当連載は今回が300回。読者の皆様のご愛顧に感謝し、「300」にちなむ車両を探してみた。有名なところでは新幹線300系などがあるけど、ユニークな用途として、豚を運ぶ専用の貨車「ウ300形」があった。記号の「ウ」には諸説あるようだ。この話題を深掘りしつつ、そのほかの貨車の記号も紹介しよう。

貨車にもさまざまな種類が(写真はイメージ)

貨物輸送の主役がコンテナ方式になる前は、屋根付きの貨車「ワ」型と、屋根無しの貨車「ト」型が主流だった。「ワ」型は「ワゴン」の略で、「幌付き馬車」の英語に由来する。日本語では「有蓋車」という。汎用性が高く、箱物など雨に濡れてはいけない貨物を搭載した。後年は大型化されて、フォークリフトを使って荷物を載せたパレット(すのこ状の板)ごと積み降ろしできた。

「ト」型の由来は「トラック」。まさにトラックの荷台のような構造で、建材などの輸送に使われた。雨に濡れてもかまわないものを運んだ。日本語では「無蓋車」という。「蓋」はフタという意味で、貨車の屋根のこと。つまり、屋根があれば有蓋で「ワ」、屋根がなければ無蓋の「ト」だ。

鉄道の貨車は有蓋車「ワ」型と無蓋車「ト」型を主流として、それぞれ用途別に改良され、専用貨車へと発展していく。野菜を運ぶために風通しを良くした「通風車」(記号はツ)、ガソリンなど液体を運ぶ「タンク車」(記号はタ)、自動車輸送用の「車運車」(記号はクルマのク)。砂利など運ぶ「ホッパ車」は、積み荷を下に落とすホッパー構造に由来して、記号は「ホ」だ。

おもな貨車の種類と用途・由来

貨車の種類 記号 用途・由来
油槽車 アブラのア(昭和3年の規定改正で廃止)
漁運車 ウオのウ(昭和3年の規定改正で廃止)
豚積車 ヴタのウ、「ブウブウ」のウ、「ウシ」のウなどの説
家畜車 カチクのカ
カイ 石灰車 セッカイのカイ(昭和3年の規定改正で廃止)
カグ 家具車 カグ(昭和3年の規定改正で廃止)
車運車 クルマのク
ケタ 鉄桁運搬車 テツケタのケタ(昭和3年の規定改正で廃止)
コンテナ車 コンテナのコ
コク コークス運搬車 コークスのコとク(昭和3年の規定改正で廃止)
大物車 重量物運搬用、ジュウリョウブツのシ
シャ 車運車 シャ(昭和3年の規定改正で廃止)
有蓋車 スチールのス。屋根が木造、側面が鉄製の有蓋車を区別した
石炭車 ホッパ車と似た構造の石炭専用車。セキタンのセ
セキ 石運車 セキウンのセキ(昭和3年の規定改正で廃止)
タンク車 タンクのタ
タス 炭水運搬車 タンスイのタ・ス(昭和3年の規定改正で廃止)
材木車 積荷の木材の英語チンバーのチ(昭和3年の規定改正で廃止)
長物車 ナは使われているため、積荷の木材の英語チンバーのチ
土運車 ツチのツ(昭和3年の規定改正で廃止)
通風車 ツウフウのツ
有蓋車 テツのテ。木造貨車が多かった時期に、鉄製の有蓋車を区別した
無蓋車 トラックのト
トチ 材木兼用車 チラックのトとチンバーのチ(昭和3年の規定改正で廃止)
活魚車 ナマサカナのナ
家禽車 禽は鳥。家畜に対して家禽。カは家畜車に使われているため、英語のパルトリーのパ
ホッパ車 英語でじょうご構造を表すホッパーのホ
陶器車 トウキのトは使われているため、陶器の英語ポッタリーのポ
水運車 タンク車のうち、蒸気機関車の基地へ水を運ぶために使われた。ミズのミ
馬運車 ムマ(馬)のム(昭和3年の規定改正で廃止。後にムが車両重量の基本基準記号となり、ム・ラ・サ・キが定められた)
土運車 ジャリのシは使われているため、末尾のリ
冷蔵車 レイゾウのレ
レソ 冷蔵車 レイゾウのレとゾ(昭和3年の規定改正で廃止)
有蓋車 ワゴンのワ。当初は木造のみ、後に鉄製も含めた有蓋車すべて

このように、貨車の用途記号は「積み荷に由来する言葉の頭文字」がおもに採用された。その中で異端ともいえる名前が、豚積車の「ウ」だ。「ウ」の由来はおもに3つあって、「ブタ」のブを「ウ」の濁点にした「ヴ」とした説、豚の鳴き声の「ブウブウ」の「ウ」という説、「ウシ」の「ウ」説がある。貨車に関する鉄道の本を見ても意見が割れている。

「ヴタ」説、「ブウブウ」説はかなりこじつけっぽい。しかし豚に由来している。他方の「ウシ」は豚ではない。「豚だけではなく牛も積んだから」というわけでもないようだ。豚積車は構造的に牛を積めなかった。内部は2階構造で、背の低い家畜を載せるために設計されていた。牛や山羊など背の高い家畜を運ぶためには、別に「家畜車」が存在した。記号は「カ」だった。

当初、すべての家畜は有蓋車で運んでいた。しかし有蓋車は通気性が悪く、夏場は温度が上昇する。生きているから餌を与える必要もあるし、糞尿も掃除しなくてはいけない。そこで、有蓋車を元に改良し、床の水はけを良くし、壁にすき間を空けた車両が家畜車だ。引き扉は後に吊り構造に改良された。家畜車は床に藁を敷くから、引き戸のレールに藁が詰まると開閉しにくくなるからだ。

そして家畜の中でも背の低い豚や羊を運ぶため、豚積車が作られた。2階構造にして搭載量を増やし、世話をする付き添い役のために小部屋が設けられた。外観は通風車に車掌室を設けたような姿だったという。豚を運ばないときは通風車としても使われたようだ。また、2段構造は積荷が壊れにくく、後の陶器用貨車の参考となった。

「ウシ」説によると、この「豚積車」を家畜の「カ」とし、従来の家畜車を牛の「ウ」とする予定があったという。家畜車は事実上、牛の専用車になっていたからだ。家畜車から「豚積車」が生まれたように、ニワトリなど鳥類専用の「家禽車」や、生きた魚を運ぶ「活魚車」も作られた。ちなみに馬は有蓋車の輸送に留まり、家畜車に移行しなかった。馬は景色が見えると興奮して暴れるからだという。同じ理由で牛も景色を見せない方が疲れにくいとされ、後年の家畜車は牛の目線にはすき間を作らなかった。

牛専用とはいえ、家畜車はすでに大量に作られており、「カ」から「ウ」への記号の書き換えは困難になっていた。そこで、家畜車の「カ」はそのまま残し、新しくできた豚積車のほうに「ウ」を転用したという。

豚なのに牛の名の貨車に乗せるなんて、豚さんに失礼じゃないか! という声が上がったとか、上がらないとか。もっとも、現在は家畜車も豚積車も消滅している。冷蔵技術の発達によって、精肉の冷蔵輸送が主流となった。貨車も冷蔵車が登場し、現在の冷蔵コンテナに引き継がれている。鉄道貨車で生きたままの家畜を長距離輸送する時代は終わった。

現在はコンテナ輸送が主役。ただし、専用貨車の製作の工夫や考え方は、コンテナ貨車に搭載する各種の「専用コンテナ」に引き継がれているといえそうだ。

※写真は本文とは関係ありません。