第4章 Windows 8のWindowsストアアプリ - WindowsストアアプリとMicrosoftアカウント その2

Windowsストアアプリに有償/無償があるのは前述のとおりだが、有償版はWindows Live ID改め、Microsoftアカウントに登録したクレジットカードで支払われる仕組みである。そもそもMicrosoftは以前から、一回の認証で複数のコンピューターリソースを使用可能するシングルサインオンサービスを展開しており、当初は「Microsoft Passport Network」という名称で運用されていた。

しかし、複数のWebサービスやアプリケーション連動をひとまとめにしたWindows Liveサービスを展開する際に名称を「Windows Live ID」に変更。そのため、現在でも「passport.net」というドメインは残されているが、認証サーバーを共通化しているのか、「live.com」でも同様にサインインを可能にしている。執筆時点ではlive.comにサインインしても、名称はMicrosoftアカウントに改称済みで、課金情報に関しては「commerce.microsoft.com」に飛ばされる仕組みを用いている(図191~192)。

図191 Microsoftアカウントの状況を確認するには、サインインが必要となる

図192 こちらが課金状態。過去の課金履歴なども確認できる

このMicrosoftアカウントに登録したクレジットカード経由で、有償のWindowsストアアプリを購入することになるのだが、本特集はWindows 8リリース前に執筆しているため、執筆時点では有償アプリケーションが登録されておらず、検証することができなかった。

その一方でWindowsストアアプリの検索は容易だ。Windows 8の検索システムはUIを統一しており、Windowsストアを開いた状態で[Win]+[Q]キーなどを押せば、「ストア」を選択した状態で検索チャームが起動するので、キーワードを用いて目的のWindowsストアアプリを検索すればよい(図193)。

図193 [Win]+[Q]キーで、Windowsストア上のアプリケーションを検索できる

Windowsストアに関する設定は、[Win]+[I]キーで呼び出せる設定チャームから行う。「アカウント」では使用しているMicrosoftアカウントの確認や支払い情報、認証したコンピューターの管理が可能。「基本設定」は「選んだ言語のアプリを見つけやすくする」「アクセシビリティ機能が含まれたアプリを見つけやすくする」の二項目が用意されている。

前者は列挙するWindowsストアアプリを使用言語に絞り込むというものだ。試しに同機能を無効にすると、かなりの数にのぼるアプリケーションが列挙された。また、後者は体が不自由な方向けのアクセシビリティ機能を備えるWindowsストアアプリを優先的に列挙される(図194~195)。

図194 [Win]+[I]キーで、Windowsストアに関する設定が可能

図195 「選んだ言語のアプリを見つけやすくする」を無効にした状態

ダウンロードしたWindowsストアアプリの更新は、自動的に行われる。設定の「アプリの更新」に自動更新の制御やライセンスの同期が可能。なお、ダウンロードしたWindowsストアアプリは、Microsoftアカウントとひも付けされており、異なるコンピューターで同一のMicrosoftアカウントを使用した場合、未インストールのWindowsストアアプリを一括導入することもできる。また、不要になったWindowsストアアプリは、アプリバーから<アンインストール>ボタンを選択すればよい(図196~197)。

図196 画面を右クリックすると現れるバーから「アプリ」を選択する

図197 未インストールのWindowsストアアプリを一括導入できる

筆者の個人的感想だが、タッチデバイス上での操作を前提に、このような仕様になったのだろう。しかし、本来なら同一項目は「アプリの更新」に含めた方がわかりやすいのではないだろうか。

その一方で気になるのがセキュリティ面だ。クレジットカードを登録することで漏えいリスクは段違いに高まるものの、その点もいくつか考慮されている。サインアップ時に登録した連絡先(携帯電話の電話番号/携帯電話の電子メールアドレス/通常の電子メールアドレス)にコードを送信し、認証を経てから使用可能になる仕組みだ(図198)。

図198 支払いを行うにはクレジットカードやPayPalの登録が必要となる

一見すると面倒に思えるが、あくまでも外出先などで使用するコンピューターに対して行う操作であり、自宅などの比較的安全なコンピューターでMicrosoftアカウントを使用する場合は、<このPCを信頼しているので、今後このPCを使ってアカウントを確認する>にチェックを入れれば、自動認証が行われるようになる。なお、これはSkyDriveなどMicrosoftアカウントを使用するサービスやWindows 8の各機能も同様だ(図199)。

図199 課金関係にアクセスする際は乱数生成されたコードの入力を求められる

ちなみに、オンラインストアの展開はWindows 8だけではなく、現在プレビュー版を公開している「Office 2013」と統合する「Office Store」を展開する予定である。執筆時点ではベータテストだが、こちらでもMicrosoftアカウントでサインインし、アプリケーションのダウンロードを行う仕組みを採用(図200)。

図200 執筆時点ではベータテスト中の「Office Store」

話を本題に戻そう。是非はともかく、MicrosoftがWindowsストアを中心に収益を得るビジネスモデルを採用したのは明らかだ。同社が"従来のWindows OSとの決別を模索している"のではないだろうか、と穿(うが)った見方をしてしまうほど、Windowsストアアプリを全面に推し出している理由が、この方針転換の理由だろう。

先行するAppleのApp StoreやGoogleのGoogle Playを例に、新しいビジネスモデルにチャレンジする同社だが、オンラインストアによる囲い込み戦略が成功するか否かは、Windowsストアアプリの充実度にかかっている。企業開発者の登録受付はWindows 8の完成を報じた8月1日から始まったばかりであり、この時点で判断を下すべきではないだろう。執筆時点では、海外産Windowsストアアプリに比べて国産が少なく感じられるだけに、日本国内のソフトウェア開発者に期待を込めたい。