりAdobe Flashのサブセット版を内蔵することに至ったが、必ずしもすべてのFlashコンテンツを再生できるわけではない。

Internet Explorer担当グループのプログラムマネージャーであるRob Mauceri(ロブ・マウチェリ)氏はIEBlogで「互換表示(Compatibility View)のFlashセクションに掲載されたサイトのFlashコンテンツのみ再生可能」と述べている。掲載に至る取捨選択のポイントは、コンテンツをタッチした時の応答性やオンスクリーンキーボードの動作、バッテリ寿命への悪影響など多岐にわたり、Microsoft Designスタイルのユーザーエクスペリエンスのガイドラインに従っていることを確認すると掲載されるという。

Internet Explorer 10自体は優れたWebブラウザーであることは確かだが、あくまでもWindowsストアアプリ版Internet Explorer 10はサブセット的な存在と割り切った方が簡単だ。Webブラウジングはデスクトップアプリ版Webブラウザーを使用するか、Windowsストアアプリ版Mozilla FirefoxやGoogle Chromeなどの登場を待って判断した方が賢いだろう。