鉄道車両の中で動力を持たず、機関車に牽引される旅客車両を客車という。日本では電車が発達し、非電化区間でも気動車が主流のため客車列車は少ない。現在は寝台列車やSL列車などに使われている。そんな貴重な客車列車の中に、こっそり電車が紛れ込んでいるらしい。正しくは電車を改造した「元電車」だという。さて、どこにあるのだろう。

わたらせ渓谷鉄道「トロッコ列車」。両端は旧国鉄12系客車。中間車は京王電鉄の電車を改造した車両

わたらせ渓谷鉄道のトロッコは京王電鉄5000系

関東近辺で電車を改造した客車が走る路線は2つ。どちらも紅葉が見事な路線だ。1つ目はわたらせ渓谷鉄道(群馬)の「トロッコわたらせ渓谷号」に使われている。この列車はディーゼル機関車が客車4両を引っ張る編成だ。このうち、両端の車掌室付きの車両は旧国鉄の12系客車。つまり生粋の客車である。

しかし中間のトロッコ車両は、京王電鉄の5000系電車を改造した車両である。窓は大きくなって自動ドアはなくなり、座席も交換されて塗装も変わっていることから気付きにくいのだが、側面から屋根にかけての造形や連結面に電車時代の面影が残っている。

わたらせ渓谷鉄道「トロッコ車両」の室内。トンネル内走行中はイルミネーションで彩られる

旧型客車王国「大井川鐵道」に紛れ込む、元西武鉄道の電車

もう1つの「元電車」は、SL列車で有名な大井川鐵道にある。大井川鐵道はSLを運行するだけあって、SLが活躍した当時の旧型客車も数多く活躍している。ところが、それらのシンボルともいうべき展望車「スイテ82形」が、西武鉄道の501系電車を改造した車両なのだ。この車両に連結して運行される「ナロ80形」も、西武鉄道の501系やサハ1411形を改造した車両だという。こちらも様変わりしているが、2段窓にかろうじて当時の雰囲気が残されている。

大井川鐵道「ナロ80形」

同「スイテ82形」

わたらせ渓谷鉄道のトロッコ列車も大井川鐵道の展望車も、都会の通勤電車として活躍した後、風光明媚な土地でセカンドライフを送っている。「ああ、人生もこうありたい」と、ため息をついてしまうのは筆者だけではないだろう。