福井県の地方私鉄、えちぜん鉄道と福井鉄道の相互直通運転開始から半年が過ぎようとしている。福井新聞の報道によると、開業1カ月の集計では、両鉄道にまたがる「連絡乗車券」が前年同期比約3.78倍の2,544枚。定期券は約2.85倍の124枚で、うち通学定期券は76枚の増加。回数券は約2倍の77枚だったという。

通学定期券の増加は、福井鉄道沿線からえちぜん鉄道との結節点だった田原町駅で降りていた高校生と大学生が、相互直通運転によって1駅隣のえちぜん鉄道福大前西福井駅まで乗るようになったからといわれている。いままでは1駅分歩いたけれど、電車が直通し、割引もあるため、直通先まで乗ってくれる。

開業3カ月間の乗車人数は前年同期比の約3倍を維持。共通1日フリーきっぷや片道乗車券の利用者は減少傾向で、開業ムードは落ち着きつつある。しかし9月7日の福井新聞によると、えちぜん鉄道と福井鉄道の通勤定期利用者は毎月10%前後の伸びを示しているとのこと。えちぜん鉄道では駅前にクルマを停め、電車に乗り換えるパークアンドライドも定着。相互直通運転をきっかけに、他の区間でもクルマから電車への移行がみられるようだ。

福井鉄道の福井駅停留所。福井鉄道・えちぜん鉄道の相互直通運転開始と同じ3月26日に移設開業した

福井県、えちぜん鉄道、福井鉄道は、今年度の相互直通運転利用者を約4万5,000人と見込み、2018年度までに10万人増やすという大きな目標を掲げている。そして次の課題として、福井鉄道の通称「ヒゲ線」の環状化に取り組むようだ。9月10日の福井新聞によると、福井県は9月補正予算案に、調査費300万円を計上したという。

「ヒゲ線」とは、福井鉄道福武線の市役所前停留所から分岐する支線だ。駅前線とも呼ばれている。相互直通運転開始と同じ日に、福井駅前停留所からJR福井駅寄りに143m移設し、福井駅停留所とした。ヒゲ線は単線で、福井駅前停留所は1面1線(ホーム1面、線路1本)だった。福井駅停留所は3面2線となって、電車の到着後すぐに待機していた電車が発車できる。単線は変わらないけれど、運行間隔は短縮できるようになった。

福井県はこのヒゲ線をさらに延長して、別の地点で福武線に合流させて環状運転を実施したい考えだ。今年3月に福井県が策定した「福井県高速交通開通アクション ・プログラム」にも盛り込まれている。将来の北陸新幹線敦賀延伸開業や、中部縦貫自動車道の福井県内全線開通などを見越して、福井県内の交通ネットワークを整備する構想だ。この中の「新幹線駅の拠点機能強化と地域公共交通の革新」という項目の中に、「福井市中心部における歩行者と鉄道が共存できる空間や市内循環鉄道の整備を検討」とある。

福井鉄道「ヒゲ線」と環状線延伸計画(筆者予想)

ヒゲ線を延長して循環鉄道(環状線)を作るとしたら、どんなルートになるだろうか。おもな選択肢は3ルートになると思われる。福井駅停留所から北方向へは「お泉水通り」を使うとして、福武線へ合流するために、どこで西方面へ向かうか。南側から、福井城址北側の県道114号線、松本通り、西本願寺南側・西本願寺北側が考えられる。これより北は、えちぜん鉄道の三国芦原線が東西方向にあるため、平面交差を2つも作らないと超えられない。もし超えられるなら、東環状線ルート、さらに北側の国道416号線南側ルートも視野に入る。国道416号線そのものには乗り入れたくない。交通が輻輳しそうだ。

ここまで挙げたルートを南側から検討しよう。福井城址北側ルートは最も小さな環状線になる。整備する距離は約1.5km。徒歩でも行き来できる距離だ。しかし、意外にも効果は大きい。なぜなら福井駅停留所の折返しがなくなり、福武線~支線~福武線の運行が円滑になるからだ。環状線を一方通行にすれば運行間隔も短縮でき、増発も可能になる。

松本通りルートの整備距離は約1.9km。道路の幅が広く、福武線の合流ポイントの交差点も大きい。敷設しやすいルートである。国の名勝の日本庭園「養浩館庭園」の近くを通る。松本通り沿道は雑居ビルや住宅、老舗の店舗が多い。路面電車の開通後、時間がかかりそうだけど、にぎやかになりそうだ。

西本願寺南側・西本願寺北側ルートは、西本願寺福井別院、福井市体育館、大型スーパーマーケットがあり、一定の需要が見込める。西本願寺北側はえちぜん鉄道三国芦原線に近いので、西本願寺南側のほうが鉄道空白地帯の解消に貢献するだろう。ここまで延伸すると整備距離は約2km、環状ルート全体で約3.5kmになる。富山地方鉄道の環状線ルートとほぼ同じ距離だ。

えちぜん鉄道を平面交差してさらに北側を経由するルートは、福井県立歴史博物館、幾久公園、幾久緑地公園など市民の憩いの場や、国道416号線付近でロードサイド型店舗付近を通る。鉄道空白地帯の解消につながるし、パークアンドライド設備を用意すれば、福井の自動車流入を減らせるかもしれない。ここまで延ばすと、単線で整備するとしても一方通行は厳しい。途中にすれ違い可能な停留所を設けたい。

鉄道空白地帯の解消という意味では、松本通り案を福武線の西へ広げる案もある。福井工業大学まで到達できれば、通学生にとって便利になりそうだ。もっとも、風呂敷を広げすぎると建設費が膨大になる。費用対効果の面で不安も大きくなる。環状線の距離は約6.7kmだ。大胆な案ではあるけれど、札幌市電のループ区間約8.9kmに比べれば小さい。

最大の問題は、福井県は都道府県の幸福度ランキング上位で、それだけに自動車保有率が高くクルマ社会になっていること。路面電車建設は自動車交通にとってマイナス要因になりかねない。過去には大阪府堺市の東西交通LRT案について、沿道店舗への自動車による物流が阻害されるという反対意見があった。このLRT計画は立ち消えになった。栃木県宇都宮市のLRT計画は進んでいるけれど、やはり自動車・バス交通を支持する人々の反対は根強い。

福井県も高齢化社会を迎えており、自動車保有率が減少、自主的な免許返納も多いという。しかし、現在はクルマの恩恵を受けている人のほうが多い。トランジットはクルマを閉め出す。自動車交通を無理矢理路面電車に置き換えようとしても支持されない。パークアンドライド用の駐車場整備、駐車場や商店利用者への運賃割引など、クルマと共存できる方策が必要だ。