近年、もっともインパクトの強かったオープンカーといえば、「ユーノス ロードスター」(現:マツダ ロードスター)をおいて他にない。当時、小型の二人乗りオープンカーがほとんど絶滅しかかっていたなか、小型でシンプルなロードスターは世界中で大ヒット。各メーカーにも影響を与え、メルセデスSLKやBMW Z3などは、ユーノス ロードスターがなければ登場しなかったとさえ言われている。

ロードスターはそれほど高いクルマではなかった。現行のマツダ ロードスターでも220万~310万円程度で購入できる。それよりうれしいのは、長く作られたことで潤沢な中古のロードスターが出まわっていること。若者でもオープンカーを楽しめるわけだ。この章ではロードスターを実際に楽しんでいる人に話を聞くとともに、後半では中古のロードスター選びをまとめてみることにした。

ロードスターを満喫している若者

登場いただく伊藤富之さんは27歳の会社員。大学在学中、20歳のときに初代ロードスター(NA8C型)を購入し、あちこちに手を入れながら現在も乗り続けている。なぜロードスターだったのか?

伊藤さんのロードスターの勇姿。ライト片方を開いているのは冷却のため

「小学校のころは海外のスポーツカーが大好きだったんですけど、'89年にデビューしたユーノス ロードスターに衝撃を受けまして。もうこれしかないだろうと。こんなデザインが日本車でもできるんだって思いましたね。最初は足代わりに8万円の軽自動車に乗ってて、何とかお金を貯めて買ったのがいまのロードスターです。中古でしたけど120万円ぐらいしました」

上の写真のように、伊藤さんはサーキットにもロードスターを持ち込み、走り込んでいる。当然サスペンションやエンジン回りなど、あちこちに手が入っている。

「学生のころはほとんどノーマルでした。というか、維持するだけで精一杯。山へはよく走りに行ってましたけど、ガソリン代だけでもバカにならないですよ。65円マックとかあったでしょ。あればっかり食べてました(笑)。ちゃんと手を入れ始めたのは、やっぱり就職して給料がもらえるようになってからですね。次の給料が入ったら何しようかって、そんなのばかり考えてました。最初はボディ回りから。特にNA(初代ロードスター)ですから、ボディ剛性が低いんです。サイドバーとかタワーバーとか……。でも、そのうち一通りは仕上げるつもりでしたけどね」

どうやってクルマに手を入れていくか、全部自分で決めているのだろうか。

「いや、自分じゃわからないことが多いですよ。その頃からお世話になっているのが石井自動車さんですけど、このお店と知り合えたことが大きいです。アドバイスしてもらったり、つまんないことでも相談できるし。試作品のテストもさせてもらうこともあります。でも大人げない改造はしてませんよ。そのまま車検に通ることをポリシーにしてますから」

サーキットやスポーツ走行の楽しさはどこにあるのだろうか。

「やっぱり限界まで追い込めることでしょうか。クルマの挙動とか、公道でも同じですから。いや、公道で限界まで攻めてるという話じゃないですよ(笑)。それとサーキットでもSタイヤは止めようと思ってます(Sタイヤ:公道不可のスポーツ・レース用タイヤ)。グリップの強弱はありますけど、おもしろさという意味では変わらないことがわかってきましたから。もちろんSタイヤは高いというのもありますけどね」

スポーツ走行となると、オープンではないほうがいいような気もするが。

「オープンがいいんですよ。だから(ルーフ状になる)6点ロールバーも付けてません。ほとんど開けっ放しですけど、普通の雨なら80km/h以上出してれば濡れませんよ。夏場になると、毎年シートベルト焼けができてます(笑)」

有名な走り屋のスポットなどにも行ったりするのだろうか?

「いや、ほとんど行かないです。マンガで取り上げられたところなんて、夜中に渋滞してるんです。ドリフトで遊ぶのはあんまり好きじゃないです。かといって4WDだと事前に向きを変えてやらないといけないし、動きが自然じゃなくて、どうもスポーツの感じがしない。やっぱり軽くて、リヤ駆動のクルマのほうがいいですね」

では、いまのクルマがダメになったとき、何に乗り換えるのだろうか。

「だから他にないんです。結局、NAかNBのロードスターを買うと思いますよ」

伊藤富之さん。給料のうちどのくらいクルマに注ぎ込んでいるかを聞いたが、「真面目に考えると暗くなる」という返事だった

伊藤さんのロードスター"鹿殺し号"。名前の由来は伊藤さんのホームページ参照

ここでは書ききれないほど、あちこちに手が入っている。それでも車検は通る範囲のこと

オープンカーを手にいれる - マツダ ロードスター

マツダ ロードスター(ユーノス ロードスター含む)は現行モデルで3代目。初代から順にNA、NB、NCと呼ばれる。'89年9月に登場した初代NAは1600cc(NA6C型)だったが、'93年9月に安全対策で重くなったボディに対し、1800ccに排気量アップした(NA8C型)。NA型はリトラクタブルヘッドライトが特徴。つるんとした丸っこいスタイルで、いまでも人気が高い。というか、いまになって人気が高まっている傾向にあるようだ。

