構図作りは「本の見開き」を意識して

小さく見えるのはE721系。2006~2007年にかけて、仙台地区の旧国鉄形電車と置き換えられた

この作品の撮影地は、松尾芭蕉の俳句で有名な「山寺」立石寺の五大堂。麓にはJR仙山線の山寺駅があり、車窓からも五大堂がよく見える。「"山寺から見える鉄道"を、撮影しておきたかったんです」と長根さん。東北の新緑が見頃を迎えたゴールデンウイークの後半、休日返上で自宅から車を飛ばしてやってきたのだ。麓に到着したのは15時少し前。1時間に1本程度しか来ない列車の通過時刻が近づいていたため、一目散にここまで登ったらしい。

「新緑は、半逆光で撮るのが理想的だ」という長根さんは言う。しかし、ここでの夕方の光は順光。「新緑の輝きや、地形の奥行きが出ないのは不満ですが、順光には、素材の色が色彩豊かにくっきり写るという利点があります。列車も、黒くつぶれずに写るしね」と、気持ちを切り替えて撮影に臨んだ。

少し余談になるが、一本目の列車は、超広角レンズで五大堂の屋根を入れて撮影した。ここでは紹介できないが『日本の鉄道絶景撮影ガイド』(モーターマガジン社)に掲載されているので、興味のある方は参考に。

その約1時間後に来た次の列車を撮影したのが、この作品である。レンズは28mm。鉄道風景写真に必須の"主題"と"副題"の設定は、「重なり合う山並みと地形の奥行きを主題に、鉄道を副題にしました」とのこと。では、広々としたパノラマの中から、どのようにこの構図を切り取ったのだろうか。それは、感覚的なもので説明が難しいと言いつつも、こんな興味深いお話をうかがうことができた。

「僕が構図を決めるときには、本の見開きを考えます。写真を撮るからには、大きく見開きで使われたいという傲慢さが、構図の安定につながっているんですよ」。その考え方は、下のイラストのような具合である。

条件がよければ"絞り"を絞る

そして、選んだシャッタースピードは1/250。走行中の列車を撮る場合のシャッタースピードは基本的には1/500以上だが、列車が遠くを走っているので見た目のスピードが遅く、さらに、近くにある山寺駅発着直後のため、速度そのものもかなり遅い。「こういう条件であればシャッタースピードを遅くして、なるべく"絞り"を絞って、パンフォーカスがきいた画面にしますよ」と長根さん。絞り値はF7.1。これだけ絞れば、28mmならば十分に画面全体のピントが合う(ISO100)。

絵はがきのようなこの作品の解説をしながら、長根さんはなぜか、だんだん反省モードになってきた。「半逆光なら、もっと地形の奥行きが出るはず。でも、この時刻にしか行けなかったわけだし、他のところも行きたかったし。次の日の朝まで待てればよかったんだけどねえ」。

プロの世界に「これで満足」ということは永遠にないのである。自らを"傲慢"という長根さんの、あくなき写欲に休みはない。そのうち、半逆光で撮影された同じ構図の写真を見られるのかもしれない。