第一回で解説したように、サーフィンが可能な波とは、沖からやってきたうねりが一定の水深に達したときに崩れてできるものなので、水深を左右する潮の満ち引きは波のコンディションを大きく左右します。今回は、この潮の満ち引きの話です。

気象庁のWebサイトで見られる潮見表

地球上のすべてのサーフポイントは、一日に2回、干潮と満潮を迎えます。満潮から干潮までの海面が下降する状態を「下げ潮」または「引き潮」と呼び、干潮から満潮までの海面が上昇する状態を「上げ潮」または「満ち潮」と呼びます。波のコンディションが上向くのは、潮が下げ潮もしくは上げ潮の、水が動いている「ミドルタイド」の時。上げ潮が続いて、満潮を迎えると潮が止まり、波が立ちにくくなります。この時間帯を「上げ止まり」とか「上げいっぱい」等と呼びます。波乗りの休憩時間ですね。また、下げ潮の時には「掘れる波(斜面が急な波)」になりやすい傾向があります。さらに、干潮に近づくと海水が少なくなり、運動する水の量が減って波が小さくなったりします。

いいコンディションの時間帯を選んでサーフィンするためには、潮見表(潮汐表・タイドグラフなどとも言う)を見て潮の満ち引きを把握しておくことが非常に重要なのです。満潮時間/干潮時間は、各地で時差があります。北海道と沖縄では約2時間もの差がありますので、自分が行く海の潮の時間をしっかりと意識して、潮が動く時間帯にサーフィンするようにスケジュール調整を行ってください。潮見表はインターネット上のWebサイトで見ることができ、サーフショップなどでも無料配布されている冊子にも掲載されています。最近では、潮見表が見られる時計や携帯電話も登場しているようです。

au携帯電話「G'zOne W62CA」(カシオ計算機製 7月以降発売予定)。国内100地点のタイドグラフを表示する機能が内蔵されている

さらに、潮汐現象が天体の動きによって起こるしくみを理解してみると、サーフィンという遊びのスケールの大きさを感じることができるでしょう。海にいなくても、月を見て潮がわかるのです。

宇宙の法則が潮の満ち引きを起こす

そもそも、潮の満ち引きは、地球に常に働いている、月/太陽の重力と、月と地球の相互公転による遠心力によって起こります。地球上の月に最も近い所では、月の引力が遠心力よりも大きく、海面は月の方へと引かれます。月と反対側の面では月の引力が小さく、海面は相互公転による遠心力によって、月と反対の方角へ押し出されます。そのようして地球は、ラグビーボールのような楕円体になるのです。この楕円体のふくらみの部分が満潮、中間地点が干潮です。このように月の重力と公転の遠心力が働いている状態で1日に1回転(自転)するので、満潮と干潮が二回ずつ起こるのです。

月と地球は共通重心と呼ばれる1点を中心にお互いの周りを公転しており、常に月があるのと逆の方向に遠心力が働いている

ところで、月だけでなく、太陽もその重力で地球を引っ張っています。ただし、地球からの距離がはるかに遠く、地球の太陽側とその逆側の距離(=地球の直径)の差に起因する引力の差が、近くにある月の場合よりもはるかに小さいため、地球を変形させる力は月の方が大きいのです。

とはいっても、まったくないわけではありません。そのため、地球と月が約27日間かけて互いの周りを一周する間に、地球と太陽と月が1直線に並ぶ日には、地球を変形させる力は最大になり、干満の差が大きくなります。これが、月の暦の満月か新月、海の大潮です。3天体が地球を基点とした直角になるときは、月は半月(下弦/上弦の月)で海は小潮。太陽と月が垂直方向に海面を引っ張るので干満の差は小さくなります。そして、大潮と小潮の間の期間を中潮と呼びます。小潮を1~2日過ぎた頃には干満の差が小潮よりもさらに小さくなり、もっとも潮が動かない「長潮」、これを過ぎて次第に干満の差が大きくなっていく期間が「若潮」です。

大潮/小潮のときの太陽・地球・月の位置関係。月と太陽の引力が一直線上に集合する時、地球が最もダイナミックに変形し、潮の干満の差が最大になる。また、月と太陽の引力が直角に分散されると、地球の変形の度合いが小さく、干満の差もまた小さい

G'zOne W62CA では、月齢や地球/月/太陽の位置関係も見ることができる

この潮汐を推算して表にまとめたものが潮見表。海にいないときも潮見表を気にしつつ、母なる地球や宇宙の動きをも感じながら日々を過ごすのが、本当の「サーフィンライフ」といえるかもしれません。

潮が動くときにサーフィンするのがよいわけですから、干満の差が激しい大潮はねらい目ということになります。ただし、気象との兼ね合いで危険な状態になることもあるので、前回解説した気象のチェックはくれぐれもお忘れなく。また、「大潮の引きいっぱい」では、磯が出てしまってサーフィンができなくなることもあります。

著者プロフィール

奥田みゆき(オクダ ミユキ)
サーフィン歴25年。ボディーボードからスタンドアップパドルでのサーフィンまでを多彩にこなす。オクダスタイルサーフィングで15年以上サーフレッスンを行い、初めての受講者のほとんどを自力のパドリングでテイクオフさせることで有名。冬期はスノーボードのレッスンも行っている、天性のインストラクター。初心者でも中級者以上でも確実にレベルアップさせてしまう、そのノウハウは自己流、なればこそオクダスタイル。

(イラスト 長岡伸行)