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鉄道ニュース週報

3 さようなら熊本電鉄「青ガエル」、東急東横線のエースだった

 

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熊本電気鉄道は1月8日、5101A号車の引退を発表した。最終運行日は2月14日とのこと。この文章だけだと、地方私鉄にありがちな旧型車の引退にすぎず、鉄道ファン向けのニュースに終わってしまいそうだ。しかしこの電車、出自は東急電鉄だ。東京・渋谷駅前で忠犬ハチ公像と並んで知名度の高い緑色の電車と同じ。そう言われると、東京の人々にも胸に響く知らせかもしれない。

下ぶくれの丸顔で、ややタレ目のサングラスを思わせる2枚窓。愛嬌のある顔つきの古い電車が、熊本電鉄では現役で走っている。しかし老朽化のため、ついに引退、熊本電鉄は動態保存するという。東急時代を知る人にとっては懐かしく、思い出も多い。

熊本電気鉄道5101A号車(2008年8月撮影)。かなりくたびれている印象だった。この後8年間も走り続けたとは驚き。ていねいに整備されていたようだ。先頭車1両で運行するため、反対側の面も改造して運転台が作られた。「平面ガエル」と呼ぶ人もいる

熊本電鉄5101A号車は、東急電鉄で活躍した時代には5000系と称した。東急電鉄は現在、5000系という新型電車が走っているけれど、これは形式番号としては2代目となる。ここからは初代5000系を5000系として話を進める。

東急5000系は1954(昭和29)年に登場した。当時としては画期的な技術を採用し、東急としても、その後の鉄道業界に対しても転機となる電車だった。わかりやすいところから説明すると、東急では初めて、専用の中間車を製造し、先頭車・中間車・先頭車という「統一した編成」を実現した電車だ。それまでの3000系は古い電車の寄せ集め。戦時合併によって成立した「大東急」のうち、現在の東急電鉄にあたる路線の車両を3000番台でくくっただけだった。当初から「系列」として設計された電車は5000系が初である。

5000系は当初、3両編成でデビュー。翌年の1955年から、東横線の急行電車をおもな任務とした。東横線は東急にとって本線であり、その急行といえば東急の大看板。5000系は東急のエースとして活躍した。その後、輸送力増強のため、中間車を加えて4両編成となり、増結用の2両編成なども追加された。全盛期は最大6両編成で運用されたという。

技術的にも多くの画期的な技術が盛り込まれた。最も大きな革新は、従来の「吊り掛け駆動式電動車」から「カルダン駆動式電動車」への進化だ。吊り掛け式とは、モーターを台車の枠内に置き、車軸と台車枠に吊り掛けた状態。モーターの歯車と車軸の歯車が直結されている。動き出すときに「ウォォォン」と大きな音がでる。カルダン式も台車枠内にモーターを配置するけれど、モーターを車軸と直角に配置して、プロペラシャフトとスパイラルギアで車軸に動力を伝達する。この方式は機構が複雑な反面、台車枠いっぱいに大きなモーターを搭載できるため、電車の性能を大きく向上させた。この時期、多くの電車がカルダン駆動式を採用した。高性能電車時代の幕開けだった。

丸みのある車体にも理由がある。航空機の機体に用いるモノコック構造を採用し、鋼鉄製車体の大幅な軽量化を実現した。軽量化は電車の加速度向上に大きく貢献した。ただし、その構造が仇となって、最後まで冷房化の改造が行われなかった。これは実験的な試みだったかもしれない。他の車両への採用例も少ない。東急は本系列の後、車体の軽量化をステンレス製車体に見出した。5000系に似た5200系、6000系など実験的な車両を作った後、7000系以降の本格的なステンレスカーを主力とした。

5000系は後進に道を譲り、東横線から田園都市線へ、田園都市線から大井町線、目蒲線へ転属した。その頃、筆者は東急沿線に住んでおり、大井町線の5000系によく乗っていた。しかし、その功績を知らず、敬いもせず、登場したばかりの8000系冷房車を「当たり」、緑の5000系を「ハズレ」と思っていた。利用者にとっては、新型車に対する旧型車の印象はそんなものだ。ちなみに、「青ガエル」「雨がえる」というニックネームは鉄道ファンが使っていて、筆者の中学の同級生をはじめ、地元では「おにぎり電車」と呼ぶ人が多かった。

やがて5000系は東急の路線から引退し、地方私鉄へ譲渡されていく。軽量で高性能な5000系は、地方私鉄に人気の中古車となった。このうち、熊本電鉄の5101A号車だけが最後まで現役で走り続けた。筆者が熊本で「再会」したのは2008年夏。懐かしいと思う反面、やはり南国の酷暑の車内は居心地が悪い。地元の人々が冷房のない電車を喜んでいるとは思えなかった。その後、5101A号車は週末のみの運行となったと聞き、ほっとした。古い電車を懐かしむ観光客へのサービスとして妥当な頻度だ。

旧型車の引退は寂しいけれど、電車の更新は沿線地域にとってはサービス向上でもある。地方私鉄の古い電車は、観光資源と地域サービスの両立で悩む。東急5000系は他の地域では早々に引退し、冷房車と交代している。

東急5000系は日本の鉄道車両の近代化に大きな影響を与え、次の世代に道を譲って地方へ追われ、最後は観光資源として余生を送った。電車は所詮、輸送の道具。使い捨てられて当然だ。それでも、熊本電鉄はその価値を見出し、最後まで大切に動かしてくれた。保存には「鐵道創研 青ガエル保存プロジェクト」という有志の応援もあった。今後は、営業運転こそできないものの、動態保存としてイベントなどでデモ走行を検討しているとのこと。保存にはそれなりの費用もかかる。観光資源になるとはいえ、熊本電鉄の負担は少なくない。粋な配慮に心から感謝したい。

ところで、渋谷ハチ公前の「青ガエル」は東急5000系の1号車。上田交通(現在の上田電鉄)に譲渡され、引退後に東急で保存されることになって里帰り。現在の位置に鎮座する。渋谷駅は東急グループとJR東日本が大規模な再開発に着手しているけれど、「青ガエル」の去就は未定のようだ。こちらもぜひ、しかるべき場所、できれば渋谷駅の屋根のある場所に残してほしい。

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