これまで、東海道・山陽新幹線のネット予約システム「エクスプレス予約」は、専用のクレジットカードを持っていないと使用できなかった。最近になって、一部のクレジットカードで使用されていた「プラスEX」(ただし制限が大変厳しく、割引率も低かった)が「エクスプレス予約」に統合され、サービス内容がほとんど変わらなくなった。

それでも、新しい「エクスプレス予約」にも、主要なクレジットカードしか使えないという制限がある。また、「エクスプレス予約」専用のICカードを申し込んでも届くまでに10日~14日程度の時間がかかり、急に出かけるときには対応できないという問題もある。

すぐに使える「スマートEX」

そんなとき、「駅の窓口や自動券売機で買えるじゃないか」といわれるのは、もっともなことだ。乗車直前であっても、3列席の真ん中のような、条件の悪い席ならば空いているかもしれない。また、東海道・山陽新幹線は本数が多いので、直前の席の確保にも混雑時以外ならば苦労しないかもしれない。

たしかにそれはそのとおりである。しかし、急な出張でも、新幹線をスマートに手配できるという方法があることを知っておくのも、大事なことではないか。

9月末に、東海道・山陽新幹線は「スマートEX」という新しいサービスを提供するようになった。これは、ふだん使っているSuicaやPASMOなどの交通系ICカードで新幹線に乗れるようになる、というものである。改札に交通系ICカードをタッチし、改札から出てくる乗車票を受け取り、そこに記されている席に座る。「エクスプレス予約」より価格設定はやや高いものの、登録してすぐに予約することが可能だ。

では、どんな場合に「スマートEX」は便利なのか。たとえば、都心部の会社に勤務し、東京メトロだけで通勤している人がいるとしよう。そういう人が、翌日の大阪出張を命じられた。帰りにJRの駅できっぷを買う、ということもできそうだが、人によってはまったくJRの駅と交差しないということもあるだろう。

その場合、「スマートEX」が有効だ。クレジットカードを持っているのなら、どんなカードでもかまわない。クレジットカードと交通系ICカードをパソコンまたはスマートフォンで登録し、予約する。これで、チケットレスでの東海道新幹線の利用が可能になる。

「スマートEX」のメリット・デメリット

「スマートEX」は、すぐに登録することができるというメリットがある。また、「エクスプレス予約」が使用できないクレジットカードでも、東海道・山陽新幹線にチケットレス乗車できるというメリットもある。

一方で、「スマートEX」は「エクスプレス予約」に比べて、割引額が低いというデメリットもある。東京から新大阪まで、「スマートEX」なら14,250円。「エクスプレス予約」なら、13,370円だ。明らかに「エクスプレス予約」のほうがいい。ちなみに、ふつうにきっぷを買うと、14,450円だ。

「スマートEX」であれ「エクスプレス予約」であれ、気をつけなければいけないことがある。新幹線のきっぷで買う場合、乗車券は「東京23区内」「大阪市内」などと、そのエリアならどこで降りてもいいような制度になっている。たとえば新大阪駅で新幹線を降りて、大阪駅まで乗車しても、運賃は変わらない。

「スマートEX」や「エクスプレス予約」の場合、運賃と特急料金が一緒の料金体系になっている。新大阪駅で新幹線を降り、大阪駅まで行くと、そのぶんの運賃が別にかかるのだ。 この程度の距離なら、問題はないかもしれない。しかし、東京駅で新幹線に乗る場合、金町駅や西荻窪駅といった、23区内だけれども東京駅から離れているJR東日本の駅から利用すると、「スマートEX」だと紙のきっぷを使用するほうが安くなる。もっとも、こういったJR東日本の駅なら、「みどりの窓口」や自動券売機があるから、問題はないのかもしれない。 都心部の職場に通っている人の場合、乗りかえ駅か最寄り駅まで定期券を使い、そこから東京駅まで交通系ICカードで乗車、その交通系ICカードを利用し、新幹線へ。こういった使い方が、現実には想定されているのだろう。

ふだんは出張を命じられないような人、初めて出張を命じられるような人でも、急な出張に対応できる「スマートEX」。もし、東海道・山陽新幹線の予約をどうしようか、と考えている人がいれば、頭の片隅に入れておいていただきたい。

著者プロフィール: 小林拓矢
1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学卒。フリーライター。大学在学時は鉄道研究会に在籍。鉄道、時事社会その他についてウェブや雑誌・ムックに執筆。単著『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。ニッポン鉄道旅行研究会『週末鉄道旅行』(宝島社新書)に共著者として参加。

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