中古市場で見ると、このNAもそこそこ数はある。登場からすでに18年も経つため、安いものは10万円程度から、上も100万円程度で購入できる。しかし初期のNA6C型はさすがに古い。こつこつ自分で直しながら乗るのならいいが、あちこちが傷んでいる可能性も高い。また、初期の1600ccモデルはボディ剛性が特に低くヤレやすい。NAで購入するなら1800ccモデルだろう。

'98年1月に2代目のNBにフルモデルチェンジ。ヘッドライトが固定になり、抑揚の強くなったデザインが特徴。といっても中身はNAの正常進化といえるもので、パーツも多くが共有されている。NBのガラスリヤウィンドウがNAにも装着できるのは有名な話だ。また、NBは1600cc(NB6C)と1800cc(NB8C)が並売された。その後'00年7月のマイナーチェンジでさらにボディが強化され、NB2型になった。モデル末期の'03年にはスチールの屋根を乗せたクーペモデル、'04年にはターボモデルも登場しているが、数は少ない。

現在、ロードスターの中古となると、このNBが選択の中心になるだろう。価格は45万~198万円あたり。クルマの程度により価格が決まるという、健全な中古市場ができ上がっている。カスタマイズについてもパーツは非常に多く、自由度が高い。狙い目はNBの1600cc、マニュアル車だ。このエンジンは1800ccよりも軽快に回り、乗っていて楽しい。価格も少し安めだ。ただし「NR-A」モデルは1600ccだがレース用スペシャルということで、中古でも非常に高価。

'05年8月に現行の3代目・NC型にモデルチェンジしたが、中古は160万~310万円とまだ高く、新車とどちらにすべきか迷うところ。また、NCでボディやエンジンが完全に新しくなったため、パーツ類もまだ少ないのが現状だ。

'89年9月に登場した初代ロードスター(NA6C)。海外での名称は「MX-5 Miata」

ボディが補強され、1800ccになった(NA8C)。これは'94年7月に登場したRSリミテッド

'98年1月にフルモデルチェンジし、NB型に。しかし基本構造などはNAに近い

'02年7月にマイナーチェンジが施され、NB2型に。外観上の違いは非常に少ない

中古ロードスター選びのポイント

ロードスターのエンジンは非常に頑丈だ。口の悪いロードスター乗りは「農耕車のエンジン」と言う。ボアアップのようにエンジンの中まで手を入れていれば話は別だが、そういったロードスターは多くない。吸排気系や電気系のチューニング程度ならエンジンはまずへたらない。単純に走行距離で判断すればいいだろう。

もちろんオイル交換はキッチリやってないと、どんなエンジンでもダメになる。オイルキャップを取って、オイル管理のまめさ具合のチェックしよう。内側が地肌のきれいなアルミ色のままなら交換は完璧。茶色になっている程度ならいいが、黒かったらオイルに無頓着だった証拠。避けるのが無難だ。

ロードスターで注意すべきはボディだ。まずはトランクルームの内装を剥がし、底が錆びて無いかをチェック。サイドシル部分も水抜き穴に泥が詰まりやすいため、錆がないか見てみよう。ここが錆びていると中が腐っている可能性もある。また車高を下げていたクルマは下まわりをこすりやすい。そこから錆びていることもある。

ロードスターは走り好きに乗られていた可能性も高い。たとえばトランクの底に妙な穴が開いていれば、以前ロールバーを付けていた証拠。つまり激しく乗られた可能性があると判断できる。

オープンで気になる幌だが、ロードスターの幌はそこそこ丈夫。幌そのものよりも、ボディとの接合部やウェザートリップ部分が傷みやすい。幌の丸ごと交換となると、部品+工賃で10万円近くかかる。そのほかでは、HLA(Hydraulic Lash Adjuster:バルブクリアランスの調整機構)、クラッチレリーズシリンダー、パワーウインドウなどがロードスターの弱点と言われている。特に初期のモデルでは注意したいところ。

いいロードスターを見つけてほしい。

'03年10月に登場したマツダ ロードスター クーペ。受注生産だった

'04年2月に登場したマツダ ロードスター ターボ。350台の限定発売

'05年8月にフルモデルチェンジし、3代目ロードスター登場(NC型)

'06年8月に追加されたRHT(パワーリトラクタブルハードトップ)モデル