インターネット上で見かける「これ、本当? 」などと感じる健康に関する「都市伝説」の真偽に迫る本連載。今回のテーマは「歯磨きのタイミング」だ。
私たちは生きるために毎日食事をする。1日3食をきっちり食べると、年間で1,095回の食事回数になる。厚生労働省の調査によると、2014年の日本人の平均寿命は男性80.50歳、女性86.83歳。単純に計算して一生涯で男性なら8万8,000回以上、女性なら9万5,000回以上も食事をしていることになる。こうしてあらためて見ると、すごい数字だ。
そして、食事とセットになるといえば歯磨きだ。自分の歯でしっかりと食べ物を咀嚼(そしゃく)できることは、当たり前にみえてとても幸せなことだ。その「当たり前の幸せ」を享受できるよう、私たちはしっかりと歯を磨いて虫歯などのリスク低減に努めている。子どもの頃に「食べたらすぐに歯を磨きなさい」と何度も親から言われた人も多いはずだ。
ところが、その習慣を守り成人した後、インターネットでこのような都市伝説を見かけてがくぜんとした人はいないだろうか。
「食後すぐの歯磨きはNG」。
もしこれが本当だったとしたら、幼い頃から「NGな習慣」をするよう言い続けてきた親への怒りが収まらなくなりそうなのだが……。そこで、真相を探るべくM.I.H.O.矯正歯科クリニック院長の今村美穂医師に話を伺ったところ、「ある意味でこの考えは正しいです」との答えがあった。マジか!!
「糖分や炭酸を摂取した後は、特に口の中が酸性に傾きます。一般的にph値5.5で、歯の石灰質が溶け始めるとされていますが(平常時は6.7前後)、唾液にはこの酸性状態を中和する作用があります。また、唾液には石灰質を修復するミネラルが含まれているため、唾液量が多い人は虫歯になりにくい傾向があるほどです。そのため、唾液がよく出ている食後30分以内は、むしろ歯磨きを控えた方がいいという意見もあります」。
そうだったのか……。やはり、必ずしも食後すぐに歯を磨かなくてもいいと。おかんに「歯を磨け! 」と怒られ続けたあの日々はなんと不毛だったことか……。では、食事をしてから最適な歯磨きタイムはいつ頃なのだろうか。
「実際、食後のコーヒーやデザートを食べると少し時間をおくことになり、その後でゆっくり歯磨きしたくなります。ゆっくりできるようであれば、毎食後30分ほどたって1日3回磨けば効果的でしょう」と今村医師。
時間がないビジネスマンやキャリアウーマンならば、その日のうちに1回だけでも、特に夜寝る前にしっかりと歯を磨くことが大切。そして何より、食材をしっかり咀嚼し、口の中に食べ物を残さないようにすることがまず基本だと覚えておこう。
※写真と本文は関係ありません
記事監修: 今村美穂(いまむら みほ)
M.I.H.O.矯正歯科クリニック院長、MIHO歯科予防研究所 代表。日本歯科大学卒業、日本大学矯正科研修、DMACC大学(米アイオワ州)にて予防歯科プログラム作成のため渡米、研究を行う。1996年にDMACC大学卒業。日本矯正歯科学会認定医、日本成人矯正歯科学会認定医・専門医。研究内容は歯科予防・口腔機能と形態及び顎関節を含む口腔顔面の機能障害。MOSセミナー(歯科矯正セミナー、MFT口腔筋機能療法セミナー)主宰。